2008/11/23
★パリの恋人たち★
本編連載中に続編のプロット書いちゃうのもな〜と思うんですけど、なんかいろいろシーンが見えてきちゃって、書き留めておきたいので書いとくことにしよう。密かにメモっとけばいいようなものなんだけど、書きたいんだからしよーがない。話をそらされずに、連載の続きが読みたい方は、こちらをクリックしてこの項目をトバして下さいまし。
で、実は、今連載している「告白」の次のEpisode3「発端」、これは前にもディとマイラの話だと書いてましたけど、従ってこれは、うちではめずらくしごくふつーの恋愛小説(になるはずだ)。でも、それが分かってるだけで、そんな「ふつーの恋愛小説」なんて書いたことないから、いったいどんな話になるのかは自分でもナゾだったんだな。さっさと予告しておいて無責任な話ですが、しかし、これまでもそれでここまでやってきてるからなあ。私は自分の人生そのものが行き当たりばったりなヒトですが、小説もやはりそうなりますね。でもいいんだ、結局はそれでまとまるから。
この「発端」っていうのは、ディの3人の息子たちが生まれるそもそもの最初のキッカケは何だったか、という話なんですけど、だからマイラとの出会いから書くことになるのよね。しかし、ディはともかく問題はこのマイラで、息子のメリルも分かりにくいキャラだったが、母のマイラはそれに輪をかけて分かりにくい女。見てるとなんか、ふつーの才女っぽいんだけど、そんなふつーの女とディがつきあうか?
という問題もあって、彼女のキャラは大問題だったんだな。今もまだ、そのへんははっきりしてないんだけど、とにかくとっかかりくらいは掴んだかなって気はする。ま、書いてくうちにまた分かってくるんじゃないかな。
さて、タイトルにした"パリの恋人たち"っていうシーンなんですけど、マイラが仕事でパリに出かけるのと同じ時期に、ディがちょうどスケッチ旅行を計画していて、じゃ、パリで会おうかという話になった。優雅にパリでデートてわけですね。それでディが、昼間は公園でスケッチしてると思うから、仕事が済んだら来なさいよってマイラに言って、そこで落ち合うことになるわけです。
最初に見えて来たのは、この時のディのスタイルで、何の変哲もないセーターにジーンズとブーツ、それにシンプルなジャケットを着てるだけで、クランドルにいる時のお出かけみたいにオシャレに決めまくってないのが返ってすっごくいいんだ。まるで、そのへんによくいる画学生みたいな感じで、スケッチブック抱えて歩いてくるとこが、秋から冬に移り行こうとするパリの公園の背景にぱっちりマッチしてる〜。きゃ〜、すてき〜。(結局、私はミーハーなのよね)
で、ベンチに座って絵を描き始めるんですけど、大画家で伯爵さまなんて雰囲気全くなくて、シュミで絵を描いてるおにーさんって感じがまたいいんだな。この頃はディもまだ、三十代入ったばかりくらいだから、全然若いし(しかし、外見は三人の子持ちになってもあまり変わっていない...)。
とにかく、ディも「絵を描いてればシアワセ」という点においては、メリルをさえしのぐくらいですから、描き始めるとすっかり夢中になっちゃって、回りのことには気がつかない。そこへ、さくさくさく、と落ち葉を踏みながらマイラが公園に入ってきて、えっと、ディはどこ?
と見回し、ふと、ベンチで絵を書いてる彼に目を留める。あれはディに間違いないと、それはもうどこにいようと、どんな格好をしていようと彼が目立たないなんてことはありえないので、彼女もすぐ気づくんですけど、いつもと雰囲気が全然違うので、「あれは本当にディだろうか?」とか思って立ち止まっちゃう。で、見てると幸せそうに一生懸命絵を描いてるんだね。あまりに夢中でシアワセそうなんで、マイラはなんとなく声をかけられずにそのまま見とれてるうちに「ああ、ディって本当はこういう人なんだ」って分かってくる。
確かに、大画家で伯爵さまというキャラをやれるだけの内面性はディには当然あるんですが、実際には彼ってその容姿とか才能とかからくるイメージに反して、基本的に全くシンプルな性質してて、本人は煩わしいことを全部ほっぽらかして、一日絵だけ描いてられたらどんなにいいだろう、と常日頃から思ってるようなやつ。だから、自分の国にいるときのように、四六時中、社交だの、傘下の企業の大株主としてしての仕事だの義務だの責任だの、ディにとっては迷惑なだけの財産管理に追い回される日常から離れて、のんびり絵を描いてる時ほど幸せな時はない。
マイラはそれまでディのその表の顔、つまりすっごく偉いヒトという顔しか知らなかったので、つきあってるとはいえ気後れする部分はすごくあったんだね。でも、目の前の彼を見ていると、本当に絵が好きなんだなあ、という微笑ましい感じだけがあって、できればこのままこういうディだけ見ていたいな、とか思って、彼女は少し離れたところに立ったまま、寒い中をずーっと彼が気づくまで見てる。すると、しばらくしてディの方が気づいて、おや?
いつからいたんだろう、と思いながら笑いかける。彼が気づいたと知って、ちょっと残念、とか思いながら彼女も笑って近づいてゆく。そして、もうすぐ冬だね、寒いねとか言いながら、二人で寄り添ってパリの公園を散歩する、と。
う〜ん、なんとなくロマンチックな恋愛小説になりそうなムードだけはっ!!
いけるかな、いけるかなって感じなんですけど、やっぱりどこかで脱線するかな。どうせなら、このムードのまま最初から最後まで突っ走りたい気はする。一生に一度くらい、そういう思い切り「感動の恋愛小説」みたいなものを書いてみたいとは思っているのだ。性格的に無理かもしれないが...。
で、まあ、散歩しながらディが焼き栗買ってきてくれたり、それでマイラが「パリの恋人たちみたいね」とか言ったり、それへディが「パリの恋人たちだよ」って答えたり、すごくふつーに「恋人どうし」だよね、これって。やはりこういうのも、たまにはいいな。
二人のそもそもの出会いについては、レイのサロンでってことが既に分かってて、更に親しくなるキッカケも分かってるんですけど、そのへんはいずれまたそのうち。ともあれ、このパリのシーンが見えてきてからノリつつあるので、Epixode3も腰据えてじっくり書きたいぞって感じになってきましたね。マイラのキャラがどう発展してくかが、作者としては楽しみなところです。
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2008/9/20
★連載開始★
とゆーことで、今週からEpisode2連載開始の運びとなりました。第1回は大サービスで一挙9600字公開させて頂きますが、まだ前編が完成してないような状態なんで時間的な余裕もみて、来週以降は週に3000〜4000字前後くらいでぼちぼち進めてゆきたいと思ってます。たぶんEpisode1の倍の長さにはなると思いますので、皆さまもぼちぼちおつきあいくださいまし。では、どうぞ♪
2008/9/13
★Episode2・前編★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。Ayapooの過去ログ内の記事を順を追って読むことが出来ます。
とゆーことで、長らくお待たせしておりましたが、Episode2の連載を9/20から始めようと思ってます。しかし、実は現在17章をやっと書き上げたところで、なんか1章分がやたら長くなるんで、なかなか区切りのいいとこまで行ってくれないのよね。ふつー、3000字〜5000字で1章な感じでこれまで来てたのに、なぜかこのごろ7000字〜8000字行っちゃう。そもそもEpisode1と同じくらいの長さだろうなと思って書き始めたはずが、17章まで来てもまだ半分になってないのが自分でも恐い。
今の雰囲気では、デュアンとファーンのお披露目の大パーティを前編の区切りにして、その後、引き取られてからのデュアンとディのお話が後編になってくみたいなんですが、そのパーティまでが、なっかなか辿りつけないんだ。今17章で、でもまだいくつか書かなきゃならないシーンがあるから、たぶん前編23章〜25章ってとこじゃないかな。だから、どうかするとこの話、最後まで連載するのに半年〜10ヵ月くらいはかかるかもしれない...。なんでこんなに長くなるのか、自分でもまるっきり分からないが、そもそも前編、後編なんて区切りが入るほどの長さになるなんて予想だにしてなかったもんなあ...。
しかしまあ、そんなに次から次へとシーンが見えてくるというのは、それだけお話書くことに乗ってるということで、今回はEpisode1みたいにアクティヴな話ではないけど、前半はモルガーナ家のファミリー・ドラマっていうか、なかなか楽しい話に仕上がりつつあります。後半はけっこうきわどいシーンとかも出て来そうだけど、ま、そんなわけで来週からやっと、また本文をお目にかけることが出来そうです。どうぞ、お楽しみに♪
プロット連載の続きほ読む場合は★パリの恋人たち★へ
2008/9/5
★タイムテーブル★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
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これまでプロットとかEpisode1を書いてる段階では、そんなに本格的な連載にするとは思ってなかったんで、わりと誰が何才とか、季節はいつとか、漠然と気分やイメージだけで書いてたんですけど、この先、ずっと連載を続けてゆくとするとそのままではやっぱりどこかで不都合が生じるだろう。しかし、いくらシュミの小説とはいえ、まがりなりにも決定稿として世に出す限りは後から「間違ってました」はないだろうと、やっぱり思うわけですよ、作者としては。それで、主要人物の年令を相関的に示すタイムテーブルを作ってみたんです。ところが、これがなかなか大変で、つじつま合わせに半日ほどかかってしまった。毎度、いきあたりばったりで書いてるからなあ...。
例えばお話の中で起こる事が1〜2年の間に散らばってるとすると、キャラはその間に1〜2才トシを取るわけで、イメージ的には11才でも12才でもあまり変わらないのに、正確な年令ということになると、ある事件の時に「11才である」と書くのと「12才である」と書くのでは、まるっきり違ってくる。だって、12才の時のはずの事件を11才の時と書いちゃったら、完全に間違いだもんね。だから、これまでそのへんがいい加減なままであることも少しは考慮して、はっきりした年令はできるだけ言明を避けるように書いてはいたんだが...。
デュアンがディに初めて会ってから、例の誘拐事件が起こるまでの間がどうしても思ってたより長い期間必要になってしまって、漠然としたイメージでは1〜2年のはずが、二人が初めて会ってから、ロベールさんにバレるまで出来れば約半年、子供たちが集められてからデュアンが家継ぐことになるまで最低半年、できれば9ヵ月、デュアンがモルガーナ家に入ってからディに恋煩いしちゃって、更に二人の関係が成立するまでに最低9ヵ月、その後、それがまーやアリにバレるまで最低3ヵ月〜半年、しかもここで、例の「宣戦布告」から「誘拐」までは季節的に見て約1年開いてるわけで、それはもう既に出しちゃってるから変更不可。そうすると、お話を自然な流れにするためには結局、漠然と1〜2年と思ってた期間が、3年以上必要ということになっちゃったから、さあ大変。
それで子供たち3人が初めてモルガーナ家に集結する時の年令を多少ずらさなきゃならなくなっちゃったんだ。まだEpisode2を出す前だから良かったんだけど、やはり、こういうことはきっちりやっとかないと墓穴を掘る、という見本ですな。
しかも、問題はみんなの生まれ月で、これは星座に関係してくることなんでキャラのイメージとも直結するから、夏生まれか冬生まれかはすごく大きな問題になってくるんです。それで年令のつじつまは一応合ったのに、生まれ月がイメージと完全に逆になっちゃって、それを修正するのにまたひと苦労。デュアンはなんてったって絶対夏生まれで獅子座だと思うし、メリルの性格はまずまちがいなく水瓶座よりの山羊座だし(なぜか私と一緒)、ファーンは射手座(か天秤座)、ディもどう考えても1月生まれでメリルと同じ時期だろうし、アレクはあれも獅子座でしょうね。まーは絶対、山羊座だな。すると三歳半下のアリは夏生まれでたぶん獅子座ってことになる。私のイメージとしてはこれでないとおさまらないのよね。
そう考えると、一見相性悪いはずのディとメリル、アリとデュアンがなぜか星座的に同じだったりするのが不思議。逆に、性質似てるから反発するのかな?
とも思ったりする。
そんなこんなでなんとかそれほど大きくは変えずにおさまるところまで修正はしましたが、以前、期間限定で公開した部分で1箇所だけ、これはまーがアリの強姦騒ぎでディに怒鳴りこんだ時のことなんですが、その時のまーのトシがどーしても「16才になってしばらく経った頃」でなきゃならなくなった。その時は「17才」としてたんだけど、イメージ的にはシーンそのものにそれほど影響しないのに、正確にタイムテーブルを作ってくと9ヵ月ほどズレちゃうんだな。
これはまあ、かなり前に短期間しか出してなかった部分だから覚えてるヒトも殆どいないだろうし、しかも決定稿と言うよりプロットに近いお話のハギレだったからお許し頂くとして、ここさえ修正すれば後は全てOKってとこまでは漕ぎつけた。これで、この先の連載はすっきりきっぱり、「何才」と書けるぞ。
さて、ちょっと話は変わりますが、最近、古い蔵書の整理をしていて、これは私のじゃなくて親父のなんですが、その中のめちゃ古いミステリーのタイトルに「キングの身代金」っていうのがあったんだ。それで、なんかこれっていいタイトルだなというインパクトが見た時あって、うちのこの話でキングと言えばやっぱりアレクだから、そうするとアレクが誘拐とかされちゃったら、その身代金ってどうなるだろう?
...みたいな? デュアンで1億ドルだったからな。こりゃ大変なことになりそうだ、と思ったら、なんかそこで話みたいなものが出来つつある感じになってきた。
これは、どう考えても本編も本編、メインもメインの部分のお話に入るだろうから、世に出るのは十年先か二十年先かってなもんですけど、なかなか面白いことになりそうなんで私としてはどう展開するか楽しみにしてるんです。なにしろ、まーとアリ、この大天才二人を手に入れたら世界を取れる!!
と図らずもアレクが証明しちゃった格好になってしまった。もちろん、IGDはこの二人の頭脳だけで成立してるわけではなく、アレクという求心力があって初めて、かなりの短期間で世界経済を掌握するほど巨大になるんですが、「金と権力」それしかアタマにない連中にはそれが分からない。そのおかげでのべつまくなしこの二人は狙われるハメに陥っちゃうんだけど、このアレクの誘拐騒ぎもそのへんが絡んでくるでしょうね。ディに言わせれば「お人好しの脳天気お坊ちゃま」とはいえ、あのアレクがそうそう誘拐されるなんてヘマなことするわけないから、彼が何故捕っちゃったか、これにもかなり大きな原因がありそうだな。
とゆーよーに、またなんか、途轍もなくあさっての方向にアタマが飛んでたりしますが、とりあえずはまずEpisode2ですね。頑張って、完成させたいと思います。ともあれ今日の教訓、「地道な一歩が明日に繋がるのだ」。(合掌)
★Episode2・前編★へ
2008/8/28
★恐るべきこどもたち★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
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ではまずEpisode2の予告から。いちおう、9/20を目処に連載を開始しようかなと決めましたので、あと3週間くらいかな。その頃には前編20章くらいまでは出来上がってると思うし、まあ、なんとかなるでしょう。自分でもそれなり日限を切っておかないと、また延々、延々、先に伸びそうですからね。
さて、子供たちがモルガーナ家に集まって初めてのディナーという、このシーンはけっこう楽しんで書いてたんですが、よくよく考えてみると「フレンチのフルコースを最高級ワイン付きで楽しむことができる十歳前後の子供たち」なんて、なんか存在そのものが恐ろしくありませんか?
まあ、うちではよくあることなんですが、おじいさまに「今日の料理はどうだ?気に入ったかな?」とか聞かれて、デュアンなんか「ええ、とっても。まるでレストランに来ているみたいなのでちょっと驚いています。レストランでだってこんなに美味しいの、めったに食べられない。なのにこれ、みんな自家製なんですよね?」とか当たり前のことのよーに答えてるし、とゆーことはコイツ、ごくふつーに日頃からこういうディナーを食べつけているということなのか?
自分でも書いた後から気が付いたけどなんてナマイキなガキなんだ。
ファーンなんかもっとすごくて、「これはさすがにうちの料理長でもかないません」だってさ。そりゃ、大家族で大邸宅に暮らしてりゃ、家に料理長がいたって不思議はないかもしれないけど、ってことは、コイツなんかは家でいつも、そんなおいしいそーなもんばっかり食ってるということなのか?
ディんちにはジェイムズ・オブライエン氏というなんかすごい料理長がいるそうで、先代が彼の才能を認めてヨーロッパに修行に出し、帰ってきてから店を持たせるつもりでいたものを、本人がモルガーナ家のために働きたいと言ったためにそれ以来ずっと居ついているらしい。今ではモルガーナ家傘下のホテルにあるメインレストランの監督とかもしてて、そこの料理長はジェイムズさんの弟子だったりするんですってさ。このレストランはクランドルでも最高峰と認められているだけあって、それでファーンが「うちの料理長でもかなわない」なんて言ってたんだな。
作者の定番ディナーは野菜たっぷりの焼きソバとか、野菜たっぶりのとんこつラーメンとか、こういう食事ばかりするようになってから実に健康になったとはいえ(「野菜たっぷり」というところがポイント)、フレンチのフルコースなんて最後に食べたのはいったいいつ?
という日常であるのに変わりはない。それなのにこのディナー、決してお子サマ仕様のメニューなんかではなく、ロベールさんやディと全く同じ料理&各コースにそれぞれ別のワインまで付いてるらしい。それ全部食って、飲んで、デュアン曰く、「ああ、幸せ」。全く、恐るべき子供たちじゃありませんか。私にも食わせろーーーーっ!!!
それにしても最近、そういう豪勢なディナーになんて私自身はまるっきり縁がないなぁ...。なにしろ、まず本格フレンチ・フルコースなんて、今じゃ胃がとても受付けなくなってて、せいぜい食べれてオードブル+魚料理くらいだろうなと思うし、それに本当に美味しいフレンチ出してる店なんて、元々全然少ないとこへ持ってきて、かつて関西にあった三ツ星はひとつは閉店、もうひとつはまだあるかもしれないけどオーナー亡き後すぐに星が落ちて、今じゃ単なるホテルレストランと化している。それ考えると今から本当に美味しいものを出す店を苦労しながら発掘するなんて根性とてもないし、それを見つけ出すまでにいったいいくつ、高いだけのつまんない店に行かなきゃならないのかと思うだけでめげてしまう。
よく、「フランス料理は高いばかりで美味しくない」と言う方があるんですが、実際、そう思われても仕方ないほど、日本のフレンチ業界は何かカン違いしてるんじゃないか?としか思えないとこがある。高級感ばっかり強調はするが、味の方は全くファミレスとどこが違う?
程度のものしか出せない。でも、本当にちゃんと作られたフランス料理は、本当に美味しいことを私は知っているのだ。だから、「フレンチよりイタリアンの方が美味しいよ」とか言ってるグルメぶりっ子を見ると、こいつはエセグルメだなと一発で分かる。それって実際、「単に本当に美味しいフランス料理を食ったことがない」というだけのことだもんね。でも、「本当に美味しいフランス料理」が、めったに食べられないのも現実なんだよなあ...。
ま、そんなこんなで、最近は縁のない世界ではありますが、このシーン書いててちょっと発作的に食べたくなったな。うー、オマール海老、グルヌイユ、子うさぎ、フレッシュのフォアグラ、溶けかかってるブルーチーズ、カルヴァドスにつけたカマンベール、シャンパンのソルベ、ワゴンにいっぱいのっ、豪華なデザート!!
きゃーーーー♪
★タイムテーブル★へ
2008/8/22-8/23
★逃避行★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
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Episode2は現在14章まで書けてて、字数的には64000字くらいになってるから既にEpisode1に近い長さになってるんですが、いかんせん、お話そのものは全然「まだ始まったばかり」な状態で、三兄弟を迎えてディナーというシーンまでやっと漕ぎつけたとこでしかない。このぶんでゆくとたぶん40章くらいまではいくんじゃないかという気がするんですが、なんか思ってたより長くなったなあ、これも。
まあ、既に六万字以上も書いてるから、これだけ先行していればもう連載始めても大丈夫だと思うけど、せめて20章までは書いてから出したいので、う〜ん、9月半ばから10月くらいからなら始められるかな。ともかく、そのへんを目処に頑張りますので、いましばらくお待ち下さいまし。
さて、先週はファーンの話をしたので、今日はメリルくんの話にしましょう。今回のタイトル、「逃避行」っていうのは、メリルが画家への一歩を踏み出す大きな賞を取った時の作品のタイトルなんです。お話の中では、Episode2の始めでまだ12〜13才くらいですから、まだまだそんな大きい賞を取るなんてのは先の話ですけどね。
ともあれ、三兄弟の中でこのコだけがディに反感を持ってるとか、サラサラのブラウンの髪を肩くらいまでに切ってて、目の色もブラウン、綺麗なコだけど母親似なので外見的には全くディとは似てないが、性格的には子供の頃のディに一番近くて繊細で頑固なんて話は既に書いたと思います。
まあ、あの親父に対して、そのワガママ勝手な生き方を大芸術家だからと手放しで認めるのがふつーか、反感を持つ方がふつーか、これはう〜ん、どうなんだろう。私としてはメリルの反応が一番ふつーかなと思ってるんですけど、どっちと思うかは読む人の性質にもよるんだろうな。でも、お話の中では現実問題としてディを非難してるのはメリルくらいで(世間一般は別として)、デュアンはあの通り一も二もなく反感持つどころか会ったその日から懐きまくってるし、ファーンも実は、彼のひいじーちゃんが若い頃は相当プレイボーイでならしたヒトらしく、「ずいぶん奥さんを泣かせた」なんて話をじーちゃんからよく聞かされていたという背景事情がある。
母親が父親の女性関係で苦労してるのを見て育ったじーちゃんは、その反動で女性に関しては極めてマジメなヒトなんだけど、この話は今となってはひいじいちゃんを苛めるネタにしてて、過去の笑い話として時々持ち出したりしてたんだな。それを聞いたファーンはまだずっと幼い頃、どうしてそんな風に大おばあさまを泣かせてまで、女の人と遊びまわっていたの?
とか、素朴な疑問として曽祖父に尋ねたことがあった。その時から、いろいろ昔の話を本人から聞かされていて、そのせいでそういう「女性と遊びまわるタイプの男の心理」っていうのにそれなり理解があったりするらしい。それにこのコは何と言っても貴族社会で育ってるので、「そういうことはよくある」みたいなこともなんとなく耳に入ってくることがあって、それで自分の実の父親があんなふうだということもわりとすんなり受け入れられる素地が元々あったみたいです。この子のそもそもの性格も、そういうことを面白がるタイプなのかもしれないけど、そんなこんなあって、ディに反感よか親しみとか好意の方を持ってるって感じですね。
弟二人がそんなで、しかも自分の母ですらディの生き方は認めているようなことを言うし、メリルとしては絶対にそれはヘン!!
と思うんだけど、周りのみんなは自分の方をヘン!!
と思ってるように感じられる。それで、そうなんだろうか?
と思いながらも、だからってすんなり納得するような子でもない。基本的には素直で優しい子なんだけど、一旦こだわったらしんそこ納得できない限りは自分を曲げないところが、このコもさすがにディの息子だってことでしょう。父親が偉大な芸術家だということは分かってる、分かってるけどだからってこれでいいのか?!
