その夜、気楽な旅行者になりきっている二人が温泉につかって凝った京料理を楽しみ、大満足でのんびりしているとカトリーヌの携帯に呼び出しがかかった。出てみると、かけて来たのはライラだ。
― ハ〜イ、カトリーヌ。ウエルカム・トゥ・ジャパ〜ン。私よ〜
陽気なライラの挨拶に、カトリーヌは笑っている。表向きは彼女の方がボスとは言え、カトリーヌがクランドルで小さなショップを始めた頃からの股肱だから、今では最も信頼している友人の一人でもあった。もともと東洋贔屓だったが、仕事で来た日本をすっかり気に入り、今では日本人と結婚してこの国に根を下ろす格好になっている。だからミラーは旧姓で今は高瀬夫人なのだが、峰岸達哉はそもそも彼女の旦那の古くからの友人なのである。
「ハ〜イ、ライラ。元気してる?」
― もっちろんよ。どう?
京都は
「最高。って、まだ外はろくに見てないんだけど、旅館で既に日本を満喫してるわ」
― それは良かった。部屋は気に入った?
「ええ、とっても。お部屋もいいし、温泉ってやっぱりサイコーね。デュアンも気に入っちゃって。それに夕食もすっごく美味しかったの」
― それはそうよ。そこはねえ、何より板さんが自慢。日本中探しても、ちょっとないわよ、それだけの料理を出してくれるところ
「そうなんだ」
― 達哉によると、日本で三人、最高の板前を選べと言われたら、必ずそこの板さんを入れるそうよ
「なるほどねえ。さもありなん、だわね。とにかく細工が繊細で、あんまりキレイなもんだから、デュアンなんて食べる前に見とれちゃってるのよ。これ、既にオブジェ?
とか言ってるの。崩して食べちゃうのが、もったいなかったくらい」
― でしょ?
やっぱり、日本の旅なら温泉と日本料理よ。思いっきり楽しんでって
「ぜひ、そうさせてもらうわ」
― あ、それでね、カトリーヌ。その達哉が、食事、一緒にいいかなって。16日の話よ。私たちのディナーに、参加してもいいか聞いてみてくれって
「あら、ほんと?」
― ええ。久しぶりだし、せっかくだから会いたいらしいわ。聞いたまま言うわね。『良かったら、ぼくをぜひ京都ガイドにご利用下さい』ですって
「きゃ〜、嬉しい!
私もお会いしたいってお伝えして」
― そう?
なら、そう伝えるわ。なにしろ、今回はデュアンと二人きりでって、ご希望だったじゃない。それ知ってるから、彼、遠慮しちゃって
「達哉なら大歓迎よ。デュアンにも会わせたいわ」
― じゃ、そういうことにしましょうか。15日なら京都に行けるって言うし、16日は宵山じゃないの。朝からお祭り楽しんで、それから食事ね
「え、じゃ、わざわざ来て下さるの?」
― そうみたいよ?
あなたにもだけど、デュアンにも会いたいみたい
「ああ、そうか。じゃ、楽しみにしてますって」
― ええ。では、それまで親子水入らずでどうぞ、お楽しみ下さい
「ありがと」
― じゃね。何かあったら電話して
「ええ」
カトリーヌが電話を切ったのを見て、横で聞いていたデュアンが言った。
「ライラからだったの?」
「そう。峰岸さんも15日にこっちに見えるそうよ。お祭り見物と食事、一緒にしようって。京都も案内して下さるらしいわ。紹介するわね。とっても素敵な方だから、あなたも気に入ると思う」
「ママがそう言うなら、会うの楽しみ。ライラのお友達っていうくらいしか知らないけど、どういう人なの?」
「彼自身は画商なんだけど、おじいさまが画家で、おばあさまが確か京都のお茶の家元のお嬢さんだったとかなのよ。で、お父さまは作家で、お母さまは女優」
「なんか、それって家系的に凄くない?」
「そうね」
それを言うならデュアン自身の父方の家系も相当なものなのに、本人、それを未だに意識していないようなのがデュアンらしいと、カトリーヌは内心で笑っている。
「ま、それもあってとっても教養豊かな方だし、気さくでね。それに、紳士よ」
「ふうん。いくつくらいの人?」
「ライラによると五十代ですって。でも、とてもそうは見えないの。会えば絶対、驚くから。年齢と見た目のギャップで言えば、ディとどっちこっちね」
「へええええっ、それってすっごい楽しみ!」
そんなわけで、京都の最も中心的な四条周辺の観光は案内役を買って出てくれた峰岸達哉が到着するのを待ってからにして、翌日、午前中は観光客定番の嵐山散策、午後は桂にも足を延ばして桂離宮をゆっくりと見学して過ごした。その間にも、目につく店で二人ともあれこれとお買いものだ。特にデュアンは、兄や父と祖父、沢山いる友達や家のみんなにと、お土産選びが忙しい。そして夜はその日も旅館に帰って、温泉⇒日本料理である。二人とも、このコースが非常に気に入ったと見えた。
こうして二日ほどが市街周辺の観光と美食三昧で過ぎてゆき、いよいよ祇園祭もクライマックスを迎える15日。結局、その日から達哉がガイドしてくれることになり、約束通り、朝から彼とライラがマセラーティで旅館まで迎えに来てくれた。達哉は前日に車で京都入りしていたが、ライラは朝一番の新幹線で東京から来てくれることになっていたのだ。二人の到着を藤乃が知らせてくれたので、カトリーヌとデュアンは準備万端整えて、玄関へ出て行った。
「おはよ〜、デュアン、カトリーヌ。久しぶりね!」
「おはよう。ほんと、顔を見るのって半年ぶりくらいじゃない?