この疑問に答えが出るのに、この先延々、延々、時間がかかるんでしょうね、この子の場合は。まあ、「ロバのように頑固」なんて言葉がありますけど、メリル見てるとそういう感じします。それがまた、作者的には微笑ましいんですけど、やっぱ一人くらいこういうコがいないと、お話面白くならないもんね。
で、性質的には絵を描いてれば機嫌がいいってコだから必然的にこもりがちで、人とわいわい騒ぐってことはないタイプ。だから本人は学校でも自分は無口でとっつきにくいと思われてると思ってて、でも親しく口をきく友だちがそう多くはないことも大して気にはしてませんね。あるイミ、根っからの芸術家気質だってことなんでしょうけど、でもなにしろ美形なのは確かだから、実はメリルに憧れてる女の子ってのはけっこういる。ただ、本人が騒がしいのはキライ!!なのが露骨に分かるので、積極的にアタックなんかしたらそれだけで嫌われちゃいそう。そう思うもんで、女の子たちも遠巻きにして溜め息ついてるのが精一杯なんだね。しかし、メリルの方はそういうとこ全然鈍感だから、まるで意識してないというか、女の子なんて目に入ってないというか。このへん、「氷の王子さま」なんだな。
ただ、おとなりにひとつ年上の幼なじみの男の子がいて、学校も同じところに通ってるからその子とは小さい頃から仲良し。こっちの子は活発でスポーツマンタイプなので学校でも女の子にきゃーきゃー騒がれたりする方です。でも、もの静かで優しいメリルのことは気に入ってて、弟みたいに何かとかまってくれてる。それにこの子は親しくしてる女の子の友だちも沢山いるから、メリルに憧れてる子がいっぱいいるのもよく知ってる。でも、それをメリルに言っても、ぜーんぜん本気にしないのよね。「いいんだ、ぼくは絵が恋人だから」とかって。救われないのは、告白もできずに影から密かに見てるだけの女の子たちですかねえ...。ああ、やっぱりそのへんもディの息子ってことか...。
そんなわけでメリルは13歳の現時点でもう「将来は画家」と決めてるから、この先はやっぱりアートスクールから美大でしょう。美大まで行く前に賞取っちゃったりするかもしれないけど、母のマイラがディに言ったところによると、「画家になれようがなれるまいが、あの子は一生絵を描いてるわよ」ですってさ。それほど、絵描いてれば幸せらしいけど、跡取りのことでメリルに言われてディに断りの電話をかけた時、マイラは「私のちっぽけな会社ですら、あの子に継がせるなんてこととっくに諦めているし、ましてやモルガーナ家の当主が務まるような器じゃないのよ。それは本人が一番よく知ってるわ」って言ってた。でも、画家としての才能は、やはり父譲りなのか相当なものがあるのはマイラも認めてるようで、「あなた(ディ)のように画家としてあれだけの仕事をしながら、伯爵さまとしてもやってゆけるような器用な子じゃないのよ。だから、あの子にはかまわずに、絵を描かせておいてやって頂戴」とも言ってます。
ただ、この息子の無欲なところを微笑ましくも可笑しな子よねとは思ってるらしく、メリルに冗談で「本当に欲のない子ね。モルガーナ伯爵になったら、あの大邸宅やリムジンや沢山の会社やお金や財産が全部あなたのものになるのよ?
本当に断っちゃっていいの?」とか、答え分かっててちょっと意地悪言ったりする。そうするとメリルは、「ぼくがなりたいのは伯爵さまじゃなくて、画家だもの。その方がずっと欲張りな望みだと思うけど?」とか、実に単純明快なお答え。それ聞いて、マイラはディが「貴族になんか生まれたくなかった伯爵さま」ってことをつきあってた時からよく知ってるし、自分も自分で会社を興して成功させようという気持ちはあっても、金輪際、伯爵夫人になってリッチな生活をゲットしようなんて卑しいことは全く思わない女性なもんで、親子ってヘンなとこが似るものなのねと内心笑ってたりしますけどね。
でも、ディの方はこのメリルからの正式の断りを聞いて、やっぱりかーと笑いながらもマイラに「きみもちょっとは協力して、メリルを説得してくれればいいのに」とか半分冗談で恨み言言ってました。で、ロベールさんに、「あんなに欲のない女性ばかり選ぶんじゃなかった」とか珍しく愚痴ってて、するとロベールさんの方は「おまえにしては上出来だよ」とか笑ってる。彼の方はもう、三兄弟と初めて会って以来マゴのことに夢中ですから、メリルの断りにも気を悪くしたりするどころか、いやいやなかなか芯のある子じゃないかと反対に感心すらする始末で、その上、やはり真に貴族の血を引く者はそれくらいでなくては、とか思ってたりするからなあ。しかもロベールさんに言わせると、メリルのこの「ロバのように頑固」なところはどうやらビーチェに似ているらしく、結婚してくれと泣いて頼んでる自分に対してビーチェが「私は一人娘なので家を継がなければなりません。父を失望させるわけにはゆきませんし、だから、あなたとは結婚できないんです」と頑固にもつっぱね続けた彼女を思い起こさせるもんだから、余計気に入ってたりするのよね。
でも一方で、ファーンやデュアンは家を継ぐことこそ承諾してくれるけど、ファーンが爵位なんかにこだわってないことは一目瞭然だし、デュアンはデュアンで自分まで断ったらおじいさまもお父さんも困るだろうなとゆー、あるイミ「騎士道精神」みたいなもんで引き受けてくれてる。そうすると、これがモルガーナ家とシャンタン家の血筋ってやつなんだろうなとも思うな。
作者として言わせてもらえば、私はそういうのが好きなんだ。だから、そういう人間以外は書きたくないんだ。結果として、必然的に「天才と富豪と美形」しか書かないとゆー信条が成り立つわけよね。美も富も天分にこそついて回るものというか、精神なくして美も富もなしというか。だって精神的に卑しい人間は当然美しくないし、そういうのはたとえ財産あっても結局はそれ食いつぶす方に行くか、身に過ぎる富を扱いかねて不幸しょいこむか、どっちかにしか行かないじゃん。ヨーロッパの王侯貴族社会ですら衰退に向ったのも、結局は革命を引き起こしたのも、言わば世界を大局的に見ることも出来ず、目先の富のみに卑しく群がることしか考えなかった非啓蒙種の当然の末路。あれだけの権力でさえそうやって衰退するわけだから、これまた、この世の摂理というもので、その摂理の前にはそのへんの小金もちなんぞモノの数ですらないな。ま、もともと私は象徴的な意味で「人間(非啓蒙種)」の日常や生活になんか何の興味もないし、「神々(啓蒙種)」の世界しか書きたくないわけだから、これまた必然の当然でこうなるのは仕方がないのさっ♪
さて話を元に戻して、では今回のタイトルでもある「逃避行」というメリルの作品なんですけど、これは鳥の絵なんです。なんてことない小鳥が枝にとまってるだけの絵で、これはメリルんちの庭に珍しい鳥が飛んできて木にとまってるのを見て、彼が「見かけない鳥だね、どこから来たんだろう」と言ったところへ、側にいたマイラが「このへんに普通にいる鳥じゃないから、たぶんどこかで飼われてたのよ。カゴから逃げ出して来たんじゃない?」と答えたところから生まれた絵で、もうその時、直感的にメリルにはこの構図が見えてる。鳥の絵なんだけど、その鳥の豊かな表情や小さな身体から漲ってくる生命力が「鳥」の姿をしていながら「人間」のみならず、あらゆる「生命あるもの」を象徴してることが目のある者には一目瞭然に分かるような作品で、ただ、メリルとしてはその構図を思い描いた時に、そんなリクツはまるっきり意識していない。後から見ればそれはそういうことだなと分かるんですけど、とにかくもうリクツより先に直感的に鳥と人間、それに他のあらゆる生き物の生命そのものを重ねていて、その直感が見る者にそのまま伝わる感じでしょうか。これが後に「計り知れない宇宙の深遠を感じさせるような何かを内包していて、それが無条件に見る者を感動させる」とか「人間は日々、日常の瑣末なことに囚われて泣いたり笑ったりしているけれども、本当は我々はより大きな宇宙に包含されている存在であることが彼(メリル)の絵を通して感じられ、そのことの喜びと悲哀を一瞬にして悟らされる」とか絶賛されることになるわけです。確かにこういう作品見てると画家としてはこの子はディにも匹敵するくらいの天才かもしれないなと思いますね。
ディは基本的に哲学的資質に大変恵まれているので論理と直感の両方で作品を詰めてゆく画家ですけど、メリルの場合はもっと本能的というか、言葉や論理より直感が先ってとこが独特かな。表現したいことが、言葉より先に画面になってる。口下手というより、もしかするとこの子は絵で言いたいことが何でも言えてしまうので、逆に言葉を必要としてないだけかもしれないなという気もします。
お話が進んでどういうコか分かってくるにつれて書くのが面白くなってきたメリルくんなんですが、私としてはこういうキャラは珍しいですね。まーとかディとか、アレクやアリにしてもそうですけど、うちはわりと最初から個性や天分がはっきりしてて、作者としてこれは主人公クラスに育つなって予感があるキャラが多いのに、メリルはここへ来るまでちょっとどーなるか分からんってキャラでしたから。うーん、なるほどな。やはり作者にとってもコイツは「とっつきにくい子」だったか。
ちなみに「氷の王子さま」っていうのは、これは以前書いたかもしれませんけど、ディの師匠であるバーンスタインが描いた18枚あるディの絵の中の一枚のタイトルで、その絵が世に出た当時からディを形容する言葉として一般によく使われてるものです。で、ロベールさんが、初めてメリルと会った時に、なるほどこの子は他の二人と違うなと思いながらも、ディの子供の頃にこの子が一番近いんじゃないだろうかと思うシーンを書いてた時、「氷の王子さま」という言葉がメリルのイメージとかぶってきて、作者としてはそのへんでやっとこの子のイメージをきっちりつかめたって感じだったんです。そういうのも含めて、いずれ詳しくはEpisode2に出てきますので、そちらでお読み頂ければと思います。ああ、今日はめちゃくちゃ長くなってしまった...。ごめんなさい。
★恐るべきこどもたち★へ
2008/8/15
★ファーン★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。Ayapooの過去ログ内の記事を順を追って読むことが出来ます。
今、Episode2を書いてるわけですが、デュアンはもうこれまでも出まくってるんで、作者としてもコイツのことはもういーかげん良く分かってるぞ、って感じだったんですけど、その影に隠れてたファーン&メリルがどういう子たちなのか、徐々にはっきりして来た感じがします。実際、私は事前の人物設定なんてまるっきりしたことがないヒトなんで、お話書いてるとそれが進むにつれて、そーか、こーゆーヤツなのかと分かってくる。だから、ストーリーそのものに登場して来てくれないと親しくなれないみたいなんですね。
で、まずファーンですけど、この子の母親はモルガーナ家と並ぶ名家の出で、ディと付き合ってた頃は既に未亡人だったというのは前に書きました。そのへんの詳しい経緯はEpisode2で出てきますが、そんなわけでファーンは母方のクロフォード公爵家で育ってるんです。
このクロフォード家ってのは大家族で、既に引退しているファーンの曽祖父が現在95才、その下に息子である現公爵がいて、ファーンの母親はこの公爵の三人の子供のうちの一人だったわけです。上には兄が二人いますが、この兄、つまりファーンの叔父さんたちもどちらも一緒に住んでて、そのためファーンは8人の従兄弟たちと同居してる状態にあるのよね。まあ、広大な邸宅ですから、これだけの大家族でも窮屈ってことは当然ありません。
しかしまあ、この環境で、ただひとり私生児っていうのは肩身がせまかろうって感じしますが、ファーンの母親が現公爵の子供のうちたった一人の女の子だったこともあって、幼い頃から一家のアイドル状態だった。だから、その子供ということでファーンも大事にされてて、今では曽祖父のお気に入りにまでなってるようなので、実際にはそれほど窮屈な思いをして育ったわけではないみたい。
ただ、やはりそういう環境ですから、その子が「曽祖父の一番のお気に入り」で、それでいて従兄弟たちからも妬まれたり、意地悪されたりせずに仲良くやってるっていう事実から、かえってファーンが努力家なんだなというか、社交術にも生来長けてるんだろうなということが伺えますね。
実際、このコはなかなかソツがなくて、例のモルガーナ家で兄弟三人が初めて顔を合わせた時でも、すぐにロベールさんとも打ち解けて、座を盛り上げる話題をさっと提供したり、デュアンがディナーの前に彼の部屋に話に来た時は、笑える話題を出して弟をリラックスさせてやったり、なかなか気を使うヤツなのかなという感じもします。
デュアンより1つだけ上の11才なんですけど、既に背も高くて13才くらいに見える。デュアンが見るからに可愛い可愛いしてるのと比べれば、だいぶ落ち着いた雰囲気のあるオトナっぽい少年って感じかな。髪は少しウエーブのかかったダークブロンドで、瞳はディにそっくりの蒼。学校はディが出たのと同じ寄宿学校に行ってるそうです。成績優秀、はきはきして面倒見も良いので周りからも人気のあるコで、もちろん目立って美形だから、「毎度上級生をかわすのにけっこう苦労してる」とかデュアンに言ってましたね。でもなんかこのコ、上級生を手玉に取るのもうまそう。ディほど根性悪く謀略をめぐらすってタイプではないけど、なんだかんだかわしつつも味方につけるというか、結局仲良くなって、相手にコイツだから仕方ないか、みたいに思わせるとこがあるような気がする。それ考えると、アレクとディを足して2で割るとこうなるかなってタイプかな。ま、これはやはり実業家向きってことなのかもしれませんね。ヒトをいいように転がすのがウマい♪
でも、このへんはまだまだ表面的な顔のような気もして、ファーン自身が今はまだ幼いから、自分でも自分をどこまで把握してるかは疑問。成長するにつれて、裏に隠れてる複雑なとこが出て来そうではありますな。それに比べるとメリルは今既に分かりやすいというか、見えてるまま100%な感じかな。ま、Episode2では、このデュアンのにーちゃんたちのキャラクターも、かなりはっきり出てくると思います。
★逃避行★へ
2008/8/9
★モルガーナの由来★
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ディの名前を決めた時の経緯はこちらで詳しく書いてますが、その時、名字の「モルガーナ」については単に「モーガナ」か「モルガーナ」になるだろうというだけで、どういう由来なのかは何もコメントしてなかったと思います。それも当然で、その時、私はこの名字についてはなんとなく「モーガナ」という女の子の名前がアタマにチラついてただけで、それに特に意味があるとは思ってなかったんです。
ところが結局、語呂がいいので「モルガーナ」と決めてからずっと後になって、昔読んだ本を読み返してたら、これがケルトの戦いの女神の名前だったということが判明しました。昔読んだ本に載ってたんですから、「音」としてはアタマのどこかに記憶されていたんでしょうけど、その意味までは覚えてなかったらしい。
彼のデュアンというファーストネームはスペルが変則的でDiane(このスペルのせいでディと呼ばれてる)、これは月の女神のことですけど、同時に狩猟の女神でもある。で、モルガーナの方は戦いの女神。なんか、やっぱりなーと妙に納得がゆく気もしますが、そういうわけで、ディにはダブルで女神さまの名前がついちゃってたということになりますね。たまにこういう、自分では意識せずに付けてて、後になってイミが判明すると、お話のテーマとかキャラのイメージにぴったりだったなんてことがあるものです。
「モルガーナ」という女神が美形なのかどうかはよく分からないので、この後また調べてみたいと思いますが、ともかくもケルトの女神さまですからね。それがまた作品のテーマとも根底で合ってくるってとこが僭越ながら神がかりかな♪、と思ったりもする。しかし、ダブルで女神さまの名前が付くってとこがなあ...。やっぱりディだわ。私も気づいて、あら、そうだったの?、とびっくりした。
★ファーン★へ
2008/8/2
★Eposode4の先★
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現在、Episode2
を書き進めているとこなんですが、以前書いてたように、「告白」、「発端」、「休暇」と続くってとこまでは決まってたんです。それが最近更に、Episode5から「約束」「迷路」「帰還」というように続くタイトルが出てきて、そのへん考え合わせると、この外伝シリーズはディとデュアンがどーなってくかっていうストーリーが縦糸になりつつも、メリルやファーンとか、ロベールさんやエヴァちゃんなど、それを取り巻く人たちのストーリーが横糸になってて、それが絡まってそれぞれのお話になってくっていう感じで進むようです。
で、まあ思うに、デュアンも今は11才くらいだから、とにかくディが好きで側にさえいられればいい!
みたいな?
アリシアとディの間に割り込んだのは自分なんだし、いつかきっと、とは思っててもまだ子供だから「ディの恋人のひとり」ってとこでそれなり満足はしてる。でも、これが13〜14才くらいになると、いつまで経ってもアリと別れてくれないディにけっこうきーーーーーーーっってなって来るんじゃないかと思うのよね。ディはディで、デュアンを側に置くようになってから、昔ほどは外泊もしなくなってて、女性の恋人を増やすってことも少なくなってくんですけど、それでもアリとはどうしても別れようとしない。一緒にいるに従ってデュアンがますます可愛くなってくのはなってくんですが、ディってのも屈折してますから、デュアンだけってことにはなかなかしてくれないのよね。
デュアンは今でさえ可愛いのに、13〜14才ともなれば、その頃のディを彷彿とさせる絶世の美少年に成長してるでしょうし、そうなると、密かにディとそういう関係だなんて、まーたちのようなごくごく親しい人間以外は知りませんから、デュアンをどうこうしようというヤツも出てくるだろう。そうすると、かなりこじれてくことも予想される。まあその辺りが「迷路」ってことになるんでしょうけど。
そんなふうに先を読んでゆくと、どんなに頑張って連載しても1年で2話出せたらいい方だし、Episode7までゆくには2〜3年はかかりそうですね。ま、更新ネタが無くならなくていいってばいいんですが、気長にお付き合い下さればと思います。
ところで、Episode2の開始なんですが、Dialogueがやはり今年いっぱい連載かかりそうで、あんまりあれこれ出しても読む方は混乱しちゃうかもしれないし、Episode2自体も思ったより長くなりそうなんで、9〜10月くらいから始めようかなということに変更しました。より完成度の高いものを出すためにも、それくらい時間があった方がいいかなとも思うし。ま、その間、Dialogueの方をお楽しみ頂ければと思いますが、実はDialogue
の連載が済んだら、来年は「Colours of the wind」とゆー、これは綾の仲のいい友人で作家の峰岸裕也ってのが主人公なんですけど、それつながりでこっちもシリーズみたいになってるから続けて出すことになってるし、だから、Dialogueもきっちり読んでおいてもらいたいなーとも思うしね。
そして、更にその先なんですけど、そもそも外伝から連載してるってのがヘンなんですが、まーたち4人が主人公の本編は本編で別にちゃんとあるわけで、いずれはそれも出さなくちゃなりません。これはもうGrand
Prologueだけでも相当長くなるだろうし、まーがディに苛められてコカイン中毒までなっちゃったりとかするから、それ考えるとけっこう外伝よりずっと壮絶な展開になるだろう。ま、そんなこんなで少なくとも向こう5年は更新できるだけの小説ネタがあるな♪
これまではHP教室とか、英語教室とか、Sweetsコーナーとか、わりと「他でもある内容のものはうちにもある」状態にしておきたかったので、そういうサイトのベース作りがメインになってましたけど、今年中には文法教室も完成させるつもりだし、そのへんが出来たらベースの内容を増やしつつも、今度は「うちにしかないオリジナル」を乗せていくのがメインになるでしょうね。小説とかイラストとか、雑文ももっと増やしたいし、旅行キライだけど、HPネタにするためならどっか出掛けてもいいかなという気もするし。
Magazine
Workshop 10周年まであと3年なわけですが、これからの3年でまたどんなふうに成長してくか、作ってる本人も楽しみにしてるんです。なにしろ、更新ごとにトップページは記録して残してあるので、その最初の方を見るとホント、僅か5ページとか10ページとか、カワイイ数で始めてるんですよねえ。それが7年でココまでなったかってのは、なかなか感慨があることです。しかし、それでも目標の1000ページは遠いですけどね。まだまだだなー。
★モルガーナの由来★へ
2008/7/25
★アーネストさん・その2★
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では、先週の続きです。本来ならお婿さんを迎えて家を継がなきゃならないビーチェがロベールさんのとこにヨメに行っちゃうと、モルガーナ家は誰が継ぐの?
ということになるわけですが、それがそもそもこの二人の結婚の最大の障害でもあったわけです。それでロベールさんは先代のモルガーナ伯、つまりビーチェのお父さんに、二人の間に生まれる子供のうちのひとりに継がせるということではどうかと提案したんですね。
ビーチェがまだ十代ってことからも分かるように、この先代は当時まだ四十代入ったとこくらいで、従って孫が家継げる年になるまで十分時間があった。ビーチェは父親に無理は言えないと思って、あまり強くは結婚したいというようなことは言わなかったんですけど、でも、見てるとロベールさんのとこに行きたいと思ってるのは親の目から見ても明らか。それに、こんなに熱心に思い込んでくれる人のとこにやる方が、娘も幸せになれるんじゃないかということで先代もロベールさんの提案を承諾する気になったんでしょう。そんな事情があったので、ディは生まれる前から好むと好まざるに関わらず、運命的に伯爵家を継ぐということになっちゃったのでした。
そして、ディがまだ生まれたばかりの頃。モルガーナ伯爵としては、この孫が自分の後を継ぐことになるんだけれども、一代飛ばすことになるから相当早い時期に伯爵家の当主としてやってかなきゃならなくなるだろうと思わざるをえなかった。しかし、彼が信頼していて、ずっと助けになってくれてる彼の執事はこの子が大きくなる頃にはそろそろ引退する年になってるだろう。モルガーナ家ほどの大家ともなると、執事と言っても単なる使用人ではない。そこで働く人間を選んだり雇ったり、躾けたり、教えたり、それに主の社交や仕事を助けたり、家や財産を管理したりなどなどなど、つまり大家の家政を預かれるだけの知性も教養も持ち合わせている人物でなければ、なかなか家の中を快適に整えておくことはできない。しかも、主との間で信頼関係を築くには時間がかかる。
そんなこんな考えて、先代は当時の彼の執事、つまりアーネストのお父さんに誰か信頼の置ける、適当な人物はいないだろうかと相談したわけです。できれば早いうちからディにつけてやりたいし、ってことだったんですね。
で、このお父さんも最初はどうしたものかと考えてたんですが、ふと、自分の息子だったら、子供の頃から自分の手伝いもしてくれているのでモルガーナ家の中のこともよく心得ているし、性質も誠実でアタマの回転も速い。これ以上の適任はないのではないかと考えた。しかし、そうは言っても、成績優秀で既に大学院にまで進んでいる息子に、しかもアーネストが作家になりたいと思って勉強や研究にいそしんでるのもよく知ってるのに、そこへ、自分の後を継いで気苦労の多い執事なんて職につけとはなかなか頼みにくい。でも、まあダメもとで言ってみるだけ、みたいな感じでこれこれこうと息子に事情を話したわけです。
当時、アーネストは大学院を出たら、今度はそこで教鞭を取りながら好きな研究を続けて、小説や評論をコツコツ書いてゆければいいなって思ってて、だから作家を目指しているとは言っても、安易に流行作家になりたいというわけじゃなかったのね。それで、父から話を聞いて、伯爵の気持ちも分かるし、考えてみると執事になったからと言って小説や評論を書くのを諦めなきゃならないというわけでもない。自分の研究を続けるためには大学に残って教授になるのが一番いいだろうとこれまでは思っていたが、モルガーナ家の執事ともなれば、自分の父を見ていても分かるが単なる使用人ではないし、それに、なんと言ってもモルガーナ家は現代のメディチ家と言っても良いほど芸術世界と深い繋がりがある。これまでも見てきて、そこに出入りする人たちに著名な知識人や芸術家が多いこともよく知っているし、蔵書や美術品のコレクションもクランドル十指に入るとまで言われるほどである。だからその点においてはモルガーナ家の場合、美術館のキュレーター(館長、管理官)くらいの造詣がなければ執事なんて務まらないという事情もある。そのへん考え合わせると、もしかしたら大学で教えてるより、こっちの方がはるかに面白いんじゃないかという気もして、じゃ、とりあえず院を出るまで、休暇にお父さんの手伝いをしながら考えてみますよ、ということになった。
さて、翻って、ビーチェとロベールさん夫妻ですが、ロベールさんは無理な事情を押してビーチェとの結婚を許してくれた義父には大変感謝していて、それに自分の両親は既に亡くなっていることでもあるし、ビーチェを自分の国に連れ帰ってしまうよりも、このままクランドルに置いておく方が良いのではないかと考えた。自分は仕事で世界中あっちこっち飛び回っているのに、ビーチェをあまり知り合いもいない上に環境も違う異国に連れてって淋しい思いをさせるのもなあ、というのと、恩ある義父に跡取りのことで不安感を抱かせるのも避けたいし、家を継ぐ子供もクランドルで育つ方が文化的に馴染めるのではないかとか、そんなこんな考えて、ビーチェと子供はモルガーナ家に住まわせ、自分がこっちに帰ってくればいいじゃないかという結論に達したのでした。だから、ヨメにやったとは言っても、実際はロベールさんの方がモルガーナ家に婿入りしたような格好で暮らすことになったのね。
そういうわけで、ディは生まれた時からモルガーナ家で育つことになり、アーネストが大切に思っているビーチェも結婚したとはいえそこにいる。執事になるという話をどうしようかなあと思いながらお父さんの手伝いをしてる若きアーネストにとっては、小さい頃から家族のように思っている人たちがいる環境にずっと住めることは非常に居心地がいいってことがやってるうちにどんどん判明してきてしまった。それに先代はアーネストにもずっと目をかけてくれていて自分の息子のようにも思ってくれていたし、アーネストの方も彼を尊敬していた。そんなこんなで、どう考えても大学で教えるよりこっちの方がいいよなー、みたいな方へ傾いてったとしても不思議はなかったかもしれない。
しかも、問題はこの、最終的には自分が仕えることになるだろう伯爵の孫、つまりディですね。これが自分にも懐いてくれて、ひじょーーーーにっ、可愛い。ビーチェと顔立ちもそっくりってのもポイント高いし、幼いながらも賢そうという兆候は既に見えるし、気に入っちゃったなってことで、アーネストは大学院を卒業する時になって、じゃ、お父さんの跡を継ぎますと決めちゃった、とこういう経緯なのでした。
まあ結局、アーネストさんて彼自身が既に芸術家気質なのよね。作家になって売れまくってチヤホヤされて金持ちになりたい、みたいな、そーんな俗なコトは、はなっから全然考えないタイプ。逆に、偉大なる芸術世界の中枢に関わっていたいという気持ちの方が強くて、だから余計、ディみたいに芸術至上主義のやつとウマが合うんだろうな。そんなアーネストから見て、育つにつれて画家としての天分が明らかになってくるディは、単にお坊ちゃまだから仕えるというんではなく、彼自身がディのその画家、芸術家として資質に惚れ込んで、その仕事をよりやりやすくしてやりたいと思わせるような存在でもあったということなんでしょう。
で、デュアンが現れる頃になるとアーネストも六十代。でも、ディのすすめとはいえもう評論も出版してるし、その作品が素晴らしいのでその道の専門家の間では既に有名にもなってる。ディとしては、この後うまいこと唆して、小説の方も出版させてやろうという陰謀も持ってたりするんで、執事を引退する頃には作家になっちゃってるかもしれませんね、アーネストさん。
芸術に関わるというのはそういうふうに「一生の仕事」なわけで、たかだか世間で売れるか売れないか、成功するかしないかなんてのは小さい小さい、と私は思うんですが、ともあれ、こういうふうにセルフストーリーが見えてくると、今度はアーネストから見たモルガーナ家の人々なんてテーマのお話も面白いかもしれないぞと考えている今日この頃なのです。
★Episode4の先★へ
2008/7/18
★アーネストさん・その1★
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今回は、ディんちの執事のアーネストさんのお話をします。なんか、Episode1からこっち、これは本編からすれば立派な外伝だから別に構わないんですけど、なぜかモルガーナ家が舞台の中心になっちゃって、それでアーネストさんも頻繁に登場することになってますね。
ディが生まれたとき、彼は二十歳少し過ぎるくらいでしたから、デュアンが話に登場する頃には既に六十代になってらっしゃるわけで、そうすると、あやぼー的にはいろいろ彼のセルフストーリーも見えて来たりするわけです。
Episode1の最初でちょっと彼のことも書いてたと思いますが(特に意図して書いたわけじゃなく、なんとなく出て来た)、そのへんからわりと詳しく見えてきたかな〜って感じなんです。で、そこでも書いてた通り、現在ではディのすすめで美術評論をペンネームで出版したりもしてて、だから、元々なかなかの才人であることは確なようですね。そもそも、芸術至上主義のディが出版をすすめるということ自体が凄いことで、彼としてはハンパな「自称・評論家」が横行する中で、アーネストのような才能のある人が本を出さないなんて間違ってる!
とずっと思ってて、それをその通り力説して説得したらしい。そしたら、アーネストさんは、そんなにおっしゃって下さるなら、ペンネームということでしたら、と折れて、ディの熱意に負けた形で出版を承諾した、と、こういう経緯だったようです。
ではなぜ、ディは彼が小説や評論をコツコツ書きためているということを知っていたのでしょうか。だいたい、あの控えめでぢみな「執事」という職に徹しているアーネストさんが、そうそう自分の書いたものをご主人さまに見せびらかすわけがない。でも、まだディがずーーーーっと子供の頃は、アーネストも今みたいに主従関係に徹してなかったから、ディにとって彼は年の離れた兄さんか、仕事で留守がちなロベールさんの代わりみたいな存在だった。つまり、とっても仲が良かったのよね。それで、アーネストもまだ若かったし、ディも懐いてるしで、せがまれるままにいろんな話をしてやってて、そのうち彼が小説とか書いてると知った幼いディが、読ませて読ませてなんて言うもんだから、ちょっと見せてくれたりもしてた、と、そんな感じでしょう。なにはともあれ、バカでは大家(たいけ)の執事なんてものは務まらないわけで、実は、アーネストさんは大学院まで出てるんですってさ。
では、若い頃は作家を目指して大学から院にまで進んだ彼がなぜ、モルガーナ家の執事になるに至ったか、それを大元のところからお話してゆきましょう。
そもそもはアーネストのお父さんが、モルガーナ家の先々代(ディのひいじいちゃん)の晩年から、先代(ディのじいちゃん)にかけて、執事をやってたというのが発端なんです。それで、なにしろ広い敷地に建ってる大邸宅ですから、別棟なんてものもあって、そちらに執事さん一家が暮らしてた。従って、もうその頃からモルガーナ家にとってアーネストは家族の一員みたいなものだったんですね。で、幼い頃からお父さんの手伝いとかしていたので屋敷にも出入りしてたし、利発で躾の行き届いた礼儀正しい子供だったこともあって先代からも可愛がられてた。そうこうするうちにモルガーナ家に長女誕生。結局これが一人娘になるんですけど、それがベアトリス、つまりディのお母さんなわけです。
彼女が生まれたのはアーネストがまだ6才くらいの頃だったようなんですが、とっても愛らしい赤ちゃんだったので、彼も妹みたいに可愛がってよく遊んでやったりとかしてて、それでビーチェもすっかり懐き、少し大きくなってからは本当の兄さんみたいに慕って後をついて回るくらいだったらしい。
そして〜♪月日が流れ〜♪、アーネストさんは成績優秀で前途有望な少年に成長し、将来は作家になりたいという夢を持ちつつ大学に進む年になりました。一方、このころビーチェは12才くらい。可愛い盛りの美少女に成長してます。まあ、何事にも控えめで分をわきまえるというのが生来の性質みたいなアーネストさんですから、ビーチェが年を追うごとに美しくなってゆくのを目の当たりにし、多少は憎からず思うところがあっても、だからってなにしろ主筋のお嬢様ですから手を出すとか、そんなことは考えもしない。まあ、半分は妹みたいな気持ちで見守ってて、幸せになって欲しいなあとか思ってたわけね。その頃はまだ、お父さんの後を継いでモルガーナ家の執事になるというような話は全然出てなかったようです。
ところが、まさかまだ結婚なんて早い!!
という十六歳でビーチェがロベールさんと結婚することになっちゃう。このへんの経緯はEpisode2で詳しく出てくることになってますけど、要するにこれはロベールさんがひと目惚れで、絶対ビーチェをヨメにすると頑張った結果なんです。元々、モルガーナ家の先代はとても優しい人で娘のことも可愛がっていたから、政略結婚みたいなことをさせるようなヒトでは全然ないし、まあ一人娘だからいずれは良い婿を取ってとは考えてたみたいですが、それだってビーチェに無理強いするつもりは無かったようですからね。だから、アーネストにしてもまさか十六歳で結婚しちゃう!
なんて思ってもみてなかったし、それでこの話はけっこうショックではあったようです。
でも、詳しい話を聞いてみると、ロベールさんてのはビーチェより十五も年上とはいえ、もう彼女に夢中で、しかも家柄ばかりじゃなく彼の人柄がとっても良いらしい。陽気でおおらかで気さくで、細かいことは気にしないってタイプなんですね、彼は。まあ、わりとそのへん、ハタチ過ぎてからのディの性格に反映されてるような気もして、やっぱり親子か?
とも思えるんですが、ともあれ、ビーチェもなんだかんだで結婚するなんてことになる頃にはすっかりロベールさんになついちゃってるし、何よりもこの人ならビーチェを幸せにしてあげてくれそうと思わざるをえなかったので、アーネストも素直に祝福することが出来たみたい。
しかし、この結婚には、過去のプロット連載を読んで下さってる方はご存知かも知れませんが、ひとつ重大な問題があった。それが、モルガーナ家の一人娘であるビーチェが、既に親から自分の家を継いでるロベールさんのとこに嫁入りしちゃったら、いったい誰がモルガーナ家を継ぐの?
とゆー問題だったわけです。
と、いうことで、なんか、今日もやたら長くなってるので、この後は続くということにしましょう。「その2」は来週書く予定です♪
★アーネストさん・その2★へ
2008/7/8
★Episode2★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。Ayapooの過去ログ内の記事を順を追って読むことが出来ます。
今週は、プロット連載はお休みして、Episode2の進行具合などをちょっと書いてみたいと思います。と、言うのは、あんまりこれから連載するお話の大筋をプロットで書いちゃうと、本文が出た時の楽しみが半減しちゃうじゃないですか。以前みたいに連載する前だったら、まあいつそんな話が世に出てくるかも分かんないんだし、あらすじだけ書いて読んだつもりになってもらうとか、それで全然良かったんですけどね。せっかく本文連載することにしたんだから、やっぱり完成作の方で読んでもらう方が絶対いいに決まってる。それで、プロットは、本文にはなかなか出て来そうにないエピソードとか設定とか、そういう大筋からはちょっとはずれてるけど、知ってると何倍も楽しく読めるような部分に限っといた方がいいかな、と思うわけです。
それでもメリルくんが画家への第一歩を踏み出すことになる受賞作の話とか、アーネストさんがいかにしてモルガーナ家の執事になったかとか、いろいろ書いときたいことはあるんですが、それはまたそのうちということにしておきましょう。
さて、Episode2の話ですが、タイトルが「告白」なのは前にも書きました。このタイトルでゆくと、どうしてもハイライトはディとデュアンがいかにして親子にあるまじき関係になっちゃったか、というところになると思うんですけど、でも、それを書こうとするとやっぱりそもそもデュアンがディに会う前からどんなに画家としてのディのことを好きで尊敬していたか、そのへんから書いてゆかないと、結果としてあんな関係になっちゃうことそのものに説得力がなくなっちゃう。だから、この話はデュアンがディと初めて会うとこから始まって、そうなるとどういう経緯でモルガーナ家を継ぐことになったかも書かなきゃならなくなり、そこには当然、メリルやファーンや子供たちの母親とかロベールさんなんかも絡んでくることになる。
今のとこ全体の3分の1くらいのとこまで書けてるんじゃないかと思うんですけど、それで36000字くらいだから、今の予測ではその3倍で11万字くらいで終わるんじゃないかという気はする。しかし、Episode1も予測に反して最初思ってたより2倍近くの長さになったし、書いてる間に次々と新しいシーンが見えてきちゃうんだから仕方ない。結果として、もしかするとEpiaode2ももっと伸びるかもしれない。
まあ、元々は「告白」なんてタイトルですから、ディとデュアンの関係にスポットを当てて、Episode1と同じくらいかなとか漠然と考えてたんですけど、いざ書き始めると、あのシーンもこのシーンも必要だなあということになって、そうなるとメリルやファーンもお座なりに書いとくわけにもゆかず...。
ともあれ、今は第十章まで書き上げたとこで、それでやっと子供たち三人がモルガーナ家に集められるシーンまで辿りついた感じなんです。そうするとこれから、メリルが家継ぐの継がないのでゴテて、結局デュアンにその役が回って来て、Episode1でちょこっと話だけ出てたファーンとデュアンのお披露目の大パーティーとか豪勢なシーンもあって、その前には当然カトリーヌさんが「やだやだ」とゴテるあのシーンとか、ディがデュアンに「家継いで欲しい」とお願いする例のシーンとか、あんなんも全部入ってくることになりますね。で、それを超えてから、やーーーっと、タイトルが示す本筋に辿りつく、と。ああ、大変だ。
なんか、「誘拐」の時もそうだったんですけど、たいていの場合、書き始める前はメインの大筋くらいしか分かってなくて、それって例えばEpisode1だと、「デュアンとエヴァが誘拐される」とか、Episode2だと「デュアンがディの恋人になる」とか、単にそれだけしか分かってないような状態で書き始める。しかし、書いてるとその大筋を実現するためには、実に沢山のシーンを必要とするんだなあと、後になって気がついて、ああ、8月から連載始めるなんて書かなきゃ良かったと、結局そこへ辿りつくのであった(計画性絶無で発言してるからな、私は...)。
でもまあ、とにかく十章までは書けてるので、多分、8月の終わり頃までにはかなり出来上がりに近くなるだろうから、連載始めることは始められるんではないかと思います。ただ、まだDialogueを出し始めたとこなんで、あれがその時どのくらいまで出てるかで、こっちが少し連載開始を遅らせなきゃならなくなるという事態は起こるかもしれません。そのへんは今ちょっと考えてるとこです。
しかし、Episode1の連載を始めた当初、今年はEpisode4まで出せるだろうという、まるっきり何の根拠もない展望を漠然と信じてたんですが、結局、毎週毎週、一生懸命連載しても、今年はEpisode2が全部出たらいい方じゃないかって感じになってきちゃいましたな。書く方はもう少し先まで進むと思うので、それ考えると、今年はこれまでの半生で一番沢山小説を書いた年ということになるかもしれませんけど。まあ、これは私にとってとても良いことなんではないかと思います。こんなきっかけでもなきゃ、いつまでも出来上がらないままですからね。
で、これから十一章を書くんですけど、おじいさまに初めてお目通りするというその日、最初にデュアンがモルガーナ家に着いて、次がファーンで、そしていよいよ怒りまくってるメリルくんの登場となるわけです。果たして、メリルくん
VS
ディの対決、どうなるのかな〜、と思いつつ、それはこれから書きます。ああ、楽しい♪
★アーネストさん・その1★へ
2008/6/26-6/27
★Dialogue★
やっとなんとかページデザインも決まって、アップできる運びとなりました。ついでにEpisode1の独立バージョンも同じデザインの色違いで作っちゃったので先に出しましたが、なんか豪華装丁本の中味って感じになって、けっこうキレイに出来上がりました。連載時と違って、今度は一気に通しで読めますので、おヒマな時、読み返したい時、そちらの独立バージョンもご利用下さいまし♪(トップページのこちらよりリンクしてます。)
Dialogue
の方のページは赤黒使ってるので、Episode1のよりぐっとハデなカラーリングになってますけど、もともとそっちの方が別のページで使おうと思って随分前に作ってたデザインだったんです。それはそれでなかなか凝ったFlash画像になってて気に入ってるんですが、まだ公開する機会には恵まれてなかった。それで、今回、どんなページにしようかなーと考えてた時にたまたまそれを見つけて、流用したというわけです。
さて、そのDialogueってお話ですが、公開するっていうので昔のノートを見てみたら、これも起源が古い。なにしろ最初の着想が1986年の10月ですってさ。まーたちの話よりは新しいけど、それでもおい、22年前だよ。自分でもひぇ〜って感じですが、いったいその間、私は何をしてたんだ???
ちなみに当時、私がいくつだったかについては、深く考えないよーに。
ともあれ、この話が生まれた経緯についてはまた「こぼれ話」みたいなページを作るつもりなので、お話の背景やシーンに使われてる道具立てなんかと一緒にそちらで書こうかなと思ってるんですけど、とにかく86年に着想があって、バラバラに書いてたエピソードをこれから公開する第1部にまとめ上げたのが96年の話。で、公開が2008年、つまり、10年かかって書いて、更にまた10年かかって公開にこぎつけたってことですね。う〜ん、なんだかなあ...。(どうせ私はそういう性格よ♪)
公開しようと思えば、Magazine
Workshopも既に7年もやってんだからいつでも出来たはずなんですが、そのうちね〜、とか言いながらそのままになってたのが私よね。まあでも、何事も起こるべき時に起こるというか、根本的に「果報は寝て待て」ってのが私の生活信条なんで、公開することになったということは、公開されるべき時に来たってことなんでしょう。そういう時はすんなりデザインとかも出来上がったりするもんなんだよね。
今、最終チェックやってますので、7月1日にPrologue約25000字を一挙公開することができると思います。その後、隔週連載くらいでお届けしてゆきますので、ま、おヒマなら読んでみて下さい。
ところで、この作品の今回公開予定になってる分は全体で約80000字くらいなんですが、それってこの前出したEpisode1より少し多いくらいの分量なんですよね。Episode1は1ヵ月半ほどで最初から最後までほぼ順番に書き上げたので、Dialogue
の方がずっと量が多いと思ってたんですけど、実際に文字数を数えてみたらそれほど変わらなかった。なにしろ、Dialogue
はバラバラなエピソードを10年かけてぼちぼち書いて、やっとこさ、まとめあげたような作品なので、自分的にはそれはもう大長編!!
なつもりだったんです。たしかにそれはそれなり長いけど、同じくらいの長さなのにEpisode1はたったの1ヵ月半で書いてるじゃないですか。だからこっちは「わりと短い」という印象が自分としてはあるんです。それがほぼ同じくらいの分量だったってことは、それだけ小説書くウデが上がってるってことなのかなあと考えるとなかなかうれしいものがありますが、ここ10年近く、サイト作るのにいっぱい文章を書いてたから、その分いくらか向上したとしても不思議ではないな。
実は、Dialogueをまとめあげた年に、もう2本、第1部をまとめあげた話がありまして、その3本を書き上げた時、もうこれ以上文章が上手くなることはないだろうと思ったもんだった。それは、それより以前に書いたものって、けっこう今読むと「なに、これ?」と自分でも思うくらいヘタだったりするんですけど、まあ、そういうものは、よくある話で今読み返すなんてことは恥ずかしくって出来ない!
たどたどしいとゆーか、堅いとゆーか、「あ〜〜〜、なんて〜〜〜、ヘタなんだ〜〜」と、3行読んでつっぷしてしまうくらいヘタ!
なんだけど、そのDialogueも含めた3本というのは、今でも「おお、なかなか」と思いながらきっちり最後まで読み通せるくらいに上手くなってるのよね。だから当時、「もうこれ以上は上手くなる余地はない、最高のとこまで来た」みたいに思ったのも、ま、自己満足だったかもしれませんけど、それなり根拠のあることではあったよね。
でも、ずーーーっと、サイトでいっぱい文章書いて来て、その後、まーたちの話を2年くらい前から再開したら、おや、以前より更に良くなってるじゃないか、みたいな?
そういう実感があって、そうするとMagazine
Workshopとかでいろいろ記事を作ってたのも、いい勉強になっていたんだなあと改めて思ったりしました。まあ、サイト作ってること自体が、私にはいろいろ幅を広げるきっかけになったりしてるので、そこから学ぶところも多いのは確かです。
とゆーことで、もうすぐ公開いたしますので、そちらもどうぞヨロシク♪
2008/6/23
★ケンちゃん・その2★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。Ayapooの過去ログ内の記事を順を追って読むことが出来ます。
今週は、本日のワン・シーンということでお届けしようと思うんですが、Episode1でちょこっと名前だけ出て来たルドルフさん。ディが自分ちの事業の運営を任せているブレイン・チームの筆頭で、元はロベールさんの部下だったというヒトですが、覚えてらっしゃるでしょうか。
今回は、ディにケンちゃんの身上調査を頼まれたルドルフさんが、報告書を持ってやってくるところなんか書いてみたいと思います。先週のプロットを元にどんなふうなシーンになるのか?
では、どうぞ。
**************
「これは、アシュレーさま、ようこそいらっしゃいました。だんなさまがお待ちかねでございますよ」
「やあ、アーネスト、久しぶりだね。ディはアトリエかい?」
「はい、そちらの方にお通しするようにと承っております」
アーネストに迎えられて入って来たのはルドルフ・アシュレー、ディがモルガーナ家麾下の企業群の運営を実質的に任せているブレイン・チームの筆頭だ。元はシャンタン伯の部下だが、ディが18歳で祖父から爵位を継いだ時、ロベールがその補佐役として付けた人物である。
当時はルドルフ自身がまだ二十代後半と極めて若かったものだが、それから既に30年近くが経った今では、いつの頃からかたくわえた口髭のせいもあって、すっかりダンディな紳士になっている。
「デュアンは?」
「今日はまだ学校からお帰りになっておられません。そろそろお戻りかとは思うのですが」
「じゃ、彼と一緒?」
「ウィンスローさまですか?