あ、達哉、お久しぶり。今日はわざわざどうも有難う」
「どういたしまして。京都はどないです。気に入りはりましたか」
「ええ、あら...?
イントネーションが」
「あ、分かった?
実は、ぼくは関西に来ると、関西弁になるんだよ」
笑ってそう言った彼を見て、デュアンは、えっ、これで五十代?!
と、かなりびっくり仰天していた。お父さんもあれで四十代は凄いと思ってたけど、峰岸さんて、どー見たってお父さんといい勝負、と思ったからだ。
なにしろ達哉の父も長身で美形、従って若い頃から女性が放っておかなかったという人物だが、そもそもその容姿は遡れば更にその父から受け継いだものだったのだ。これはもう家系ということなのだろうが、ましてや彼の母はサラ・ベルナールの再来とまで称された名優にして美人女優。本人は父の性格も受け継いで、けっこう真面目な性質とはいえ、少なくとも女性が一目で目を見張ってしまうようないい男なのには違いない。夏らしく半袖のシャツに麻のボトムをすっきり着こなし、マセラーティのセダンをバックにこうもハマる日本人も珍しいに違いない。
「関西だけじゃなくて、九州や東北の方言も使えるのよね」
ライラが解説を加えるのに頷いて、達哉が言っている。
「一通りはね。それって顧客サービスというか、特に関西は"東京もんの喋り方は冷たい気がする"とかおっしゃるお得意さんも多くて、それはどこでもわりとそうなんだけど違和感あるんじゃないかな。それで、ぼくが地方方言混ぜて話すとぐっと打ち解けて下さったり。そもそも、ぼくは東京人ですらないんだけどさ」
「確か、お生まれは日本じゃありませんでしたわよね」
カトリーヌの質問に、彼はにっこりして答えた。
「そう。親父が変わり者なもんで、おかげでぼくはヨーロッパ産ですよ。あ、それはそうと、ね、カトリーヌ。紹介してよ。彼がデュアンくんでしょう?
会えるのを、楽しみにしてたんだ」
達哉はデュアンのいることを考えてか、途中から彼にも分かる言葉に切り変えた。
「ええ。息子のデュアンです。デュアン、こちらが峰岸達哉さん。いろいろお世話になってるのよ」
「はじめまして、峰岸さん。お会いできて嬉しいです」
「こちらこそ。はじめまして」
デュアンと握手を交わしながら、達哉は、お父さんはお元気かな?と尋ねた。
「はい。あ、父のこともご存じなんですよね」
「仕事柄、いろいろとね。幸運にも、親しくさせてもらってます。さ、じゃ、行きますか。和食器を見に来たって聞いてるし、せっかくだから清水焼の窯元も見て行くといいと思って連絡しておいたんだ。その後、ぐるりと寺と城巡り、なんてどうかな?
市内は明日の方が盛り上がるから」
「素敵!
お任せするわ」
カトリーヌが言うと達哉は頷き、マセラーティのドアを開いて二人をリア・シートに乗せた。ライラも助手席に乗せると、見送りに出ていた藤乃に、じゃ、行って来るねと言ってから運転席に落ち着いた。
「お気をつけて」
見送られて車が発進すると、カトリーヌが達哉に尋ねている。
「車でこちらに来られたの?」
「うん、仕事で東京にいたんだけど、東京-大阪間なんて、ぼくにとってはひとっ飛びだし。新幹線や飛行機ってのは、どうも性に合わなくて。車コロがしてれば機嫌がいいんですよ、ぼくは」
「そう言えば、お父さまがフェラリのコレクターでらしたんじゃなかったかしら」
「よく知ってるね。そう。それもあって、ぼくはクルマと兄弟みたいに育ったもんだから。親父にとっては、実際、クルマも子供も同じだったんじゃないかと思うな。そうそう、デュアンくん。クルマならディのところのコレクションも凄いよねえ」
「あ、ええ。ご覧になったこと、あるんですか?」
「前にね。さすがと言おうか、代々の蓄積というのはとんでもないなと感嘆しましたよ。あれだけの名車を一同に会して眺められるなんて、他では何かのモーターショウくらいしかないんじゃないかな」
「でしょうね。ぼくだって最初は、びっくりしました。ただ、車とか美術品とか、とても好きだから見るぶんにはいいんですけど、自分ちのだっていうのは、けっこう重くて」
「え?