はい、坊ちゃまの送り迎えをして頂いておりますので」
「デュアンも贅沢なヤツだね。あの子は自分のボディガードがどういう人物か、まだ知らないんだろう?」
「ええ。だんなさまが言う必要はないとおっしゃいましたので、まだご存知ないと思いますよ」
「で、ボディ・ガードだけじゃ飽き足らず、今度は家庭教師に抜擢したんだって?」
「左様でございます。坊ちゃまは大変、ウィンスローさまのことがお気に入りのようで」
アーネストが笑って答えるのへ、ルドルフも微笑を返した。
「ただ、私の方といたしましても、坊ちゃまの先生になっていて下さる方がなにかと」
それへルドルフは頷きながら答えている。
「まあ、そうだろうね。彼の大モトの出自を知らないならまだしも、知ってしまうとちょっと使用人としては扱いづらいだろう」
「おっしゃる通りです」
話している間に二人はアトリエの扉の前に着き、アーネストがアシュレーさまがお見えです、とディに声をかけると、中から入っていいよという彼の声が聞こえて来た。
「やあ、ディ。久しぶり」
「ようこそ、ルディ。どうぞ、こっちに来て座って」
後ろでアーネストが丁寧に扉を閉める音を聞きながらルドルフはディのいるソファの方へ歩いて行き、その向いに腰掛けた。
「昨日ちょっと電話で話した通り、まあ、いろいろワケありのようなんだけれどね。報告書はこれ」
「有難う」
「うちは直接関係している部分がなかったので私もよくは知らなかったんだが、しばらく前から彼はちょっとした台風の目みたいな存在だったようだよ。特に、経済界でもウィンスロー家と関わりのある部分では」
「事業の方は彼の父親が継いでいるんだろう?」
「それは確かにそうなんだ。しかし、経営からはすっかり身を引いていたとはいえ、トーマス・ウィンスロー氏は未だ麾下の企業の大株主だったからね。それがそっくりそのまま、孫のケネスくんに受け継がれたともなれば。ましてや、その親子が犬猿の仲ときているから」
「そんなにこじれてたわけ?」
「らしいよ。まあ、そうでもなければウィンスロー家の御曹司が傭兵なんてアウトローなことをやっているわけもないと思うし」
ルドルフの言うのへ、ディは笑っている。
「確かにね。ぼくもそのへんが不思議で貴方に調査を頼んだわけだから」
「詳しいことはそこに書いてあると思うけど、やはり最大の原因は夫人...、ケネスくんのお母さんだが、彼女が早くに亡くなったことなんだろう」
ディは頷きながら聞いている。
「それに、彼は大学では経済と政治をダブル・メジャーで専攻してる。そっち方面に素人というならまだしも、いつ経済界に入ってもおかしくない素地があるわけさ。ましてや、トーマス・ウィンスロー氏の直系の孫ときてはね。血統書付きな上に、それに相応しいIQ、しかも若い。これはどうかするとクーデターなんてこともあるかもしれないと、もっぱらのウワサだ」
「なるほど」
「しかし、その彼がデュアンのボディ・ガードとはねえ。私も聞いた時は驚いた。ロウエル卿は当然、そのへんの事情は承知の上で彼をモルガーナ家によこしたんだろう?」
「それはそうだと思うよ。ただ、アレクのことだから、あんまり気にしてはいなかったと思うけど」
ちょっと考えてみてルドルフは納得したように頷いた。
「だろうな」
「ぼくとしてはなかなか面白い人物を寄越してくれたと思ってるけどね」
「それにしても、これはまたいろいろ憶測が乱れ飛んでも不思議はない事態だなあ。元々がそういう立場にあるケネスくんが、既にロウエル卿のお気に入りということは天下のIGDと浅からない関わりがあるわけだし、その上、モルガーナ家の後継者の家庭教師におさまったとあっては」
「人脈ってこと?」
「最強だろう?」
「それは確かに」
「それに、聞いてるとデュアンのみならず、きみもどうやら彼のことは気に入ってるようだし」
ディはそれには答えないで微笑を返しただけだ。
「しかし、ケネスくんとしては回りがどう取り沙汰していようと今日明日に行動を起こすつもりでもないようだね」
「それはそうだと思うよ。とりあえずは、通常の社会復帰を期してデュアンのボディガードに志願してくれたそうだから」
「今日は、私も会って行っていいのかな」
「もちろん、お好きなように。ただ、彼のことをこちらが知っているとはまだ話していないし、貴方に調査を頼んだことも内緒だから、そのつもりでいてさえくれれば」
「いいよ。心得ておこう」
言っているところへアーネストがコーヒーを運んで来た。それと一緒に飛び込んで来たのはデュアンだ。
「いらっしゃい、アシュレーさん」
「やあ、デュアン。今帰ったのかい?」
「ええ。いらしてると聞いたものだから、ご挨拶しておこうと思って」
「おかえり、デュアン」
「ただいま、お父さん」
「ケンは?」
「クルマをガレージに入れてから来ると思うよ。ね、アシュレーさん。今日も一緒に食事していってくれるんでしょう?」
「ご招待いただけるなら」
「あれ?
来るといつもそうするじゃない。いいよね、お父さん」
「うん、ぼくがまだ誘ってなかったからだよ」
「そう。じゃ、ぼく着替えてくる」
「ああ、そうだ、デュアン。ケンにちょっとアトリエに寄ってくれるように言っておいてくれないか」
「いいよ。じゃ、後で」
アトリエから駆け出してゆくデュアンを見送りながら、ルドルフが笑って言っている。
「元気だね、相変わらず」
それへ、コーヒーをテーブルに置きながらアーネストも笑って言った。
「坊ちゃまがみえてからというもの家の中が大変若々しくなりまして、私どもも毎日が楽しゅうございますよ」
「あの子を見てると、我々も年を取ったとつくづく思うよ。そうじゃないか、ディ?」
「ぼくはまだ若いですから」
「こらこら。3人の子持ちが何を言う」
三人が笑って話しているところへノックの音が聞こえて、伯爵、お呼びですかとケンの声がした。話題の人物の登場に、ディとルドルフは意味ありげに目を見交わし、それからディは入っていいよ、と答えた。
★Episode2★へ
2008/6/23
★ケンちゃん★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。Ayapooの過去ログ内の記事を順を追って読むことが出来ます。
なりゆきでデュアンのボディーガード兼家庭教師にされてしまったケンちゃんですが、まーが「けっこういいうちの出」とか言ってたので私も気になってはいたんです。うちではたまにいますね、こういうキャラ。全く脇役で出てきたのになんか作者に気に入られてしまい、その後、詳細な生い立ちとか背景が出てきてしまうとゆー。早い話、ディなんかもそうですけど、そんなだもんでうちでは際限なくキャラが増える傾向にあります。
そもそもふつーの小説ではメインな登場人物以外をそんなに事細かに設定する必要もないし、やっても編集者とか選考委員とかに「必要ない」とか言われたりしちゃうんじゃないかと思うけど(だから、あいつらのやることには芸がないんだ)、私はそういう意見には「うるさい」とヒトコトだけ返して、自分の世界にどっぶりハマりこんでいたいヒトなんだな。それが気に入らんやつは読まんでいい、というか、最大多数の最大幸福なんて私にはどーでもいいんで、面白そうと思うヤツが出てきたら、本筋からはずれようとどーしよーと追っかけていっちゃう。これも、私の話がいつどこへ飛んでくか分からない原因のひとつだな。でも、いいんだ。ウリものにするつもりないから。
さて、そーゆーことで、今日は新顔のケンちゃんの背景をあれこれ書いてみたいと思います。
まずは、ディんちの執事のアーネストさんが、ケンを使用人として扱ったものか、ロウエル卿からお借りしている客分として扱ったものか、どっちにしたらいいんでしょうねとディに相談したことから始まります。家の中の秩序を守る立場のアーネストからしたら当然の疑問だったんですが、それに加えて彼は友人からケンが「トーマス・ウィンスロー氏のお孫さんだそう」という話を聞き込んでいて、それもあってちょっと判断に困ってたらしい。
このトーマス・ウィンスローって人は既に亡くなってるんですけど、生前は経済界の重鎮でもあった人で、ウィンスロー家ってのは貴族ではないけど歴史は古い家柄なんだそうです。で、ディはアレクやまーが既に信頼している人物だということで、ケンのことは特に調べる必要もないと思ってたんですが、その話をアーネストから聞いて興味を持ち、改めて身上調査みたいなことをする。もちろん、ケンには内緒です。
それによると、ケンはそのトーマス・ウィンスロー翁のたった一人の、それも大変お気に入りの孫だったようで、そのおじいさまから相当な遺産を残されてるというウワサがある。ふつー、それはまずケンの親に行くはずのものなんですけど、なんでおじいさまは個人資産の大半をケンに遺したというウワサがあるのか。
ケンのお父さんというのは入り婿で、つまりウィンスロー氏の一人娘と結婚して事業を継いではいるんですけど、この夫妻、つまりケンの両親ですね。これががうまくいってなかった。ウィンスロー氏としては、その経営手腕を見込んで娘と結婚させたんだけど、こいつが仕事はできるがロクでもない男で、ケンのお母さんをあまり幸せにはしてくれなかったらしい。ケンは幼い頃からこの父親が妾作ったりして、優しくて気の弱い母親を泣かせてるのがすごくイヤで、それもあって父親とは仲悪かったようなんですが、それに加えて自分が成り上がりなもんだから、その反動でやたら家柄家柄とうるさくて、ケンにも名門の学校を出て、いいとこの令嬢と早くに婚約して、みたいなことを押し付けて、本人の意志をまるっきり無視したようなレールを敷こうとするのも衝突する元だったわけね。
そうこうするうちに、まだケンが十代半ばくらいの頃に、あまり丈夫じゃなかった母親が心労もあって亡くなってしまう。そうしたらこの父親はどうしたか。妾だった女を後妻に迎えて、しかもそっちで出来たケンの腹違いの弟まで一緒に家に入れた。これが、後に大学に入った時にケンが家を出る最大の原因になったようですけど、この後妻におさまった女ってのがめちゃくちゃデキが悪くて、ケンを差し置いて自分の子供に家を継がせようとしてるのがありありと分かる。ケンはその父親と違ってウィンスロー家のまごうことなき直系ですから、おじいさまの血筋とか躾とかもあって誇り高いし、だから財産目当てとかお家騒動とか、そういう醜い争いに巻き込まれるなんて身の穢れとか感じるようなヤツなのよね。で、財産なんか欲しければくれてやる、くらいに思ってたらしいですけど、おじいさまは自分の死後、全財産をあのデキの悪い婿に譲ってしまって、それが万一にもケンではなく腹違いの弟の方に受け継がれるようなことになったら、事実上、ウィンスロー家の血筋は絶えてしまうじゃないかと心配する。
そもそもうまくいかないと分かった時点でさっさと離婚させておけばよかったものを、世間体を気にしてそうしなかったことを悔やんでたこのおじいさまは、ケンをそういう家庭で育ててしまったことにも負い目を持ってて、そんなこんなで事業の方は仕方がないが、彼の莫大な個人資産の方はケンに譲ると遺言して亡くなるわけです。おじいさまが亡くなるのは、ケンが既に傭兵なんて仕事を始めてからのことですけどね。
それに先んじて、後妻の継母と反りが合わず、大学に入ると同時に独立したケンなんですが、今度は大学卒業と同時に婚約なんてことを無理矢理決められるに至って、とうとう大爆発。いーかげんにしろ、縁切ってやると怒りまくって父親と絶縁。まあ、だからって別に自暴自棄になって傭兵なんて仕事を始めたわけじゃないですが、これはおじいさまとも話し合った結果、やってみたいならやってみろと言われて最初はクランドルの正規軍に入ったんです。
なぜかとゆーに、このおじいさまがアレクのファンというか、とにかくアレクのことが気に入ってて、「アルフレッド・ロウエル侯爵の末のご子息は〜」みたいな感じでよくケンに子供の頃からその話をしたりしてたのよね。それでなくてもアレクはクランドルでは軍人だった頃から有名だったこともあってケンはよく知ってて、憧れの人というかヒーローというか、本人アレですけど、クランドルにはアレクを自分の英雄みたいに思ってる男のコはけっこう多いんです。それで、ケンは成り上がりで考え甘い父親のようには絶対なりたくないと思ってたこともあって、自分も若いうちに世界情勢の生の現実を目の当たりにできる環境に立って現実的な知識を蓄え、どんな逆境にも負けない精神力や体力を養いたい。それには、いっぺん軍人になってみるのもいいかなと思ってた。ちょうどその頃、アレクが除隊して経済界に入ったみたいなこともあって、軍で経験を積んでから経済の世界に戻るということもできなくはないなとまあ、アレクの後追いみたいなもんですけど、憧れの人のマネっこをしてみたいって、わりとよくある話じゃないですか。大学がアレクと一緒というのも、そのせいもあるでしょうしね。
で、最初は正規軍に入ったものの、とても優秀なので数年するうちにフリーでこういう仕事があるけどやってみないかとか誘われて、そっちの方が面白そうと思ったケンは結局、あっちこっちの火事場の火消し(紛争の調停)やカウンター・テロとかに関わる仕事をするようになって、そうこうするうちにIGDの仕事にも関わるようになってった。付け加えると、IGDの傘下には傭兵派遣を仕事にしてる会社もあります。これはもう、まーがまだ内輪での話とはいえ「世界連邦構想」などとゆーぶっとんだことをブチあげてるわけですから、私設軍隊なんてIGDの構想が始まった時点から計画の中にある。これはあえて言えば国連軍みたいなもんかな。IGDは国連ほど役立たずではないが...。(ヒューマニズムだけで歴史は動かんのだ。)
さて、そんなこんなあって8年が過ぎて現在とゆーことになるわけですけど、数年前には仲の良かったおじいさまも亡くなり、ウィンスロー家はあのバカ婿ではなく、直系のおまえが守っていってくれと病床から託されては、「財産なんかいらん」と思ってても仕方がない。あのバカ親には何もやりたくないとゆーおじいさまの気持ちも分かるし、軍に入ってから何年も経って当初の目的は果たせたようでもあり、憧れのロウエル卿のところでも働けたし、今後はアレクに倣って経済界に入るってのもいいかなー、どーしよーかなー、とか考えていたところに、デュアンのボディガードの話が持ち上がった、と、まあこんな感じかな。ケンが「大学を卒業した後、考えるところがあってこういう仕事についた」とか「この8年で今までの仕事をしてきた目的は大体果たせたと思うので、今後のことも考えている」とかディに言ってたのはこういう事情を背景としてのことだったようです。う〜ん、あれもその場限りのセリフじゃないんだよなあ、ちゃんとこうして後からリクツの裏づけがつくとこが私の小説だな。
ともあれ、デュアンが「家庭教師になって!」とか言い出したことでケンはいちおう「先生」ってことになったから、アーネストとしてもその大モトの出自に対して妥当な扱いが出来るとひと安心ってとこですかね。しかし、そーゆーケンみたいのにあえて「ボディガードをしてやってもいいな」と思わせたデュアンくん。作者が今思っている以上のオオモノになるかもしれません。楽しみ、楽しみ♪
★ケンちゃん・その2★へ
2008/6/20
★エヴァちゃんのお願い★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。Ayapooの過去ログ内の記事を順を追って読むことが出来ます。
アレクがエヴァとデュアンに「何でもおねだりを聞いてやる」と通達していたのは先日公開したEpisode1を読んで頂いた方はご存知かと思います。デュアンはまだ何をおねだりしたのか教えてくれないんですけど、エヴァちゃんは「IGDに就職させてください!」とゆー、壮大なお願いをしたのだとか。とはいえ、エヴァちゃんのことですから、縁故就職で「楽していいとこにお勤め」とかは全然考えてなくて「一生懸命勉強して、役に立つくらい賢くなりますから使って!」とお願いしたんですってさ。
彼女の両親もそれなりお金持ちらしいから、ヨソに就職しなくても親の仕事を継ぐとか、いいお婿さんをもらって継いでもらい、自分はリッチな奥サマ稼業とか、いくらでも楽な道がありそうなんですが、何を好き好んで「ヒト使いが荒い(給料は破格らしいが)」と評判のIGDに就職したいのか。どうやらそれは、「デュアンと少しでも同じ世界にいたい」という、健気な乙女心からのようなんですね。可愛いじゃありませんか。
ま、なにしろデュアンが画家志望なのは周りのみんなが知ってるんで、中学から先はアートスクールとか美大とか、とにかくそういう方面に進むことは間違いない。でもエヴァちゃんは自分には芸術的素養はないようなので、一緒にアートスクールに行くなんてことは考えられない。そうするともう道はすぐそこで分かれてしまう上、デュアンは将来の伯爵さま。このままではどんどんどんどん違う世界の住人になっていってしまうじゃないのー。
そう思ったエヴァちゃんは、唯一これからも上流階級と接点を持てるとしたら、IGDのようなスーパースペシャルな企業に入って、それなりの地位につくことしかないのでは?
みたいな結論に達したらしい。自分はピアノを習っても、バレエを習っても、とてもそれでプロになれると思うほどの芸術的才能はないが、幸い勉強は好きで成績もいい。それを生かして伸ばせば、IGDに入ってそれなりな仕事が出来るんじゃないか、と考えたようです。それに、他の企業と違ってIGDは特にモルガーナ家との繋がりが強い。だからそこにいれば、少なくともデュアンとまるっきり縁がなくなってしまうってことはないだろう。例え相手にしてもらえなくても、せめて近くにいたいのよとゆー、分かるなあ、その気もち。
で、まーからそれを聞いたアレクは「あんな可愛いコがうちに来てくれるんだったら、おれの秘書にしよう」とか言ってけっこう喜んでるらしいですけど、この先、なんかメリル兄ちゃんがこのエヴァとデュアンの間に割り込むというか、まあ、デュアンの方が全然恋愛感情持ってないんですから割り込むってのとも違うと思いますけど、絡んでは来そうな気配がしなくもないんだな、私は。しかし、あの内気なメリルくんのことですから、これはまとまるとしても相当難航するというか、そんな話はこのコたちみんながハタチを大幅に過ぎてからになるでしょうしね。それもまた、そのうち、な世界ではありますな。
★ケンちゃん★へ
2008/6/13
★マセラーティの謎★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。Ayapooの過去ログ内の記事を順を追って読むことが出来ます。
以前から話に時々出てくるディの愛車。彼の瞳の色とそっくり同じに特注した深いブルーメタリックのスポーツタイプなんですが、ひとつ不思議だったことがある。ディはものすごく美形だけど、決してナルシストではありません。それどころか、どちらかというと、あの容姿のためにいろいろひどいめにも合ってるんで、特に十代の頃までは自分の容姿なんか見るのもイヤ!!
みたいな感じだったようです。そうするとそのディが、自分の瞳の色と同じ色のクルマをわざわざ特注したりするだろうか?
どうもディの性格とはそぐわないような気がして、なんで?とか思いつつ書いてたんですけど、どうやらあのマセラーティは、彼が祖父から爵位を継いだ18歳のバースディに、その記念として両親が作らせたものだったみたいで、なるほど、それならディが特に大切にしてるのも納得がいくなあと最近になってから分かりました。まあ、色を決めたのはおそらくロマンティストのロベールさんでしょうね。最愛の妻と息子が同じ瞳の色してんですから、何を贈ろうかとか、当時まだ存命だった妻と相談した時に、ビーチェが18歳だしそろそろクルマなんてどうかしら、とか言って、ロベールさんが、じゃあ、きみとディの瞳と同じ色がいいなあ、とか言い出して、ってありそうだもんな。なにしろ、熱愛夫婦だったからなあ、ディの両親は。
そういう経緯があれば、ディがその後30年近く経ってもこのマセラーティを手放さず、他にもクルマいっぱいあるのに、プライヴェートではいつもコレに乗って出かけるのもよく分かる。うんうん、これで納得がいったぞ。
クルマのナゾはこれで解けましたが、先週、ディがダイアモンドの指輪はめて出かけたとか書いてたでしょう?
あれ、あのダイヤも「母の形見」とかだったりするかもしれない。サイズは当然変えてるだろうけど、それ考えると、元々、先祖代々受け継がれている宝石とかも山ほどありそうだし、ロベールさんがビーチェに贈った宝石類もおびただしい数ありそうで、でもディは結婚してないから、今のとこモルガーナ家でそれを使う女性はいないんだなあ。ディの代では現れそうにもないし。でも、そのうちその宝飾品のコレクションとかも話に登場させてもいいな。お?
実は今、デュアンくんに少年探偵団みたいなことをやらせてみたいなとか思ったりしてるんだよね。古式ゆかしいお城もあることだし、今思いついたんですけど、そのへんにこの宝石コレクションって使えないかな。エヴァちゃんとか、そのライバルの女の子とかもイメージ見えて来てるし、なんかまた、意外な方向で話が出来て来たりするかもしれない。ほんと、突然どこへ行くか分からないのが私の話だからなあ...。今や、まーなんて完全に脇役と化してるし、本編はいったいどこ行っちゃったんだろう???
★エヴァちゃんのお願い★へ
2008/6/3
★セーブルとダイアモンド★
・この話について初めて読まれる方、登場人物等についておさらいしたい方は主要登場人物、用語等解説をご覧下さい。
・また、この話については2005年8月からAyapooで断片的にプロットをご紹介しています。小説本文はまだ公開していませんが、興味がおありの方は専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。Ayapooの過去ログ内の記事を順を追って読むことが出来ます。
Ayapoo初の試みである短期集中連載第1話もつつがなく終了いたしまして、常連の皆さまがたには、よく呆れず、見捨てず(呆れてはいたかもしれないが)、長らくお付き合いいただきましたことに心より感謝しております(合掌)。
いやー、自己満足でもなんでも、一生懸命書いたものを読んで頂けるというのは、それだけで本当に嬉しいものです。それに味をしめて、現在第2話を執筆中なわけですが、先日書いた通り、今度はデュアンくんとディの出会いから始まり、いろいろあって親子にあるまじき関係まで発展してく過程を描いてます。メリルとデュアンが大げんかするシーン(っつーか、デュアンが一方的にメリルに怒りまくってるって感じですが)とか、子供たちのことがロベールさんにバレて、ディがめちゃくちゃ怒られるシーンとか(この親子は書いててけっこう面白い)、ディとデュアンのことだけじゃなく、モルガーナ家のファミリードラマ的なシーンもちらほら見られるんじゃないかと思います。ハイライトはやっぱり、デュアンがディに告白しちゃうシーンでしょうけどね。「ぼく、お父さんが好きなんです!」とかって。きゃはははは。たいへ〜ん♪
ま、それなりお楽しみ頂ける出来になるといいんですけど、それはともかく、やっぱり私の小説って根本的に明るいなあと改めて思ったりする今日このごろ。なんてったって、デュアンくんなんて設定だけ見たらめちゃ暗いキャラじゃありませんか、本来。
私生児で、10才くらいになるまで父親の顔を見たこともなく日陰(?)で育って、しかも母親の違うにーちゃんが二人もいて、父親はあんなんで、40も過ぎたってのに未だに子供ほっぽらかして結婚もしないで遊び歩いてる。おまけにその15年来の本命の恋人ときたひには男の子だし、それもアリシアが13才くらいのころからずーっと続いてるってのが「有名」だったりするしなあ。ふつーの神経だったら、どっぷり暗いコになってても仕方ない境遇なんだが、デュアンの場合、それに積極的に参加してるもんな。
まあ、こういう父親を持った場合のふつーの反応を一番示してるとしてたらメリルくんの方でしょうね。しかし、このメリルでさえ、「お母さんはちゃんとした人なのに、結婚してあげなかった」とか、「家族揃って一緒に暮らしたかったのに」とかいうカドで親父に怒りまくってはいるけど、元来「絵を描くことの他はわりとどーでもいい」ってとこがあるから、「本当ならぼくは伯爵家の長男なのに」などとゆー、世の中よくあるタイプの怒りってのは全然持ってない。なにしろ、「家継げ」と言われて、「やだ」と言い切ったヤツだし、要するに地位や財産なんかまるっきり目に入ってないのよね。
やっぱりこのへんの明るさは、作者の性格なんだろうなと思う。そりゃ、私だってお金は好きですよ。お金儲けだってキライじゃないです。でもなあ、思うに「金、金言ってるヤツのとこにほど金は回ってこない」、これはひとつの法則としてあるんじゃないかという気もする。まるっきりそんなの欲しがってないとこに回ってくるもんってゆーか、この話の場合、デュアンのママのカトリーヌさんは、ディのことは好きだけど「伯爵夫人の地位」なんてものにはまるで興味がないし、それ目当てみたいなことになるのを何よりイヤがってる。だから、そういう母親のもとで育ったデュアンもディのことを画家として尊敬こそすれ、その財産とか地位には元々全く興味を示してなかったのに、どっちも転がり込んで来たりしちゃう。でも、それをラッキ〜とか思うようではダメで、そこで「重い責任」を自覚するくらいでないとそんな地位についてもらっちゃ困るんだが、ともあれ、そういう人間ばっかり寄ってる話だから、陰湿とか暗くはならないんだろうな。
ある意味これは「人間的」とは正反対のものなんでしょうけど、私はそういう種類の「人間的」ってヤツが大キライでね。結局それって、すごく卑しくて低い人間性を反映してるだけじゃんって思う。そんなもん深刻ぶって克明に描いても何が文学かと思うし、そーゆー現実になんぼでも転がってるようなもの、なんでお話の中にまでわざわざ持ちこまなきゃならんのか分からんし、私にとってはつまらんだけだな。で、そんな「現実」もしくは「現実の人間」にう〜んざりしてるから、私の話ってのは「徹底的に現実離れ」しなきゃおさまらないんでしょう。
「現状に甘んじていたのでは発展も向上もない。理想に向って邁進する努力こそ肝要なのだ。」
**************
さて、本日のワン・シーン、今回のタイトルは「セーブルとダイヤモンド」。ある日、ディがオシャレしてお出かけするところに出くわしたデュアンくん。するとディはセーブルのロングコートとおそろいの帽子(ロシア風ので、メーテルがかぶってたみたいな形のやつ)、指には大粒のダイアモンドって格好だったりするわけです。ふと、私は現実世界でこんな格好をして決まる男なんているだろうかと考えて、即座にフェリーさんが思い浮かんでしまいました。ああ...。あの先生だったらねえ、まあ決まるでしょうな。イメージ浮かぶもん。
で、そんな格好をしているディを見てデュアンくんはぼーっとなっちゃうわけですが、見とれて上の空で「いってらっしゃい、早く帰ってきてね」と言って見送るデュアンにディはにっこりして頷いて見せるだけで出かけちゃう。ディの部屋の扉の前で、その後姿を見送ってぼーっとしたままのデュアンに、ディとすれ違うようなタイミングでこちらに歩いてきたケン(ご存知のように、ケンはデュアンのボディガードをすることになったのでモルガーナ家にいます)が声をかける。
「デュアンくん?
どうかしたんですか?」
「え?」
「どうしたんです?
こんなとこでぼーっとして」
「あ、ディとすれ違わなかった?」
「ああ、ええ、先ほど。どちらかにお出かけのようでしたね」
「うん...、たぶんデート」
「はあ...」
「じゃ、見たよね?」
「何をです?」
「ディ」
「ええ、ですから先ほど」
それへデュアンは深いため息まじりに言った。
「なんで、あんなに素敵なんだろう」
「は?」
「あんな男なのにぃ。見た目あれじゃ、いくらでも女の子がひっかかって当たり前だよね」
すっかり感嘆している様子で言うデュアンを内心微笑ましく思いながらケンは答えた。
「それは確かに伯爵は素敵な方だと私も思いますよ」
「ねえ、ケン」
「はい」
「みんな、ぼくってディの子供の頃に生き写しだとか言うんだけど」
「ええ、そうらしいですね。今見てもデュアンくんは確かに伯爵と顔立ちがよく似ておられると思います」
「だとしたらぼくが年を取ったら今のディみたいになるってことだよね?」
「まあ...、そうでしょうね」
「でもさあ、ぼく、あの年になってもセーブルやダイヤの似合う大人になんか絶対なってないと思う。なんか腹立つなあ、そう考えると。ほんと、あんな男なのになんでああなんだろう」
何と答えたものかと黙ったままのケンには構わず、デュアンは続けた。
「ディって、なんか容姿だけじゃない気がする」
「そうですねえ...」
「思ってたんだけどさ」
「はい」
「ケンってちょっと、ディと同じタイプって気がするの」
「私がですか?」
思いがけないことを言われて驚いているケンにデュアンは首を傾げて考え考え言った。
「なんかさあ、優しそうなくせに根性の据わり方がナミじゃないっていうか、ぼく、あなたがどんなに強いかよく知ってるしね。でもふと、ディにも同じものを感じたりとかするわけ」
ケンはデュアンの言いたいことを何がなし納得できたような気がして答えた。
「ああ、それは確かにそうかもしれませんね」
「ケンもそう思う?」
「ええ。この前のデュアンくんの誘拐騒ぎの後で、うちの隊長が言ってたんですが、あの時、予定ではアリシア博士とルーク博士が我々と踏み込むことになってたんですけれど、結局、ロウエル卿と伯爵も一緒に乗り込まれたそうなんです」
「ほんと?」
デュアンはちょっと驚いて言った。それは誰からも、もちろんディからも聞いていなかったからだ。
「はい。ロウエル卿は元々軍人ですし、クランドルでは陸海空軍、最終的にどこに配属になるにしても、士官クラスは全軍を把握する目的で海軍の場合は陸、空軍に出向して訓練に参加しますからね。彼が軍人としても大変優秀なのは我々誰もが認めるところです。まあ、そうでなくては、私たちのような人間を使いこなすのはちょっと無理でしょうけど。でも、隊長が言うには、そのロウエル卿、それにああいう事態には比較的慣れてらっしゃるアリシア博士やルーク博士と一緒に、伯爵は先陣を切って乗り込んで行かれたそうですよ」
「それ、本当にほんと?」
「はい」
それを聞いてデュアンは深く考え込んでいる。それは確かに自分のことを心配してくれていたからなのだろうが、しかし実弾がマトモに飛んでくるような場所に、伊達や酔狂や冗談では乗り込んで行かれまい。常識で考えて回りだって止めるだろうし、本当に危険と感じたらアレクやマーティアが一緒に行かせるわけはない。
「隊長が射撃も相当な腕前だと感心してましたし、私も話を聞いてちょっと驚きました。でも、確かにそういう意味では、デュアンくんが伯爵に私たちと近いものを感じても不思議はないでしょうね」
「くっそ〜」
思いっきり怒ったようにデュアンが叫んだので、ケンはびっくりして尋ねた。
「どうしたんです?
デュアンくん」
「なるほど、そういうことだったのか。迂闊だった」
「デュアンくん?」
「ねえ、ケン!」
「はい?」
「ぼく、強くなりたい!」
「え...」
「それは前から思ってたんだけど、乗り込んでったってことはマーティアもアリシア博士も強いんでしょう?」
「はあ、それは確かにそうですが」
「で、ディもなんだよね?」
「はい」
「誰もそんなこと教えてくれないもんだから、ずーーーっと不思議だったんだ。アレクさんはそうなんだろうなと思ってたけど、いい男ってやっぱり強くないとなれないんだ」
「まあ、ある意味そうかもしれませんが、そればかりとも...」
「ううん!
少なくともディだけじゃなくて、ぼくが憧れてる人はみんなそうなんだ。ということは、あんな風になるにはぼくも強くならなきゃならないってことなんだよね。勉強だけしててもダメなんだ」
ケンは未来の伯爵さまがそんなふうに強くなるのもそれはそれで...、と考えて、答えに窮している。
「どうやったら、ケンやアレクさんみたいに強くなれるの?」
「それはまあ、いろいろ訓練とか」
「じゃ、教えてくれるよね?」
「私が?」
「うん」
「いや、しかし...。それなり危険が伴いますし。伯爵が何と言われるか」
「ディなんて自分だって強いんじゃない。文句なんか言わせないよ」
「でも」
「イヤ?」
「いえ、そういうわけでは...」
「そうだ。この際だからさ、ケン、ぼくの家庭教師になってよ」
「家庭教師?!」
「そう。どう考えても、アレクさんやディならともかく、ぼくがあなたを使う立場にいるって無理があると思ってたんだ。そうか、家庭教師になってもらえば良かったんだな」
自分の名案に深く納得した様子で頷きながら言うデュアンに、ケンの方があわてている。
「ちょっと待って下さい、デュアンくん。私はボディガードや運転手はやれても教師なんて」
「ディから聞いたよ。アレクさんと同じ大学を二十歳で出てるって」
「それは確かにそうですが」
「だったら問題ないじゃない。教えてもらうことっていっぱいありそうだし、先生、よろしくね」
「先生って、デュアンくん、そんな勝手に...」
「じゃあ、ディがいいって言ったらいい?」
「えーっと...」
「四六時中一緒にいるんだし好都合じゃない、ディだって絶対いいって言うよ」
思いもかけないことで詰め寄られてケンは困った様子で考えこんでいたが、彼のアタマからして家庭教師というのもやってできないことはない。それに、デュアンが熱心な生徒になりそうなのは見ていて分かるし、それはそれで楽しいかもなと考え直して、ケンはデュアンを見ると言った。
「じゃあ、伯爵が良いと仰ったら、お教えしてもいいですよ」
「本当?」
「はい」
その答えにデュアンはにっこりして、じゃ、ディが帰ってきたら話すからね、と言った。瓢箪からコマのような話ではあったが、どうやら自分は強引に家庭教師にされてしまうことになりそうだと思いながらケンは笑っている。
「でもディ、今日帰ってくるかなあ...」
言いながら、ちょっと淋しそうなデュアンに、ケンが言った。
「デュアンくんは、本当にお父さまのことが好きなんですね」
「え?」
この前のこともあったので、たぶんケンは自分とディの関係について気づいているんだろうなと思いながら、デュアンはまあね、と答えた。
「でもさ、セーブルとダイアモンドの似合うプレイボーイの父親を持つってのもね、これでなかなか大変なんだよ」
デュアンがまだ幼い少年に似合わず、悟りきった様子で言うのがケンには可笑しかったが、まあ、確かにそれはそうだろうなとも思う。ともあれ、デュアンの可愛らしさも手伝って、この仕事は彼にとっても楽しいものになりそうな気がしていた。
***********
と、ゆーことで、前にもどこかで書いたと思いますけど、いい男ってやっぱり根性据わってないとダメなのねってお話でした。それ言えば、フェリーさんもそれに当てはまるよねえ。なにしろハイジャックされて墜落寸前!
って大騒ぎやってる中で、ぜーんぜん落ち着いてたってヒトですから。「まるでサロンでマティーニを楽しんでいるようだった」という、他の乗客の証言もあるしな。ま、そういうヒトだからこそ好きなんだけど、うちの美少年、美青年ってのも、みんな強いからな。「女々しい」ってのは私、蛇蝎の如くキライなキャラなんで、どうしてもそうなる。うちの場合は男の子だけじゃなく、女の子も強いけどね、レイとかエヴァちゃんとか。まあ、これは性格的にってことですけど、6月半ばに連載始めると言ってるDialogueの主人公の加納綾、これがうちで一番強い女の子だが、まあ、どんなヤツかは近々分かるよ。
★マセラーティの謎★へ
2008/5/16
★次の連載★
さて、例の連載小説も今回を含めてあと3回くらいでおしまいってとこまでこぎつけました。当初2ヶ月くらいで終了と言ってたのが、結局全12回+Intermissionで約3ヶ月まで伸びてしまいましたね。そのせいでここ3ヶ月プロットを全然書けなかったんですけど、書きたいこともたまってるし、いろいろ忙しくてEpisode2の進行がちょっと遅れてるしするんで、その前に例のDialogueを連載開始しようかなーとか思ってます。本当はイラストつけて〜とか思ってたんですが、それ待ってたらもう永遠に出せそうにないんで、とりあえず文章のみで始めちゃおうかと。これはトップから直接リンクするページを作ってくつもりなんで、ココではしばらくたまってるプロットをちょこちょこ書いてって、それからEpisode2が出せるようになったら連載開始ってことにしよっかなー。
Episode2のタイトルはもう決まってて「告白」ですから、デュアンがディと初めて会うところあたりから始まってます。だから時間的にEpisode1より1年半くらい遡ることになりますね。けっこう長くなるんじゃないかな。で、この後、Episode3「発端」(メリルのママのマイラとディのお話。めずらしくまともな恋愛小説に...、ならないだろうな、やっぱり)、Episode4「休暇」(ディとデュアンの休暇旅行のお話)と続く予定です。ちなみに、Dialogueは半年くらいかけて掲載してゆくつもりなんで、そのうち小説2本立てなんてことになっちゃうかもしれない。読んでね〜♪
★セーブルとダイアモンド★へ
2008/4/11
★完成したぞ★
連載している例の小説の
Episode1
ですが、本日やっと最後まで書き終わりました。合計75000字くらいになってましたから、原稿用紙にすると187枚くらいですね。思ってたより長くなったなあ。おかげで、あと2ヵ月は連載を続けられるぞ。
最初は、予告編にしたプロットの続きを本文で出そうと思って、第4章(アレクがモルガーナ家に到着するあたり)から書き始めたんですけど、どうせ出すなら最初から本文にしたいなと思って、第7章を書き始めたところで一旦戻って1〜3章を継ぎ足し、その後、どんどんどんどん続きを書いてったんです。ほぼ1ヵ月半で187枚分書いたことになりますが、これまでワン・シーンごと別々に書いて、後で編集して組み立てるという映画みたいな作り方が普通だったので、これだけまとまった内容を最初から最後までほぼ順番通り一気に書いたってのは初めてじゃないかな。とはいえ、これもお話全体からするとワン・シーンみたいなものなんで、他のエピソードと繋いで最終的には1本の小説になる一部分と考えると、これまでの書き方が大掛かりになっただけってことかもしれないんですけどね。
なにはともあれ、完成するということは気分のいいものです。野放図に書き散らしてるだけだとなかなかこういうふうにまとまってゆかないものなんですけど、連載するぞと言った限りはそれなり頑張ってコンスタントに書くもののようで、ナマケモノの私にとってこれはそれなり良いことなんでしょう。
さて、このEpisode1、あやぼー的にはなかなかうまくまとまってて気に入ってるので、今日からの後編もお楽しみ頂けると嬉しいです。
2008/3/6
★連載開始★
とゆーことで、調子に乗って連載小説開始とゆー運びになってしまいました。以前ちょっと期間限定でほんのワン・シーンくらいの量をアップしてたことがありましたが、今回はあれよりかなりまとまったエピソードになってますね。原稿用紙にすると最終的に100枚くらいにはなるんじゃないかと思うので、短編1本くらいの長さにはなるのかな?
毎週連載して約2ヵ月で終了を目指してます。
この話のタイトルについては「洋楽ファンのひとりごと」でちょっと書いてたので既にご存知の方もあるかもしれませんが"The
ultimate kingdom"ってことに落ち着いてまして、そもそもはディのセルフ・ストーリーのタイトルを"The
ultimate paradise"と付けたことに端を発し、この二つは本質的なところで対になってる話なのでそれ風のタイトルにしたかったんだな。どういう点で対になってるかは、どちらも本編がいつかそのうち公開されると思うので(本当にそんな日が来るのかどーか知りませんが)、それはその時になったら分かる(はずだ)ってことにしておきましょう。
ただ、公開するにあたって問題は、本編の主人公はあくまでまー、アリ、ディ、アレクで、それもまーとアリが十代、ディとアレクが二十代のあたりから始まってるのよね。で、今から連載する話は、それからいろいろ紆余曲折を経たずーーーーーっと後のエピソードで(なにしろデュアンが出てくるんだから)、そんなとこからいきなり始める格好になる。いずれはこのエピソードも本編に組み込まれることになるんでしょうけど、本編は本編でやっぱりそもそもの発端からちゃんと出したいじゃないですか。でも、そこから始めてたらデュアンが出てくるようなエピソードなんて、十年経っても公開できるかどうか分かんない。おまけにたぶんこのエピソード連載ってゆーのは、ひとつだけじゃなくていくつか続きそうな気配もしてるんで、乱暴ですけどこれはひとまず「外伝」ってことにして(本編の前に外伝が出るっていうのもなんなんですが)、連載することにしました。自分でも笑ってしまいますが、ま、そーゆーことで、このテの話がお好きな方にお楽しみ頂ければと思います。では、第1回は大サービスで、約9000字一挙公開です。
2008/2/28
★ディの子供たち・その9
- 誘拐 -★
この話題について始めから読みたい方は、専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。
いま、Ayapoo初の試みである短期集中連載小説の企画を進めてまして、ってゆーか、最初は例によってざっとプロットを掲載するだけのつもりで書いてたんですけど、シーンを追ってくに従ってなんか乗ってきちゃって、あーなって、こーなって、どーなって、そーなって、と、なかなかカッコいいエピソードになりそうなんで、これは本文連載方式でゆこうかなってことになったんです(なりゆきで好き勝手できるのは、個人サイトオーナーの特権)。今、2回半分くらい書けてて、それでエピソードの半分くらいまで進んでるので、3月〜4月にかけて4〜6回くらいの連載にできるんじゃないかな。どういう話かっていうと、以下は最初に書いてたプロットなんで、予告編ってことで掲載しちゃいましょう。これが果たしてどのような本文になるのか?
それはいましばらく、お待ち下さい。
**********
<予告編♪>
さて、エヴァちゃんって、この後何か話に絡んで来そうとか書いてましたけど、なかなか大変なことになりそうですね。って言っても、ディとデュアンの間に割り込むとか、そーゆー可愛い話じゃなくて、テロがらみの誘拐に巻き込まれちゃうっていう相当ヴァイオレントな展開です。もちろん本命はデュアンくんなんですけど、エヴァちゃんも一緒にいたので連れてかれちゃうんだな。
ある日、デュアンがなかなか学校から帰って来ないのでディたちが心配していると、いつも送り迎えをしているメルセデスが屋敷に向う途中で大破して乗り捨てられていると警察から連絡が。しかもいたずらに怖がらせるといけないと思ってデュアンには言ってなかったけど、運転手として付けてたのはプロのボディガードだったのに、ライフルで狙撃されたらしく、瀕死の重傷を負って車内に放置されていた!
いやー、なかなかこれはいきなりハードボイルドしちゃってますが、私の小説というのはロマンチックとヴァイオレンスが表裏一体化してるんで、たまにこーゆー展開に雪崩れ込むことがあります。ついでに、エンタテイメントと哲学も同居してるので、そのへんが売り物にも何にもならない原因だな。
ともあれ、最初は営利目的の誘拐だろうとディも思ってるんですが、1日、2日と経とうとするのに連絡がないことと、いきなり運転手を狙撃するというやり口が普通の誘拐としてはダーティすぎるのとで、これは相当厄介かも、と思い始めたところへ、まーからホットラインで連絡が入る(まーはこの頃になると殆どクランドルにいないので、ディんちとは衛星経由の特別回線を繋いでいる。だから通常回線でするとヤバい話なんかは、それ経由で連絡してくる)。ここんとこ8回連続でディと子供たちの話ばっかり書いてるんで、まーなんて殆ど懐かしい響きの存在と化してますが、本来はこっちの方が主人公なんです、この話。
で、まーとアリは「豪華クルーザーで世界旅行を楽しんでる」と前にちょっと書いてましたが、別にムダにあちこちふらふらしてるわけではなく、目的も事情もあってやってることで、それがアレクのIGDとも絡んでくることなんですけど、まーとアリ、それにマリオ・バークレイ博士のテーマというのは、そもそもの始めから「歴史の軌道を修正する」という大掛かりなゲームなわけで、このへんは説明すると長くなるからそのうち本編で読んでもらうとして、ともかくそーゆーことをやってるんで、裏に回るといろいろ仁義無き戦いみたいなものの渦中にいたりする。こういうテーマを持って動く場合、一番やっかいなのは宗教関係と成金の新興国のくせにやたらプライドの高い超大国ですが(どこの国かは想像にお任せする)、今回の場合は宗教がらみみたいで、もともと哲学と宗教は実質的に天敵関係だし、本質的に大賢者であり大哲学者であるところのマーティア・メイなんかは、この頃になると何がなんでも抹消したいと思われてる存在になってる。そもそもその「歴史の軌道修正」なんてことをやろうとするやつがいると、一番イヤがるのは現在の世界で権力張ってる連中で、だからこそ仁義無き戦いになっちゃうんですけどね。
まあ今のところは、まーたちのやってる戦争が、ディのとこにまで飛び火しちゃったんだとだけ分かってて頂ければ話が進められると思います。ディにしても、全くそれと無関係ってわけではないんですが、いきなり子供を誘拐されるほど表立って関わってるわけではないので、彼としては普通の営利誘拐にはボディガードを付けたりして注意していても、こういう種類の騒動に巻き込まれることまでは予測してなかった。
で、まーが言うには、ディのところではなく自分たちの所に犯人から連絡が入り、いろいろ厄介な注文をつけてきている。これには絶対応じられないが、現在、IGDの調査網の総力を挙げて犯人とその所在を特定する作業を進めているので、半日もあれば結果が出るだろう。相手に対しては交渉を続行する形で待たせ、その間に自分とアリシアもこれからそちらに向うから、数時間後には実質的な対策に入れると思う。何があろうと、絶対にデュアンは救い出す。その方法は選ばない。
まーたちはふだん、「世界一優雅で美しい」と賞賛される純白のクルーズ船で世界中をウロウロしてるわけですが、実はこのアークという船は実質バトルシップで、ファイター(戦闘機)まで艦載している。だから、まーたちはどこにいようとも全世界のどこにでも、数時間でぶっ飛んで行ける機動力を持ってるってことになりますね。International
Grand Distributionのオーナーはもちろんアレクなんですが、それを動かしてるメインの頭脳はまーとアリなわけで、アークという船は実は世界最小で最強の国家と言ってもいい存在だというのがコンセプトです。スケール大きいでしょー♪
もともとこれはそういう話なんですが、やたら振り幅が広いんで、ココではメイン・ストリームからははずれた話ばっかりしてるってことになるかな。でも、そっち方面にこんなとこで踏み込むと、きっとわけ分かんなくなっちゃうと思うしな。ここでしてる話は、一応「小説」と言って許される範囲のストーリー部分に限ってます。でもその背景では、こういうばかでかいスケールで「歴史」が動いているわけで、その全貌は、本編を最初から連載できるようになったら読んで頂けるようになるでしょう。
ま、それはそれとして話を元に戻しますが、ディはまーにデュアンと一緒にエヴァが連れて行かれてしまっていること、事件発生から既に36時間以上経っていること、デュアンは本命の人質ですから当面は大丈夫としても、エヴァがどうなるかが心配で、彼女の両親であるベンソン夫妻にもここに来てもらっていることなど、現在の状況を手短に説明します。ディとしても、単なる営利誘拐ならまーたちの手を借りるまでもないんですが、コトがコトだけに自分の力だけではどうにもならないことくらい、話を聞いた時点で悟ってますからね。で...、
***********
「報道管制は敷かせているけど、うちのクルマが大破して発見されたりしたもので、既に警察が動き出してるんだよ。」
「分かってる。それはこっちで引き上げさせる。どうあれこれは警察程度のレベルでカタのつく問題じゃない。SWATなんか踏み込んだが最後、皆殺しだよ。だからアレクが今、使える連中に召集をかけてくれてるばすだ。彼もすぐにそちらに行くと言ってたから、もうそろそろ着くんじゃないかな。」
「アレクが?」
「彼が偶然今クランドルにいてくれたんで、話が早くて助かった。とにかくおれたちもすぐにそっちに飛ぶから。心配するなと言っても無理だろうけど、24時間以内に良い結果を出す。だから、ベンソン夫妻にもそのままそこにいてもらって欲しい。」
***********
この頃になるとまーももう30過ぎてますからね。ディにいいように遊ばれてた子供の頃とは一味違います。なんてったって、この大掛かりな「ゲーム」を立案し、実行して来た張本人なんですから、これまでも自分自身が危ないめにもいっぱい会ってきてるし、この程度のことではビビりません。
で、まあ久しぶりに4人が一同に会することになるわけですが、IGDの調査網というのは先にも書いた通り一国のそれに匹敵するので、誘拐事件の足跡を追っかけるなんてのは朝飯前の仕事。
さて、翻って不覚にも誘拐されちゃったデュアンくんたちの方ですが、エヴァちゃんが可愛いんで、ちょっかい出そうなんて悪いオトナも犯人たちの中にはいるもので、ちょっと乱暴されかかるんですね。上からは大事な人質なんだから、コトが終わるまでは手出しするなと命令はされてるんですけど、ちょっとしたスキにそういうことになっちゃう。でも、デュアンはどう考えてもこれは自分の問題にエヴァを巻き込んでしまったとしか思えないし、何が何でも彼女だけは無事に帰さなくちゃと思ってるもんだからエヴァをかばって割って入る。こういうとこ、男の子ですよねえ、デュアンくんも。暴力ふるわれたらかなわないのは分かってるけど、黙ってるわけにはいかないってとこです。でも相手はデュアンが子供だって思ってるもんだからその態度を面白がって、じゃあそのコの代わりにおまえが自分たちの相手をするかとかからかう。それ聞いて、子供だと思ってこいつらはっ、と怒ったデュアンくんは、「言っておくけど、エヴァやぼくに手を出そうなんてしたら、今ここでぼくは舌を噛み切ってやるからね。」
本気ですからね、これ。それだけに一瞬相手の方が呑まれるくらいド迫力で、そうするうちに何かもめてると気づいた他の連中がヤメろと言ってからんできてた二人を部屋から引きずり出す。
「ごめんね、エヴァ。こんなことに巻き込んで怖い思いさせて」
「ううん。デュアンが一緒だから大丈夫、怖くない」
「何があっても絶対、きみは無事に帰らせてあげるから。ぼくに出来ることなら何でもするから。でも、もう少しの我慢だよ。必ず、お父さんたちが助けに来てくれる。」
その言葉通り、まさにその瞬間にも救出計画は進行しているわけで、まーたちを乗せた飛行機は数時間でクランドル空軍基地に着陸、そこからヘリでディの屋敷まではひとっ飛びですから、連絡が取れてから本当に八時間かからずにまーとアリはディのとこに到着する。その頃にはアレクも着いていて、犯人の所在も特定できたという知らせも入ってくる。ディは今更ながらにまーたちの現在の機動力のすごさを見た気がするわけですが、危ないから二人を連れ帰るまで待ってろというまーに、ディはどういうことになっても後悔はしたくないから一緒に行くと言い張る。
まーとしても、そんなことでモメてるヒマはないんで、じゃあ現場までなら同行してもいいが、そこでは絶対にこっちの指示に従ってくれと約束させて連れてゆくのを承諾する。
...ここまで読んで、どうなるんだ?!とか思ってもらえてたらOKなんですが如何なものでしょうか。とゆーことでっ、短期集中連載やります。みんな、来週もまた見てね!(きゃははは♪なんかデュアンとかエヴァちゃんとか、コドモ書いてたら最後がTVアニメ番組調になってしまったぞ。)
original
text : 2008.2.12.-2.14.+2.25.
revise
: 2008.2.28.
★セーブルとダイアモンド★へ
2008/2/20
★ディの子供たち・その8
- リリカルな性格 -★
この話題について始めから読みたい方は、専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。
これだけ毎週書いてると、なんか「プロット連載」と言っていいような状態になってますね。とにかく話だけはアタマの中でどんどん進むのでちゃんと本文を書くのが間に合わず、ともかく話の流れだけでも書き止めとかなきゃという感じです。
さて、元気いっぱいに走り回っているデュアンくんのおかげで、すっかり影の薄いメリル&ファーンですが、このお兄ちゃんたちのセルフストーリーもぼちぼち見えてはきているんです。ファーンは今のとこ「おじいさまの後を継ぐ」という線でまるで問題は抱えてないけど、十代の半ば頃からいろいろあって、けっこうカッコいいとこも見せてくれそう。性格的には父親のディよかわりとアレクと合うみたいで、「経済か政治に進みたい」という希望も持っているだけあって、このころになると大実業家に転身を遂げているロウエル卿(アレク)のことはとても尊敬している。親友の息子ってことでアレクとも交流ができるから、彼の方も将来的にけっこうファーンに目をかけるようになってゆきますね。
それに、ファーンの母方のひいおじいさまというのがかつて経済界に君臨した人で、ロベールさんも若い頃とても世話になったんだとか。そのへんの系図を辿ってゆくと、ファーンはディの方だけじゃなく、母方の方でもロウエル家と縁続きだったりする(ディとアレクはもともと親戚です)。系図もこの辺りになってくると、ディにも誰がどこでどう縁続きなのか把握できてなかったりして、後からロベールさんに言われて、へえ、そうだったんだ、みたいな? さすがに入り組んでます、上流階級。でも、デュアンは本気で「伯爵さま修行」にいそしんでいるので、ディよかこういう系図に詳しくなってて、「モルガーナ家の系図のことなら任せてください」とか言っておじいさまを喜ばせてたりします。アーネストも「だんなさまがお小さかった頃より、はるかに熱心に聞いて下さるので、何をお教えするのも楽しゅうございますよ」と言うほど。
そのデュアンは、この前ちょっと出て来たエヴァちゃんと大事件に巻き込まれて、まーやアリまで出てきて大騒動になってたりするんですが、ま、そっちの話はまたそのうちということにして、今日はデュアンに「ワガママ」だの「何も考えてない」だの、散々言われっぱなしのメリルにスポットをあててみましょう。
今回の副題「リリカルな性格」というのは、実はデュアンがメリルを評して言った言葉で、彼はディにある日、「メリル兄さんってリリカルだよね。シュールっていうか」とかワケの分からないことを言う。それ聞いてディは「それって、どーゆーイミ?」とか笑って尋ねるんですけど、デュアンの説明するところによると、彼がメリルのところに文句言いに行ってからしばらくしてメリルがデュアンに会いにモルガーナ家にやってきた。その時はディは家にいなかったんですけど、デュアンは「兄さんはこの前のことできっと怒ってるんだ」と思ってて、逆ねじこみに来たんでは?
と内心ちょっとひるんでるのよね。自分も言いたい放題言ったから、後でちょっと言い過ぎたかなとも思ってたもんだから。
ところがこの「リリカルでシュールな」お兄さまは、デュアンの言ったことを真正面からマトモに受け止めていて、だからこそおじいさまにもいろいろ相談したりしてたのよね。本来、長男にあたる自分が継ぐべき家をデュアンに押し付けたような格好になったことと、自分の都合でお披露目しないでおいてもらうことになったのは、確かにデュアンの言う通りおじいさまやディが「気を使って」くれたという気もしたし、自分が何より絵を描くのが好きで、その才能があるらしいのもディから継いだ血というものなのかとか、そういうことを深く考えてみなかったけど、その「深く考えてみたこともなかった」ということそのものをデュアンが非難してたんだと分かるから、どうしたらいいんだろうとマジメに悩んじゃったわけです。でも、おじいさまは、確かにメリルはディの子供の頃を思い出させるほど熱心に絵に打ち込んでいるし才能もあると思うけれども、才能というのは原点であって、それを伸ばすのは本人の努力なんだよ、とか、メリルは十分その努力をしていると思うし、父親の血だけでいい絵が描けるわけではないんだから気にすることはないよ、とか、自分やディがメリルの将来のことを考えるのは父親や祖父として当たり前のことなんだからとか、確かにデュアンの言うことも一理はあるなと思いながらも、メリルが弟の言ったことをそんなに真面目に受け止めていることを微笑ましく思いながら宥めてくれるわけ。
で、そもそもメリルのディに対する反感は、自分が息子としてちゃんとした扱いを受けていなかったからと言うより、彼の母親であるマイラのことで怒ってるって方が強かったらしい。彼女はディとの経緯についてはちゃんとメリルに説明しているし、自分は彼に相応しいとは思えなかったとも言ってるんですけど、でもメリルから見たら「お母さんはどんな人の妻になっても恥ずかしくないくらい立派な人なのに」、そのマイラをディが軽んじて結婚しなかったという印象がぬぐいきれない。それで父親になじめない気分がつきまとってるわけね。これを母に言うと、「そうね、今ならそのくらいの自信は持てたかもしれないわね。でも、あの頃は私も若かったのよ。」
それこれありまして、しばらくよくよく考えた結論を、メリルはその日デュアンに言いに来たのでありました。デュアンにしてみると、「ぼくの言ったことに文句言う気だな」と構えてますから、案に相違してメリルが怒ってる様子もなく、なんとか自分の気持ちを伝えようと一生懸命話すのにちょっとびっくりしている。メリルは口下手というか、絵や色彩を使ってなら感じたことをどんなにでも雄弁に表現できるんですけど、思ったことを言葉で表現するのがとても苦手なんですね。このへん、その気になれば口がうまいことにかけては人後に落ちないディと正反対で面白い。ママのマイラは自身がペンネームも持ってる詩人、作家でもあるので、このメリルの「言葉がうまく使えない」のは誰に似たんだろう?
と思ってる。でも、モルガーナ家には実はいろいろ華麗な伝説があって、そのいくつかはクランドルでもよく知られてて語り継がれてたりもするんですけど、そのへん遡ってくと確かにメリルに似たようなご先祖さまもいたりするのよね。で、ディやロベールさんには先祖返り?
とかいう気もしてる。
ともあれ、そういう子なので、言いたいことがなかなか明確に言えず、それでたどたどしい口調になってしまうんですけど、それが彼の一生懸命な様子を強めていて、デュアンには兄さんて無菌室で育ったみたいに、なんかすごく度を越えて誠実だったりする?
みたいに感じられるわけです。常識はずれに誠実というか、浮世離れしているというか、それを評してデュアンは「リリカルでシュール」と表現したわけです。これ見ると、コト言葉に関しては、デュアンに限って「表現できないこと」なんてありそうもないですね。その説明を聞いてディもなるほどと思ったくらいで、実に的確に「メリル」という人物を言い当ててるんです。そしてそれは、メリルの描く絵を言葉にしたらこんな感じかなというものでもある。だからと言って彼の絵がシュールレアリスムってわけでは全然ありませんけどね。どちらかと言えば、ディの絵の方がその傾向は強いです。ま、その話はのちほど。
では、メリルはデュアンに何を説明しようと一生懸命になっていたのでしょうか。それは、
・自分がなぜお父さんを許せないのか
・お父さんのことは、画家としては凄い人だとも思うし、芸術家としてはそういう生き方もあるかなとも思える。全くの他人だったら尊敬もできるだろうが、しかし実の父だけに返って彼の生き方には受け入れ難いものが出てきてしまう
・自分の唯一つの取り柄と言っては絵を描くことしかないので、モルガーナ家のような名門貴族を継ぐような器ではない
・弟に責任を押し付けたような格好になって、きみには悪いと思うけれども、ぼくよりもきみの方がきっとモルガーナ家の当主には相応しいと思う
・自分にはお父さんの生き方や、きみと彼の関係は常識はずれにしか見えなくて、どうしても理解することができないが、それについてはこれからもっと理解しようと努力してみることにする
これだけ言うのに一時間もかかるほど、メリルってのは口下手なんです。これ見てデュアンは、もしかして兄さんてオオモノ?
とかも思うんですけど、年下の弟からあれだけぽんぽん言われて、怒るどころかそれ真面目に受け止めて、その上1ヵ月以上も経ってから、悩んだ挙句に説明に来てくれるという、そのへんがデュアンにはすごく驚きだったようです。そうなってくると、ディに「メリルにはメリルの考えがあるんだから」と言われながら、それを聞かずに文句言いに言った自分は?
とちょっと反省。ぼくだってメリル兄さんを理解しようとしたことはなかったなと思い直して、メリルが「努力してみるね」と言うのに対して、「偉そうなこと言って、ごめんなさい」と素直に謝るのもデュアンの真っすぐなとこでしょうね。
そんなこんなで、この兄弟も後々それなりにうまくまとまってゆくことになるんですが、それでは、メリルの絵ってのはどんなものなんでしょうか。
ディの絵っていうのは、これまでも書いてる通り、単に視覚的な美のみを追ったものではなく、哲学的思考を絵画で表現するという実にトリッキーなものが主流で、それゆえ画壇のみならず、多方面の芸術家にも影響するものがあります。そのへん深読みがきく者にとっては、とにかく「凄い画家」の一言につきる。表現されている哲学世界が究極まで行ってますからね、彼の場合。でも、メリルのは「リクツじゃない」って感じで、日常のほんのちょっとしたこと、例えば暮れ染める空の色彩の微妙な変化だとか、散りかける大輪の赤い花の最期の一瞬とか、テーブルの上のカップに注がれたホットミルクの暖かそうな湯気だとか、そういう何の変哲もない情景を描いてはいるんですけど、それが「タダの絵」ではなく、それを通して、後に大きな賞を受賞した時の選考委員の言葉を借りれば、「計り知れない宇宙の深遠を感じさせるような何か」を内包していて、「それが無条件に見る者を感動させる」ようなものなんです。「人間は日々、日常の瑣末なことに囚われて泣いたり笑ったりしているけれども、本当は我々はより大きな宇宙に包含されている存在であることが彼(メリル)の絵を通して感じられ、そのことの喜びと悲哀を一瞬にして悟らされる」と評され、そしてこれは奇しくも「ダニエル・バーンスタインの遺作、デュアン・モルガーナの「二人の天使(まーとアリを描いたシリーズ)」にも匹敵する」と絶賛されました。これがメリルの画家としての本格的デヴューになるんですけどね。ディやダニエルさんは先に書いたように本来トリッキーな作風で知られる画家なんですが、ここに挙げられた二人の作品は彼ら自身のそれまでの作品をも超えるものと評価されていて、彼らの代表作中の代表作でもあります。
また、メリルの絵はその色彩が見事なまでに美しいのと(このへんの感覚は、メリル自身は意識してませんけど明らかにディゆずり)、透徹していながら暖かいものが感じられるのとで、そこまで深く芸術を理解する素地のない人たちにも、「純粋だった子供の頃を思い起こさせる」とか言われて高い人気を得るようになってゆきます。メリル自身があの通り、あまりにも無菌状態なんで、その人柄から出た絵に触れる人にまでそれが影響していくような感じかな。
ってことで、影の薄かったメリルお兄さまですが、けっこうオオモノということが判明いたしました。
★ディの子供たち・その9★へ
2008/2/11
★ディの子供たち・その7
- デュアンくんの学校生活 -★
この話題について始めから読みたい方は、専用のSTORY
INDEXをご参照下さい。
ディに引き取られた当初、デュアンくんは10才〜11才くらいなんですけど、そうすると小学校の高学年くらいってことになりますね。容姿はディやアリと似てるとはいえ、このコが二人と決定的に違う点があるとすれば、「ストレートで明るい」ってとこでしょう。ディやアリも暗いってタイプではないけど、けっこう内面的に複雑なとこがあって、ストレート直球なタイプじゃないのは確か。でも、デュアンくんって、メリルに対しても「兄さんって勝手!!」とか思うと言うべきは言う!
で言っちゃうし、ディを好きになっちゃったと気づいたら、ごちゃごちゃ悩むより先に好きになっちゃいましたと告白してしまう。こういうとこ見ると性格出てんなというか、これは確かにママのカトリーヌさんの血でしょうね。それと、もしかするとおじいさまのラテン系の血筋が隔世遺伝で威力を発揮してるのかもしれません。カトリーヌさんも名前見れば分かりますけど、両親のどちらかがフランス系みたいですから。
で、まあそういう明るくて賢くて可愛いと三拍子揃ったらやっぱり学校でも人気者で、自然とリーダーシップも発揮できるコだし友達も多い。中でも特に仲良しグループみたいのが何人かいるんですけど、その中には女の子もいて、彼がディの息子だと知れ渡ってしまってから、「未来の伯爵さまだもの、そうなったらもう口もきいてくれなくなるわよね」とか言うのよね。でも、デュアンは「どこにいたってぼくはぼくだよ。それにみんな今までぼくにお父さんがいないってことをちっとも気にしないでつきあってくれたじゃない。立場が変わったからって掌を返したようになる奴らなんて信用できないよ。だから、これからもずっとみんなはぼくの友達でいてくれないとね。」
この話は設定が今から何十年か先ってことになってるし、それもあってクランドルの学校制度っていうのは今のものとは全然違ってます。元々、クランドルは啓蒙度の高い国ですから、子供の教育は基本的に親の責任。だから、小学校、中学校レベルの勉強も基本的に親が教えます。それに加えて通信を利用した講義とかも受けられるわけですが、これは「大教室(Grand
Class)」と呼ばれていて、いつでも誰でも参加できるように工夫されている。親が忙しくて子供の勉強を見てやれないというような事情があっても、大丈夫なようになってるんですね。ただ、通信を利用した教育では直接的なコミュニケーションの場が持てないことに配慮して、旧来の「学校」は主にサークル活動の中心となっている。学年も年齢で決まるわけではなく、カリキュラム習得についてだいたいの目安はあるが、能力の個人性を重視する観点から、資格制のステップアップ式で進んでゆきます。だから「落第」とかの概念はないのよね。
ただ、そういう開放的な制度だとある程度のガイドラインに沿ってゆかないと教育の均一性が保てないので、学校はそこに通っている子供たちのデータを見ながら、勉強やサークル活動のコンサルティングをしてくれます。これでスタンダードの目安からプラスマイナス1〜2年で中学レベルまで上がるというのが一般的な家庭の子供の進み方。その先は進路に応じて専門学校や、高校や、更に大学ってことになります。
そうするとディやアレクが行ってた寄宿制の学校はなんなんだってことになってくるわけですが、あれは特に中産階級から上、つまり王族、貴族は当然として、経済界や政界のオオモノの令息、令嬢の教育のためにあるもので、まあ、はっきり言ってサイバー教育よかはるかにお金のかかる学校制度なわけ。それをあえてやってるのは、社交界に出る前の段階で子供たちの親睦を深めさせておこうという目的あってのことなのね。そもそも「社交界」っつーと一般的には華やかなイメージだけしかない感じがしますけど、あれは平たく言えば、金や地位のある者同士が集まって親睦を深め、あわよくば姻戚関係なども結んで更に儲けようという、華やかな裏に回ると、本来わりと実利的な目的も持ってる世界です。だから、クランドルの寄宿制学校というのはその延長線上にあるものと考えて良いでしょう。
市街からは離れたところに広大な敷地を持ち、最高の教授を集め、クランドル中からお金持ちの子供が集まってくる、とまあそんなところです。お金持ちと言っても当然、みんなが都市域に住んでるわけではないので、地方に住んでる家庭の子供たちにとっても、社交の域を広げるという目的にかなっている。ディやアレクの場合は行ってた学校が実家からそれほど遠かったってわけでもないので、そういう子供は週末ごとに家に帰りますけど、遠くから来てる子たちなんかは、長期休暇以外は寄宿舎で過ごしたり、友人に招かれて週末を過ごしたりってことをしてる。いまどきの世の中で、なんで男女共学にしないかっつーと、寄宿制で一緒にしちゃったら、いろいろめんどーみきれんってことなんでしょう。ヘンに間違いがあったりしたら面倒な家のコばかりなわけだし。だから、女の子ばかり集めている学校ももちろんあって、年に何回か近くの学校どうしで交流会やパーティなどが催されたりもしているのでした。
さて、デュアンくんの場合は、ママが有名なイラストレーターとはいえ、カトリーヌさんはムダに上昇志向の強い女性ではないので、普通にデュアンを学校に通わせてたのよね。そうすると、立場が変わってじゃあこの後はどうしましょうってことになるんですけど、寄宿学校にやってしまうのはカトリーヌが絶対イヤがるだろうし、デュアン自身も仲のいい友達と別れたくないなという希望があり(一番の理由は「ディの側にいたい」でしょうけどね、このコの場合)、ディも手元に置いて教えておきたいこともあったりで、とりあえず中学レベルを卒業するまではこのままで進もうかってことになります。そうすると、本来デュアンが将来的にもつきあわなくちゃならない階層の子供たちとはすれ違っちゃうからどーするかってことになるんですが、これはもうレイがデュアンのことは気に入ってるので、まかせなさい状態。彼女にしてみると、これでデュアンをお茶会やパーティに引っ張り出せるいい口実になるってなもんです。逆に、そういうコトができるなら、どっちか一方に固まるんじゃなく多方面に交流を増やせるってことにもなって結局ブラスかな。デュアンくん自身も社交家ですからね、大丈夫でしょう。しかし、これがメリルだったら騒動だなあ...。まあ、だからメリル自身が思ってるとおり、こういう家を継ぐってのには彼は向かないし、弟とはいえデュアンの方がやっぱり伯爵さま向きなんでしょうね。
それにしても、こういう登場人物の性格とか、私は全然考えて作ってるわけじゃないんですよねえ。カトリーヌさんのキャラにしても、息子がこうだから、とか考えてやってるわけじゃなく、見えてるまま書くとああなってて、書いてしまってから自分でもなるほどなあ、って思う。ロベールさんもそうだったな。それにさっき書いてた学校制度のこととかも、なんか自然と辻褄あってきたし。元はあの「寄宿学校」なんてのは、リクツで出て来たもんじゃなく、そういうイメージがあって、それは作者の個人的な好みと直結したイメージだったんでしょうけど、じゃ、なんで何十年も未来の世界でサイバー教育じゃなく、寄宿制なんてレトロなことやってんだ?
って問題が出てくるが、その理由がコレでついたと。ああ、なんて行き当たりばったりな世界だ♪
話を元に戻してデュアンくんの通学のことですが、ママのところから通ってた時は学校に近かったのに、ディの屋敷は市街からちょっと離れてるので、遠くなってしまった。それで普段は近くまであまり目立たないセダンで送ってもらってるのよね。あんまり学校の近くまでリモとかで送り迎えなんてことになると、仰々しくて回りから浮き上がっちゃうだろうということで、ディんちで一番目立たないクルマ(それでもメルセデスとかですが)で送ってもらってる。それも学校から歩いて5分くらいの場所で降ろしてもらって通ってるわけです。まあ、さっきも説明した通り、毎日朝から始まる学校というのとは違って、週に3〜4日しか行かないから遠くなってもそれほど大変ってことはないんですけど。
今ちょっと見えてるシーンっていうのは、デュアンが友達とさっきみたいな話をしながらわいわい学校から出て来たところで、この時のデュアンくんは白いデニムのジャケットとおそろいのショートパンツでブーツ風のストラップシューズはいてて、かばん型の革のリュック背負ってたりします。いまどきのコドモな感じで、すっごく可愛い。髪は短めに切ってるかな。背はもう随分高いし、足も長いし♪あと数年すれば、どんな美形に成長することかって感じですね。ま、父親がアレですからね、アレ。
いつもはちょっと先のとこで運転手付きのメルセデスが待っててくれたりするんですけど、その日はディが仕事だかつきあいだかで街まで出るので、時間も合うし、帰り拾ってってあげるよってことになってた。たまには二人でちょっとお茶して、ショッピングでもして帰ろうか、みたいな、表向き微笑ましい親子の図ですが、実はデートですね、これ。で、そういうことになってたので、いつもの場所までくると丁度ディが例のマセラーティを駐めたところで、「あ、お父さんだ。じゃあ、みんなまたね!」って、嬉しそうにディのとこに走ってくのよね、デュアンくん。それを見送って、さっき「もう口もきいてくれなくなるんじゃない?」とか心配してた女の子が「良かったね、デュアン。本当は素敵なお父さんがいて」って、このコはエヴァちゃん(エヴァーレット・ベンソン)っていうんですけど、ちょっとデュアンのことが好きだったりする。だからそれまでも、お母さんは素敵な人だけど、お父さんがいないのって淋しくないのかな、とかけっこう同情してたようなとこがあって、ちゃんと両親そろったってことで良かったと思ってる反面、今までみたいに親しくしてもらえなくなったら悲しいなとかも思ってるわけ。う〜ん、このエヴァちゃん、可愛いコで、優等生でリーダー肌の女の子なんですけど、この後何か話にからんでくるかもしれないなあ。わりとはっきりイメージ見えてるし、すんなり名前も出てきたりしてるから。
こっちの世界で遊んでると、日々、こういうシーンが見え続けて楽しいもんで、なかなか現実世界に戻れなくなっちゃうんだな。でもやっぱり、断然こっちの方が面白いから仕方ないか。
★ディの子供たち・その8★へ
2008/2/7
★ディの子供たち・その6
- コトの真相 -★
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さてまず、ちょっと気が付いたので訂正っていうか、アリが物理学博士号を取ったのはいつだったか、という話なんですが、Ayapooを遡ってくと「10才で」って書いてるんですよね。あのあたり書いてた時は漠然と10才になるならずの頃って思ってたからあまり正確じゃなかったんですけど、10才の頃に一人で生活できるようになってたとこみると取ったのは8才くらいってのがホントのとこでしょう。で、その後いろいろあって後見人の監視から離れたのが10才くらいの時。そのへん、作者のカン違いってことで、お詫びして訂正させて頂きます。こういうことって、あんまりないんですけどね。(言い訳?)
ところで話は変わりますが、ディは「いーかげんでちゃらんぽらんだから、子供が3人もいるのにほったらかしてた」とロベールさんのみならず作者もずっと信じてたんですが、子供たちの処遇が決まってそれぞれ落ち着き、ファーンもデュアンもいい跡取りになってくれそうだねー、くらいに時間が経ってからも、それでもなおロベールさんが、「もっと早くに子供がいるって言っておいてくれれば、私だってあんなに跡取りのことで悩まなかったものを」とか、まあこの頃になると笑い話ではありますけど、ことあるごとに繰り返してグチるのよね。
子供たちのことがバレた当初はそれに対してどこからどう非難されようと知らん顔で何も言わずに済ましてたディなんですけど、いいかげん時間が経ってから、つまり言い訳がましく聞こえないような時期になってから、内輪の話でディがロベールさんに言うには、「だって、お父さんに言ったら会わせろの、家を継がせるのって話になってゆくでしょう?
事実、そうなったわけだし。でも、子供たちの母親がみんな、それを望まなかったんですよ。」
これ聞いて、ああ、なるほどと思いましたね、私は。やっぱりディっていい男だなあって、こういう時につくづく思うんですけど、彼としては生まれたってことを知らされた時に、自分の力が必要ならいつでも言っておいでって母親たちには言ってあるわけで、隠すつもりなんかそもそも全然ないわけ、最初から。でも、母親たちが機嫌よく子育てを楽しんでるのに、ロベールさんが知ったらこういうことになる。デュアンのママが息子を手放すのをあれほどイヤがったことでも分かると思いますが、ディにはそれがよく分かってたから、そのままにしておいてあげたってのが真相なんでしょうね。それで彼女たちが何も言ってこないので、自分でもなんとなく子供がいるってことを忘れてた、みたいな。子供たちもいずれは大きくなって母親の手から離れる時が来るだろうし、家を継ぐのどうのなんて話はその時でいいんじゃないかな、と思ってたから、あえて言ってなかったってことらしいです。
これをコトが発覚した当初に口にしてたら、すっごく言い訳めいて聞こえたかもしれないんですが、それをずーっと後になって、もう時効、みたいな時期になってから何気なく言うとこがディなのよね。で、それを横で聞いてたデュアンがまた、そうだったのか、と改めて納得する。こういうことがあるからデュアンはよけい「メリル兄さんは何も分かってない」って気になるんでしょうけど。
「迷惑はかけないから、子供が欲しいわ」って言い出したのはメリルのママのマイラが最初なんですけど、ディとしては跡取りのことでそんなに悩んでたってわけじゃないけど、考えるともなく考えないでもなかったようで、まあ、一人くらいいればいたでそのうち役に立つかもしれないし、みたいな?
そもそも自分の生き方に信念持ってる芸術家さまが、外に子供の一人や二人いたところで、よしんば、その母親が全部違っていたところで、誰はばかることなんてないわけだから隠す必要もないわけよね。オオモノってのは、そういうもんだと思うなあ。うーん、やっぱり、好きだなあ、ディ。
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2008/2/2-2/4
★ディの子供たち・その5
- 恋する少年 -★
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前回の更新では小説原文調でお届けしましたが、ま、あんな感じでシーンごとに書いてってるわけです。私のアタマの中では、ああいう場面とか会話とかが断片的に見えていて、それを書いて繋ぐと自動的に小説になっていく。
で、あれからもいろいろなシーンが見え続けているんですけど、中でも「ディってやっぱり天性のプレイボーイだな」と感心したシーンがありまして、今日はそれをお話しましょう。
ディと親子にあるまじき関係になってしまってから、しばらくの間はシアワセしていたデュアンなんですが、ある日、夜になってもディが帰って来ない。アーネストに「お父さんはどこに行ってるの?」って聞くと「だんなさまは、今日はアリシア・バークレイ博士とお食事をご一緒されているはずですよ」というお答え。
それ聞いてデュアンは、すっかり忘れてたけどディにはアリシアという十五年も続いてる恋人がいるんだと再認識。当初からディが平気でアリシアをあちこち連れまわすので、この二人の関係は社交界にちょっと詳しければ誰でも知ってるってほどのもので、なにしろあの堅物のメリルでさえ知ってたんですからデュアンだって当然よく知ってる。それなのにここしばらくずっとディが側にいて優しくしてくれるのですっかり舞い上がって忘れてた。それを再認識させられて、デュアンくんとしてはかなりショック。考えてみるまでもなく、自分のことを恋人にしてくれたからと言って、それでディがアリシアと別れるなんてありえないし、自分がアリシア以上になれるなんてとても思えない。
なにしろデュアンにとって相手は「8才で物理学博士号を取った大天才」で、しかも「ディに劣らないくらいキレイな人」なわけで、まあこのコは知りませんからね、アリの実態を。確かに「天才でキレイ」だけど、「性格が厄介」なのはこの頃になるとディ以上になってるんですけど。
ともあれ、その日から数日ディが帰って来ないのでデュアンくんは「結局ディにとってぼくってなに?」みたいなことを悩んじゃって何も手につかない。帰って来たら文句言ってやろう、とか、でもそんなことしたら嫌われちゃうかな、とか、恋する少年の悩みなんてそんなものでしょう。で、ママの気持ちが分かるなあ、とか。確かにコレじゃ、妻になったらいたたまれないよね、とか。
さて、そんなところへ数日してディがご帰宅になるわけですが、このいぢわるなパパはデュアンがどんな反応を示すかってのを内心けっこう楽しみにしてたりするんです。そもそもデュアンに直接何も言わず、当然、言い訳する必要も全く感じないままに出かけてって数日帰って来ない。こんなのはディにとって日常のことで、それはデュアンがいようといまいと変わらない。でもデュアンとしては気分の良いわけはない。では、どう出るか?
それ考えるとわくわくなんですよね、ディは。
で、ディが帰って来たと知ってすぐにデュアンは彼の部屋に行くんですけど、「言いたいことは言う」タイプのこのコをして、怒る元気もないくらい落ち込んでる。文句を言える立場じゃないのくらいよく分かってるし、「ディってそういう人」なのも分かってるのに、でも少しくらい自分を宥めるようなことを言ってくれるかなとか思いつつ...。
***************
デュアンがディのプライヴェート・リヴィングのドアをノックすると、中から誰?
という彼の声が聞こえて来た。
「ぼくだよ。入ってもいい?」
「いいよ」
ディはつい今しがた帰ってきたばかりだったので、珍しくダークスーツのままでタイをゆるめながら机の上に届けられていた分厚い書類に目を通していたようだった。モルガーナ家の傘下にあるいくつもの企業の、月ごとの業績報告書だろう。傍目からは絵を描いていなければ遊んでいるようにしか見えないが、ディが忙しいのは本業の絵のせいばかりではなく、むしろ伯爵業とでも言うべきモルガーナ家の当主としての社交や資産管理のせいだということを、既にデュアンもよく知るようになっていた。ディが経済学や経営にも明るいということは一緒に暮らすようになってから初めて知ったことだったが、彼が「そういうこともできる」という事実はデュアンを随分驚かせたし、それまで以上に尊敬させる要因のひとつにもなった。しかし、そうであればあるほど「ディの後を継ぐ」というのは、なかなか大変なことだと思えてくるし、そればかりではなく、メリル兄さんはそんなこと全然知らないくせにディのことを誤解してるという気にもさせられるのである。
「おかえりなさい」
「ただいま」
ディは机の端に斜めにかけて、書類を机に放るとデュアンに微笑みかけた。全く意識してやっているわけではないのに、ただそれだけの仕草や表情がまるで映画のワン・シーンのように魅力的だ。四十代の半ばだなんて、言われなければ誰も考えもしないに違いないし、デュアンといても親子と言うより、少し年の離れた兄弟と言ってすら通りかねないところが未だにディにはある。やっぱりなんて素敵な人だろうと思うと、今は自分に向けられているその微笑が、ついさっきまでは彼の最愛の恋人に向けられていたのだろうという事実が、いっそう幼い少年の気持ちを曇らせた。
デュアンはディに近づいてゆくと、しばらく何か言いたそうな目で彼を見ていたが、ディが両手を広げて見せると、すんなりその腕におさまってキスを交わした。こんなふうにディは約束通りぼくを恋人扱いしてくれるけど、ぼくばかりじゃなくてぼくのママも、兄さんたちのママも、アリシア博士以外は全部ディにとって特別な意味はないんだ、そう思うととても悲しくなってくる。泣き出してしまいそうなのを一生懸命我慢しながら、デュアンはしばらく彼の腕に抱かれていた。
ディは、いつものデュアンから考えると、さて、文句のひとつも言い出すかなと思っていたのだが、しばらく待っても何も言おうとしない。案に相違して、これはけっこうマジで落ち込んでいるのかなと思うと可愛くて、ついついもっと苛めてやりたいような気分になって来た。自分が何か宥めるようなことを言い出すのをデュアンの方が待っているんだろうということは分かっているが、そうそう甘やかしてはやらないよと意地悪く思って、もうしばらく待ってからディはデュアンに声をかけた。
「ぼくの息子に戻るかい?」
ディの声は優しくて、いつもと全く変わりなかったけれども、その一言だけでデュアンをどきっとさせるには十分だった。自分が不平がましく黙ったままでいることの意味は十分ディに伝わっている。そしてこれがその答えなのだ。
デュアンは首を横に振ってディから離れると、普段の彼に戻って、着替えるんでしょ?
と言った。
「うん」
「アーネストにお茶を頼んでくるよ。ぼくも一緒していい?」
「どうぞ」
ディの答えに頷くと、デュアンは扉の方へ歩いて行った。それを閉めるまでは彼の様子はいつもとまるで変わらないように見えたが、扉を閉めたとたんに涙があふれてくる。こんなに、こんなに好きなのに、ディにとってぼくはその程度でしかないんだ。そう思うとそのままそこにうずくまって一歩も歩けなくなりそうだったが、デュアンは気丈に大きくひとつ息をつくと手で涙をぬぐってアーネストを探しに歩いて行った。
*************
この「ぼくの息子に戻る?」ってゆーひとこと。これですね、これ。言外に「ぼくが好き勝手するのを誰も止められないし、イヤならつきあうのヤメる?」って言ってるわけで、これはデュアンだけじゃ当然なくて、ディとつきあってきた女性がみんな思い知らされたディの「相手に対する執着心の無さ」を物語ってる一言なわけです。まあ、こんなのはね、それはもうそれだけの内容のあるやつだけが言って通るセリフなわけで、そもそもメリルのママ、マイラっていうんですけど、最初に彼女がディの子供を欲しがったのだって、自分の手に入る男ではないとよくよく分かってたから、せめて子供くらい欲しいわ、と、そういうことだったんでしょう。
ディの方は、自分を過大評価してるんでも傲慢なんでもなくて、後にデュアンにも「どうでもいい相手を恋人にしたことはないよ」と言ってる通り、子供たちの母親や他のつきあってた女性が、それぞれ素晴らしいところのある人たちだということはよく分かっている。ただ、問題はディ自身が「執着心を持てない」というこの一点にかかっているわけで、「自分に忠実に」というのは彼の信念でもあるからそれを曲げるようなことは絶対しないというだけのことなんですが、逆にだからかえって彼女たちにしても「無理は言えない」って気にさせられちゃうんでしょうね。そもそも、無根拠に自分を過大評価してるような傲慢なやつだったら、聡明な女性たちの方で寄りつかないでしょうから。
ま、「いくら遊んでてもそれで通る」ってそのへんが、あやぼー的には理想的なプレイボーイ像なんですけどねえ。つまらん女とただ遊び歩くだけで、挙句すったもんだするようじゃね、それはタダの「女好き」というものであって、ロマンもへったくれもないじゃないですか。
さて、アリシアにまーがいるということをまだ知らないデュアンくんは、すっかりアリシアのことで落ち込んじゃったようなんですが、後にまーたちの船の船上パーティにディとデュアンが招かれて行った時に、まーが勘付いて「あの二人、単に親子だと思う?」とかアリに言うのよね。アリは自分の知らないところに三人も子供を隠してたという事実で「ぼくというものがありながら」と既に相当ディに対してご機嫌ななめなのに(自分にまーがいることはすっかりタナに放りあげている)、え?
まさか、とか思いつつもまーのカンってバカにできないのでよくよく見てるとどうも気になる。そこでデュアンが一人の時に「ディから聞いたよ」とかかまかけてデュアンに本当のことを言わせ、挙句に「ぼくからディを取れると思ってるの?」とかいぢめる。
複雑なんですけどね、これは単にデュアンに嫉妬して言ってるというのでもなくて、アリとしてはなんとなくデュアンのことは気に入ってるのよね。だから「ちょっかい出してみよう」っていうパターン。このへん、ディと長年つきあってて影響されてるのかもしれないけど、それ聞いたデュアンは「アリシア博士ってキレイだけど意地悪っ!!」とか、いじけつつも相当かっつーんと来ちゃうんだね。しかもその後ディからアリにはまーがいるという話を聞き、「ぼくなんて100%ディだけが好きなのにっ」と憤慨。「よおし、それならいつかきっと、アリシア博士からディを取ってやる」という方向に進んでゆく。デュアンは「取ってやる」ってわりとストレートに結論してますが、実はそれまでディとつきあってた誰一人としてアリシアからディを「取れる」なんて思った女性はいなかったわけで、この「100%ディだけ」とか「取ってやる〜」とかいうのがけっこうディにはアピールするんです。まーをアレクに譲って以来、そんなふうに言ってくれる人はいなかったなあとか、まあそれは自分も悪いんですけどね、彼の場合。
ってことで、数年すれば絶世の美少年に成長することが確実なデュアンくんですが、果たして彼はアリからディを取れるのでしょうか?
つづく(そのうちね)。
★ディの子供たち・その6★へ
2008/1/26
★ディの子供たち・その4
- 母と子の会話
-★
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デュアンがディのところに引き取られてから既に3ヵ月が経とうとしている。母のカトリーヌが淋しがっているのをよく知っているデュアンは、その間、月に2〜3回の割合で彼女のところに泊まりに来ていた。しかしそれでも、可愛がっていた息子を手放したことは、彼女にとってかなりこたえているようだ。
クランドルでも大人気のイラストレーター、カトリーヌ・ドラジェのアート・スタジオは、市内に点在する壮麗な高層アパートのうちのひとつのペントハウスにある。市の中心の緑豊かな大公園を眼下に臨み、遠く港の光景まで見渡せるこのスタジオと同じフロアに彼女のスイートもあって、デュアンはここで生まれ育って来たのだ。現在の家であるディの屋敷は、ここから車で小一時間ほど離れたところにある。
「ねえ、デュアン」
「なに、ママ」
「貴族のお屋敷って、やっぱりしきたりとか厳しいこと言われるんでしょ?
窮屈じゃない?」
「そんなことないよ。他はどうか知らないけど、モルガーナ家にはそれほど格式ばったところはないもの。お父さんがああいう人だし。」
「でも、執事さんとか家政婦さんとか、家族以外の人だっていっぱいいるじゃない。うるさいこと言われて、苛められたりしてない?」
言われてデュアンはくすくす笑い出した。
「それはないよ。執事のアーネストはぼくのこと本当の孫みたいに可愛がってくれているし、家政婦長のビバリー夫人だって同じだよ。何聞いてもちゃんと教えてくれるし、ぼくもう、みんなと仲良しだから大丈夫。」
「ふうん・・・。」
それを聞いて母としては喜ぶかと思えば、どうも期待はずれだったらしい様子にデュアンはピンと来た。この母とも、いいかげん長いつき合いなのだ。
「あ、分かった。ぼくが苛められて泣いて帰って来ればいいのにって思ってたな」
「ちぇっ。バレたか。」
「そんなに淋しがるんだったら、お父さんが一緒に来れば?
って言った時になんでそうしなかったのさ。そしたらぼくともずっと一緒にいられるのに。」
「やーよ」
「なんで?
ああ言うからにはお父さんだってママと結婚してもいい、くらいにはママのこと好きなんだと思うのに。ママにとってもその方が・・・」
「甘いわよ、デュアン。ディがそんな殊勝な心がけのある男だったら、とっくに誰かと結婚してるわ。」
「だって」
「彼が平気であっさりああいう発言を出来るのはね、何も、全く、考えてないからなのよ。結婚しようとしまいと、私がいようといまいと、素行を改めるつもりなんかないし、それどころかその必要すら感じないような人なんだから。」
言われてデュアンは、なるほどという顔になった。
「だから言ったでしょ?
夫には全然向かないって」
「う〜ん、そういうことか。さすがママ。」
「それに、あなたはいいわよ?
ディの実の息子なんだから、半分とはいえ正真正銘生まれつき貴族のお血筋よ。だけど私はこの通りだし、行儀だのしきたりだの言われたって今更馴染めるわけがないもの。私は私のこの自由な人生とライフスタイルを愛しているの。それにモルガーナ伯爵ともなれば、社交界でも狙ってる女なんてごまんといるわよ。そんな中に私なんかが伯爵夫人ですって出てってごらんなさい。裏で何言われるか知れたもんじゃないわ。女の戦いって怖いのよ。」
「それは確かにあるかも。」
「それに私がついて行ったりしたら、私たちには全然そんなつもりなくても、あなたまで財産や地位が欲しくてって言われるかもしれないじゃないの。そんなのは絶対イヤなんだもの。」
「財産と地位かあ・・・」
その言葉を聞いて、デュアンは意味ありげに深いため息をついた。
「なに?
地位と財産がどうかしたの?」
「ぼくさあ、やっぱり家を継ぐってどういうことかよく分かってなかったみたいなんだよね。お父さんに言われた時は、それこそ軽い気持ちでっていうか、メリル兄さんに家継ぐのイヤって言われて、お父さんもおじいさまも困ってるみたいだったし。だからそのくらいまあいいかって思っただけだっだんだけど、なんていうか・・・」
言ってデュアンはもう一度、ため息をついた。
「あのお屋敷って美術館みたいなんだよ?
あれ以上って言ったらもうルーブルしかないんじゃないかってくらいものすごいの。保管庫にもいっぱいだし、部屋にも廊下にも、こともなげにルーベンスやレンブラントが飾ってあったりするんだものなぁ。それにお父さんの絵でしょ?
それだけだって凄いのに、お屋敷そのものが美術品って感じでさ。その上、イレーネ湖に元々の本拠があるじゃない?
今度連れて行ってくれるってお父さん言ってたけど、写真で見てもすごくキレイなお城なの。あんなのがぜーんぶ、いずれぼくのものになるんだって思ったら・・・」
「いいじゃない、金持ちになれるわよ」
「やめてよ。ぼくはそれ考えるだけでかなり重いものをずーんと感じてるのに。お父さんは「ぼくで勤まってるくらいだから大丈夫」とか言ってたんだけど、そんなの真に受けたぼくはもしかするとていよくかつがれたんじゃないかと思ったりする。ぼくの代で傾いたりしたら、それこそもうもの笑いのタネだろうし、だけどどーやってあんなもの、維持してくんだか皆目検討もつかないんだもん。」
「大丈夫よ。モルガーナ家はクランドルでも十本の指に数えられるくらいの資産家だもの。」
「だけど元は資産家の貴族の家が傾くってよくある話じゃない。当主が無能だったら傾くんだよ。お父さんくらいすごい画家だったらなんとかなるかもしれないけど、ぼくはあんなにまでなれるとは思えないし」
「ディは絵で生活してるわけじゃないわよ。殆ど売らないんだから」
「それは知ってるけど・・・」
「全く不公平だと思うわよ、神さまなんて。彼の絵はね、商売じゃなくて道楽よ。あの人の場合は描けば描くほど財産が増えるだけ。今、彼の絵が売りに出たらどんな値がつくと思う?
何年も前に描いた絵が天文学的な値段になるのよ。同じ絵描きなのに、イラストレーターなんてやってるの殆どバカバカしくなるくらいよ。私なんて、締め切りに追われて描いても描いても、描いても描いても、貧乏ヒマなしよぉ」
「ママが貧乏なのは贅沢が好きだからじゃない」
「悪かったわね」
「じゃ、ぼくの食いぶちがいらなくなったぶん、楽になったでしょ?」
デュアンの冗談を聞いて、彼女はしっかと息子を抱きしめて言った。
「あなたのための貧乏だったら私は全然構わないのよっ。だから帰って来てっ」
「ママってばもぉ」
「本当なんだから。あなたがいなくてどんなに淋しい思いをしてるか。分かってよっ」
「そりゃ、ママの気持ちは分かるけど、今更ヤメますとも言えないでしょう?
メリル兄さんが前言撤回してくれでもしない限り、もうモルガーナ家の跡取りはぼくって線で話が走ってるんだもの。頑張るしかないじゃない」
言ってデュアンはまたため息をついた。ディはそんなに重く考えることはないと言ってくれるが、引き受けた以上は責任というものもある。まだ幼くて無邪気なようにすら見えるデュアンだが、息子以上に無邪気で純粋な母親の側で育ったせいか、なかなかどうしてしっかり者で強い責任感も持っている子だ。ディはそのへんを既に見抜いているし、そういうところが伯爵さま向きかもしれないのだが、本人にしてみると不安の方が先に立つ。お金だってちょっとはないと困るけど、地位や財産なんてあんなになくてもいいよねぇ、と思うあたりが、やはりディの血筋ということなのだろう。
★ディの子供たち・その5★へ
2008/1/18-1/19
★ディの子供たち・その3★
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子供が一気に三人も出来ると楽しいのなんの。特にデュアンくんがアタマの中駆け回ってて、いやー、やっぱりそうなってくかー、みたいなストーリー展開に発展しています。本編はいったいどこへ行っちゃったんでしょうね。三人の子供たちが出てくる頃になるとアリは28才くらいになってるし、ってことはまーは31才で、こいつらはこいつらで仲良く豪華クルーザーで世界旅行を楽しんでたりするんですが、そっちの話はちょっとこっちにおいといて状態ですな、今、私の頭の中は。ちなみにアレクは船降りて「International
Grand Distribution」っていう巨大コングロマリットのオーナーにまでなってて、まー、アリ、アレクの関係はそのまま変わってません。
で、この前レイが「自分の子供にだけは手出すんじゃないわよ」とか冗談言ってたと書いたと思いますけど、それ書きながら私は「ん?」とか思ってたんです。どーもこの二人、ディとデュアンくんってタダで済みそうにないかも?
とか。しかしそれはあまりに、という気もして、でも作者のそういうためらいとは関係なく、どうやらそういう方向に話が進んでいってしまうみたいです。
と言うのは、結局モルガーナ家はデュアンが継ぐってことになるので、このコは母親から引き取られる格好になるんですけど、まずはそのへんのところから書きましょう。この時点でデュアンくんは10才くらいかな。ディと出会った頃のまーと同じくらいのトシです。
このデュアンのママってのはけっこう「あまえた」なところがあって、この親子というのは「姉と弟」みたいな仲良し関係なんですね。で、ママは「あなた(デュアン)がいなくなったら、私はどうすればいいのよーぉ」とか泣いて放したがらない。そもそも仕事が忙しい彼女の家では、家政婦さんには来てもらってるけど家の中のことは自分で全然分からない状態で、「ママはぼくがいなかったら、どこに何があるかも分からないんだから」って感じだったらしいです。そういうママだからデュアンがけっこうしっかり者に育ったのかもしれませんが、ともあれ「出て行かないでー」と言って泣くママに対してデュアンの方は、「ママは大事だけど、今まで一緒に暮らして来たんだし、今度はお父さんと暮らしてみたいよ。それに家を継ぐってことになったら勉強しなきゃならないことがいっぱいあるもの」とわりとマジで出て行く姿勢を見せる。それでもママが「やだやだ」状態なんで、ディが見かねて、
「じゃ、きみも一緒に来れば?」
「冗談言わないでよ。それじゃ私が伯爵夫人の地位目当てにデュアンを産んだみたいじゃないのっ。そんなふうに思われるのは絶対イヤなのよ。イヤだからデュアンのことでも、あなたに頼ったことはなかったでしょう?!」
「はいはい、そうでしたね。」
「それに今更こんな夫なんて、それこそ冗談じゃないわ。あなたは大好きだけど、夫にするには全然向かないのもの。」
「じゃあ、いったいどうすれば満足なわけ?」
「だから、今まで通りデュアンが私のところにいればいいのよ。」
「ママ、それじゃ堂々めぐりじゃない。」
「ひどいわよ、デュアン。じゃ絶対、ママを捨ててくって言うのね?」
「捨てるなんて言ってないでしょ?
ママはママなんだから。」
「別に会わないでくれって言ってるわけじゃないだろ?
どこにいるかはデュアンの自由なんだから、好きな時にきみのところに泊まりに来たっていいんだし。ただ、しばらくはこの子にうちへ来てもらった方が都合がいいってだけの話なんだから。」
*************
そんなこんなですったもんだがありまして、結局デュアンくんはディに引き取られることになるわけです。で、始めは「お父さん」ってことですっかり満足してたデュアンなんですけど、もともとがファンで「あこがれの人」な上に、このコの感覚ではディとアリの関係なんかは「素敵だなあ」の方に行くわけで、しかも父親とは言っても側で育ててもらったってわけじゃない。それで建前は「親子」としてふるまってても、ふつうの親子みたいな気持ちの繋がりは希薄。そんな状態で一緒に暮らしているうちに、デュアンの方が父親に恋してしまうというか、もともと好きだったのが本格的に好きになっちゃうというか、まあ、ディですからねえ、相手が。それに自分で気がついたデュアンくんは、どうしても黙っていられなくて告白しちゃう。
ふつうの父親だったらそもそもこういう展開にはならないだろうし、だからこういう展開になること自体が「やっぱりディ」なんですけど、それを聞いた後も「ディらしい対応」になってくでしょうねえ、当然。
聞いた当初は一過性のものだろうと聞き流してたディなんですが、執事のアーネストが「デュアン坊ちゃまはどうなさったのでしょう。最近、あまりお元気がないようで...」とか心配するほど思い詰めてきちゃって、もう完全に「恋わずらい」状態。何も手につかないって様子にまでなってくるので、ディも「これはどうしたものか」と思案せざるをえない状況に。
そうこうするうちに、二人で話しててもデュアンはぼーっとしてディに見とれてたり、思いつめるあまりに衝動的にいきなりキスしちゃったり、それで自己嫌悪に陥って「ぼくってバカですよね。」とか、見てて可哀想なくらいになってきちゃう。
ディとしては最初から「可愛い子」という印象はあったし、側に置いて息子として育ててもいいなと思うくらいには気に入ってるし、しかしさすがに親子だからなあ、というのがひっかかってそのままになってた。でも、ますますって感じでデュアンの元気がなくなってくるのと、ディの悪いクセというか「これは面白い」みたいな方向に考えが進むのとで、じゃあまあなるようになるってことでって展開になってく。
そうなってくるとディとデュアンってのは「親子」で「師弟」で「恋人」っていう妙な関係になってくわけで、それは本人たちそれぞれにどれもある感覚なわけだから、気持ち的には全部入り混じってるって感じになるでしょう。それ考えると確かに面白い。そもそも私は「大きい愛」「小さい愛」っていう定義、つまり「人類愛」と「恋愛」を別個のものとする考え方は間違ってると思ってるわけで、「愛」という言葉に対する定義は唯1つだと考えてます。そうするとこの二人の関係ってそのへん反映してくるかなって気がするし。ま、こういう関係になってくからと言っても、私の話は絶対に陰湿な方向には行かないのが保証付きなので。
ともあれ、この後いろいろあるわけですが、そのうちこれがこともあろうにメリルにバレたりしちゃうんですねえ。
いつのまにか弟と父親がこんな関係になっちゃってると知ったメリルは当然「非常識」って印象を持つわけで、口には出さないまでもそれ知った時そういう態度が出ちゃう。それ見て「悪いこと」とは思ってないデュアンはメリルのその態度に腹立てる。で、「兄さんはディのことをちっとも分かろうとしない。自分だってディからあんなに才能もらってるくせに、そういうことちっとも考えないんだ!」とか、「側で育ててもらえなかったとかってスネてるくせに、それでいて家を継ぐのはイヤとか、メリル兄さんってワガママじゃない?
ディの側で育ってたら長男なんだから継ぐのが当たり前じゃないか。それって矛盾してるよ。それにディの息子だってバレると面倒だからって、おじいさまにもディにも気を使わせてさ。なんでそんなに何にも考えないで好き勝手言っていられるの、無神経だよ、兄さんてっ!!」とか怒って、それ面と向ってメリルにぽんぽんぽんと言うわけね。ディからは「メリルにはメリルの考えがあるんだから」とか言われてるんですけど、それでもあれこれ腹立ってるもんだから我慢できなくてメリルんちにそれ言いに行く。言われたメリルの方は「何でこんなにぽんぽん言われなきゃならないんだ」とこちらも腹は立つけど、確かに一理はありそうな発言だし、そこで「自分は考えなしだったんだろうか」とマジメに受け止めるのもメリルの性格よね。で、おじいさまに、「デュアンからこんなことを言われました。ぼくって、無神経だったんでしょうか」とかマジで相談しちゃったりする。ディとデュアンの現在の関係については、おじいさまが知ったらどんなに悲しまれるかと思うもんだから言わないけど。
で、ロベールさんからそんなことがあったらしいよと聞いたディはデュアンに、「ぼくも良い子だったとはお世辞にも言いかねるけど、全くきみって子は爆弾っコだなあ。ぼくにはそういうところはなかったはずだよ。」とか言う。困るというより笑ってますけどね、ディのことだから。それへデュアンは「だったらこれは、母の血です!」
まあデュアンはメリルのことをキライってわけではないんだけど、わりと本質的に神経細かいって言うか、家継ぐの継がないのって話にしても、このコにしてみたら「立場上の責任」みたいな意識があるから自分まで「イヤ」と言ったら、お父さんもおじいさまも困るだろうなあと思って受けたようなところがあるし、母親との関係にしても彼女の方が何でもかんでもデュアン、デュアンって頼るほど支えてあげてたりしたわけで、そういうコから見るとメリルの態度は「何も考えてない」ように見えるのよね。メリルはメリルで自分にできることとできないことがハッキリしていて、できないことはできないと言ってるだけなんですけど。
こういう一幕があって、それからがこのコ(デュアン)のユニークなとこなんですが、ようしそれならって「ぼくも油彩をやる」とか言い出すんです。「兄さんはディからだけだけど、ぼくはママとディとどちらも画家なんだから、ぼくの方がダブルで才能もらってるはず!」とかワケのわからない理屈でそっち方面も始めちゃう。「ディを理解しようともしない兄さんになんか負けるもんか」ってわけです。
イラストの方はディに引き取られる前から母親の担当編集者が気に入ったりしてて、ちょこちょこ雑誌なんかにも使われてたので、この頃になるとちょっとしたアルバイト程度の「仕事」にはなって来てるんですけど、それはもちろん続けながらだから、メリルの正統派クラシックな画風に対して、このコのはグラフィック系のモダンな画風に発展してゆきそうですね。「油彩を始める」と言い出したら、当然ディに「教えてっ」ってことになるから、技術的にも最高の師匠が側にいるし、デッサン力とかはそもそも凄いし。ただ、イラストは主にインクとペンで描いてますけど、油彩では絵の具の使い方が全然違うので、最初のうちは3日とあけず「ぼくには才能がないんだーーーーっ」とかわめいてディを笑わせてたりします。父親のスタイルを真似ようなんて考えもしないところは、メリルもデュアンもさすがにディの息子ってとこでしょうか。
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2008/1/9
★ディの子供たち・その2★
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さて、ディの子供の頃の話をこの前ちょっとしましたが、それからずーーーっとトシ取ってってそのうち彼には息子が3人ほど出来ちゃうというのも以前書いてました。で、その時はどんな子たちかなーみたいなことを言ってたと思うんですけど、その後、けっこう鮮明なイメージになって現れて来たんですね。
まず3人の名前ですが、上からメリル、ファーン、デュアンで、三番目はディと同じ名前ですけどスペルはDiane
ではなくてDuaneの方なんだそうです。この子のお母さんが毎日そう呼んで育てたいと思ったのでこの名前にしたとか。前にも書いてた通り、母親はみんな違います。
一番めのメリルのお母さんはディとつきあってた頃はブックエージェントをしてたんですけど、その後、自分で出版社を作って、それは今ではクランドルでも定評のある中くらいの大きさの会社にまでなってる。いわゆる「才媛」ってやつですね。文学に関わるくらいですから真面目で真っ直ぐな性質。キレイな人だけど派手派手しいというのはキライな方で、息子もよく躾けて地に足のついた真面目な子に育ててる。
二番目のファーンのお母さんは貴族の未亡人。彼女はディより少し年上かもしれませんね。楚々たる美女という雰囲気で、思いやり深い優しい女性ではあるけど、生まれた時から貴族のお姫様として育ってるからそういう意味での誇りも高い。だから息子もきわめて貴族的に育ててます。
三番目のデュアンのママはクランドルでも人気のイラストレーターで、キュートな人懐こい感じの美人。華やかな世界で活動しているだけにそういう方面の交流が多く、芸能界、社交界とも近いという環境で育ったデュアンも明るくて社交的な可愛い子って感じかな。
で、息子たちの方ですが、メリルは性質、才能ともに一番ディを継いでる。ただ、この「性質」っていうのは大人になってからのディじゃなくて、子供の頃の「純粋かつ繊細でまっすぐ」だった方のディ。社交的とはお世辞にも言いかねる性格で、母親の話ではものごころついた頃から絵さえ描かせておけばご機嫌だったとか。容姿の方は母親似で髪も目もブラウン。まっすぐな髪は肩くらいまでで切ってますけど、これがもっと長かったらマーティアタイプかも。
ファーンは「美術は見るのは好きですけど、才能はないみたいですね」と自分で言ってるくらいで、その意味ではディというよりロベールさんの方に似てるかも。隔世遺伝ですかね。十二歳くらいなのにけっこう落ち着いた性質で「将来は大学に進んで、政治か経済をやりたい」とか言ってることもあってロベールさんがことのほか気に入るのよね。貴族社会で育ってるからそのへんもすんなり馴染むし、ディから見れば次男ってことになるから、モルガーナ家をメリルに継がせるならファーンにはシャンタン家を継がせたいって話になってく。容姿の方はわりと母親似かな。
さて問題の三番目。問題のって、これはけっこう面白いやつみたいで、今のとこ真面目なメリルと人懐こくて明るいデュアンってのが対照的で、私としてはこの二人に特に注目してるんですけど、子供の頃のディにそっくり、ってことは必然的にアリシアにも似てる。ただ、ディは性質がああなんで子供の頃もぱっと見「キレイだけど近寄りがたい」って感じなのに対して、デュアンは「すごく可愛い」って印象がありますね。これは性質的なものの反映でしょう。ただ、可愛いし人懐こいので誰からも可愛がられるけど、けっこう芯のところでしたたかというか、つっこみが鋭いというか、「言うことは言う」みたいなとこがありますね、この子。ディとこの子の会話ってけっこう可笑しい。なかなかいいコンビというか。
例えばですね、ちょっと話が飛びますが...。
三人も孫がいることを知って怒ったロベールさん(怒ったのはディが黙ってたからで、彼に子供がいたこと自体はめちゃくちゃ喜んでる)が、三人を集めさせて初めて顔を合わせたあと、メリルが母親に、「ぼくはもうお父さんとは会わないよ」とか言い出しちゃったんですね。ファーンはもともと貴族の母親にそういう世界で育てられてるから何の問題もないし、デュアンもわりと社交的な性格な上に大人からちやほやされるのにも慣れてる。だけどメリルだけはきわめて「ふつう」に育てられてるし、絵を描いてれば幸せってこもりがちな子だから「社交的な雰囲気」ってのになじまないのよね。しかも、この子の鋭いとこは、「お父さんはぼくのことなんか何とも思ってない」、なぜならば、「この前会った時の彼ってイメージが全然違うんだもの。少なくとも絵を描いてる時の彼はあんなじゃないはずだよ。本当ならあんなふうに機嫌よくぼくたちを"おもてなし"してくれるような人だとは思えないし、本当にぼくたちに関わってくれるつもりなら、もっとちゃんと接してくれるんじゃないかと思う」って、結局ディのその時の本音をきっちり見抜いちゃってるのよね。それにその時、モルガーナ家を継ぐってことも考えておいて欲しいと言われて「あんな大きな屋敷や豪華なリムジンがあるような家を継ぐなんて、ぼくには絶対できない」。ま、それほどまじめで、絵を描くことにしか興味のない子と言ってもいいかも。
そんなわけで最初はモルガーナ家は長男のメリルに継いでもらえればって話になりかかってたのを、メリルが「やだ」とゆーので仕方がないからじゃあデュアンにってことになって、でもこっちの子も財産とか地位とかには極めて興味のない子なので、最初にそんな話が出た時も三番目だからぼくには関係ないって顔してたくらいなんですね。だけど持ち上がり式でそういうことになっちゃったんで、ディがデュアンを呼んで「これはぼくからのお願いなんだけど」ってことで、モルガーナ家を継いでもらえないかなともちかけたわけです。
************
「なんでぼくなんですか。メリル兄さんがいるのに」
「ぼくはメリルに嫌われちゃったみたいでね。ま、こんな父親ってのが許せなかったんじゃない?」
ディが言うとデュアンはしばらく考え深げに首をかしげていたが、納得したような顔で頷きながら答えた。
「...そうかもしれませんね。まじめな方みたいでしたから。」
「.....」
「どうかしました?」
「いや、もう少しなんとかフォローしてもらえるかと思ってたもので」
「あ、ごめんなさい」
「いいけど。で、どう?
聞いてもらえるかな、ぼくのお願い。」
「そうですね...。ファーン兄さんはおじいさまが後を継いで欲しいと思ってらっしゃるようですし、そうするとぼくしか...」
またしばらく考えこんでから、ふいにデュアンはディを見て言った。
「他に、いないんですか?」
さすがにこういう一見無邪気なつっこみには備えていなかったディは一瞬彼らしくもなく固まり、それから、ぼくの知る限りでは、と答えた。
「なるほど、それは困りましたね。でも、ぼくに出来るでしょうか。大変なんでしょう?
やっぱり伯爵さまって。」
「いや、大丈夫。ぼくで勤まってるくらいだから。」
「あ、そうでしたね。それなら...」
これがかなり失礼な発言であることが分かっているのかいないのか、さっきのも含めてわざとなのか失言なのか、どうもこの少年は無邪気なのか、作為的にそう見せているだけなのか判断のつかないようなところがある。なるほどこれはぼくの息子だと思うとディは可笑しくなってきてしまうのだが、可愛らしくて、もの言いも丁寧なくせに、ちょっと何を考えているんだか、というようなところがあるのもディはけっこう気に入っていた。ともあれ、メリルと違ってこの子なら、なかなかめんどうな「伯爵家の主人役」をうまくこなせそうなしたたかなところがありそうだ。
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これとか、お披露目が済んだあとレイが連れてきなさいよって言うので、ディはレイんちにデュアンを連れてお茶しに行くんですけど、こんな大きくなってる子を隠してたなんてとか、他にもいるんじゃないでしょうねとか、自分の子供にだけは手出すんじゃないわよとか、散々楽しくディをからかったあとでレイがデュアンに「こんなお父さんでイヤじゃない?」とか聞くんですよね。で、もともとディのファンだし、いろいろあってこの頃には既にディに心酔してるデュアンはこの質問に相当かっつんと来たらしく、きっぱり「いえ、ぼくの師だと思ってますから」とか言い切る。一見可愛らしい少年があまりにきっぱり言い切るものだから、レイの方が面食らったくらいで、こういうとこ見るとやっぱりこの子は可愛いだけじゃなさそうだなと私も思います。ともあれこれに対してレイもさすがで、「あーらあら、もうすっかりてなづけちゃって。素早いわよね。」って切り返す。その横でディは何くわない顔して笑ってる。
ちなみにデュアンが「ぼくの師だと思ってます」とまで言うのは、この子は将来は母親と同じようにイラストレーターになりたいと思って勉強していて、でも父親が美術の王道をゆく油彩の大家なわけだから、イラストなんて言ったらバカにされそうとか思いながら自分の作品をディに見せるのよね。で、見る前はあまりディは期待もしてなかったんですけど、なかなかどうしておや?
と思わせるものがある作品で、なかなかいいねって言う。それへデュアンが、
「本当ですか?
お父さんから見たらイラストなんてつまらないって言われるかもって思ってたんですけど」
「どうして?」
「だってやっぱり、油彩とイラストでは格違いっていう感じがするし」
「あのね、デュアン。ぼくはきみが将来何になろうとしてもそれはきみの自由だと思うけれど、絵を描きたいと思うならこれだけは覚えておきなさい。「何で」描くかじゃなくて、「何を」描くかが問題なんだってことをね。」
メリルが「本当にぼくたちに関わってくれるつもりなら、もっとちゃんと接してくれるんじゃないかと思う」と言ってましたけど、それまでのディは自分の息子だからそれなりの対応はしても、確かにまじめに接してたとはいいかねる状態だったわけで、でもこのデュアンに対する一言ってのは完全に「画家としての発言」で、これが初めて自分の息子を「それなり」じゃない扱いした場面ってところでしょう。で、この一言で「なるほど」と思ったデュアンは「ぼくのお父さんは本当にデュアン・モルガーナなんだ」って、こっちの方も初めて実感、納得した感じで、以来そうとは口に出さないまでも「ぼくの師匠」って心に決めてたりするんですね。それをレイが茶化すもんだから怒って反論したんだな。
他のエピソードというと、三人の子供たちを招いてディの屋敷でディナーっていうのが最初の集まりだったんですけど、その日は遅くなるので三人とも泊まってくってことになってた。で、ちょっとお茶してからそれぞれゲストルームに通されて落ち着くと、少ししてデュアンがメリルの部屋にやってくるんです。「ちょっとお話していいですか?」とかって。
デュアンは「ぼくは母とふたりきりなので大家族ってすごく憧れてたんです。だからお父さんだけじゃなく、おじいさまと兄さんが二人もいっぺんに出来るなんてすごく嬉しくて。メリル兄さんって呼んでいいですか?」って屈託なく「仲良くしてね」みたいなことを言いに来たわけね。メリルの方はいきなり父親だの祖父だの弟だの言われても、どう接していいか分からないって感じで戸惑ってたから、こういうところも「自分とは違うなあ」と思って引け目とか感じちゃうわけ。で、アリシアのこととか、実の息子なのに側で育ててもらえなかったことなんかについてメリルはかなり拘ってたもんだから、いろいろ話してるうちに、この子(デュアン)はどう思ってるのかなと気になって聞いてみるのよね。
***********
「本当のお父さんなのに、今までぼくたちを放っておいたこととか、きみとぼくのお母さんが違うこととか、そういうのって普通じゃないじゃないか。家族そろって一緒に暮らしたかったなとか、そういうこと、きみは思わなかったの?」
「え?
だって、彼はデュアン・モルガーナなんですよ!
全然似合いませんよ、そんなの。」
「似合わないって、でも...」
「ごめんなさい。だけどぼく、もうずっと前からお父さんのファンだから。あんなに凄い絵を描くひとが、そんな普通の生活してるなんて、ぼくはちょっと想像もつかないし。ぼくは彼が本当のお父さんなんだってだけで、すごく嬉しいくらいですけど。」
「じゃあその...。お父さんとアリシア・バークレイ博士がとても親しいという話とかは?」
「ステキですよねっ。」
「.....」
「ぼく、母さんの関係でいろいろなパーティとかにも連れて行ってもらえることがあるんですけど、それでアリシア博士って一度だけお見かけしたことがあるんです。ものすごくキレイな方ですよ。お父さんと一緒にいたら、それはもう本当に絵みたいに素敵だろうなって思うくらい。」
************
このへんの感覚の違いってのがけっこうメリルの「引け目」とか「気後れ」には影響してますね。弟のこういう感覚には「ついていけない」ってのがメリルの本音でしょう。でも、ファーンの方もそういう疑問とかは少なくとも表立っては感じてないようにしか見えなくて、口に出したら自分ひとりがつまらないことに拘ってるように思われて分かってもらえないような気がしてくる。デュアンが明るいのとロベールさんがソツなく取りしきってるのと、ディが機嫌よく応対してるのとで既に「和気あいあい」な雰囲気になりつつあるディナーの席でも、メリルひとりが浮き上がってるような気分になっちゃうのよね。
後にはロベールさんがメリルのことを気にしてよく話し合った結果、メリルの常識的感覚はロベールさんには十分理解できるものだったので、おじいさまとはそれなりに交流もできて仲良くなってくんですけどね。ただ、画家を目指しているメリルにとっては、実の父親がディだと公表されると、逆にその才能が正当評価される邪魔になりかねないということをメリルの母親もディもロベールさんも心配して、それで正式にお披露目するのはファーンとデュアンだけってことになり、メリルはかなりトシ取るまでディとは疎遠なままになります。
ま、そんなこんなでいろいろ場面は見えて来てたりするんですが、今のところはこの三番目のデュアンくんがけっこう楽しませてくれてますね。メリルのものごとマジメに受け止めて悩む性格も捨てがたいですけど、うーん、面白くなってきたぞ...って、この段階では、読んでる皆さんの方にはあんまり伝わってないかもですね。私だけが楽しんでるって感じで申し訳ないですが、こういうエピソードが蓄積していくうちに、「作者」と「登場人物」は親しくなってくってことなのですな。
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