なんで?」
「だって、将来的に維持してくの、ぼくですよ?
この先、相当頑張らないと一家して路頭に迷うというか、全責任、ぼくにかかってるんですから」
それを聞いて、達哉は笑っている。どうやら、彼にはその一言でデュアンのひととなりが理解できたようだ。
「確かに、それはそうかもね。しかし、ディは幸せだね。こんな立派な跡取りが出来て。ね、カトリーヌ」
「ま、それは、私の手柄ですわね」
「違いない。あ、そうだ。お昼は適当に見つけるとして、夕食のリクエストある?
今から予約入れとく方がいいかもしれない」
「そうねえ。デュアンは?」
「何が選べるんですか?」
「何でも。藤乃さんとこ以上の日本料理出す店なんてそうはないから、ぼくとしてオススメは和食なら寿司かな。あと神戸肉のうまいの食わせるところもあるし、それに中華とか。それなりいいレストランも知ってるけど、どう考えてもオブライエン氏の料理を毎日食べてる口には、ちょっと奨め難いからなあ」
それへデュアンは笑って答えた。
「じゃ、ぼく的には寿司!ですね。寿司にしましょう。断然、サシミ!」
「おお、デュアンくん、通ですね」
「へへへへへ」
「どう?
カトリーヌ。和食系ばかりで飽きない?」
「全然。そうね、私も本場のスシって食べたいわ。ライラは?」
「いいわねえ。刺身で日本酒をこう、キュっと一杯」
「かないませんね、皆さんには。日本人のぼくより、よっぽど通ですよ。じゃ、そうしましょう。ライラ、予約入れてくれる?」
「まかせなさい」
言って、ライラが携帯を取り出し、彼らのよく行く店に電話をかけている横で、達哉はカトリーヌに尋ねた。
「ところでさ、カトリーヌ。きみって日本語、方言になっても分かるわけ?」
「と言うか、あまり意識してないんだけど、少なくとも京都や大阪で不自由を感じることってなかったんじゃないかしら」
「へえ、それは凄いな」
「あら、だって関西だと単語単体の発音はあまり変わらないし、語尾やイントネーションが違うくらいでしょ?
どこの国にも、殆ど原形と変わってしまうような方言だってあるし、そうなると手に負えませんけど」
「ああ、それはそうかも。でも、それなら良かった。藤乃さんは商売柄、確か4〜5か国語はいけたから大丈夫だろうとは思ってたけど、ちょっと気になってたんだ」
「それはライラからも聞いてたわ。でも、特に不自由はありませんでしたから」
それへ横からデュアンが口をはさんだ。
「藤乃さんて、素敵な方ですよね」
おっと、多少年配とはいえ美女を見逃さないとは、さすがディの息子、と達哉は笑いながら言っている。
「おや、デュアンくん、目が高いね」
「え、だって昨日もね、珍しい和菓子とか、日本のこととか、沢山教えてもらってたんです。ぼく、興味あることにはけっこうしつこくなっちゃうんだけど、本当に詳しく教えて下さって」
「そう。実際、彼女って生粋の京女で、おまけに才媛だし、内外を問わずファンが多いんだよ。かく言うぼくもでね」
「そうなんですか?」
「うん」
そこへ電話を終わったライラが割り込んだ。
「そうそう、うちの旦那もファンなのよ。私もあんなふうに着物が着こなせたらいいなあと思う。女の私でも、憧れちゃうわね」
「いやいや、きみの着物姿もなかなかのもんですよ」
「有難う」
「ああ、着物と言えば、カトリーヌ、明日のお祭り、浴衣着たくない?」
「えっ、着れるの?
着た〜い! ぜひ着たいわ」
「じゃ、藤乃さんに頼んでおいてあげるよ。デュアンくんは?」
「えっ、ぼくも着れるんですか?」
「うん、今の時期だし用意できると思う」
「それなら、ぜひ。日本の夏祭りは浴衣で楽しむものだって、本に書いてあって着てみたいと思ってたんです」
「なら、明日はぼくもそうしよう。ライラは持って来てるんだろ?」
「もちろん」
そんなこんなで盛り上がっているうちに、車はどうやら最初の目的地、清水焼の窯元に着いたようだ。
さすがに世界屈指の観光地のことで、京都にある窯元には見学会や体験会を催している所が多い。達哉は画商とは言え、世界中に顧客を持つという事情もあって美術全般に詳しく、広い人脈も持っているから、どこに行けば何が見られるかにも精通しているのだ。
素材となる土を作るところから始まって、ろくろでの成型、素焼き、絵付け、本焼きなどの各工程をざっと見るだけで午前中いっぱい費やすことになったが、デュアンもカトリーヌもそれが非常に面白かったようだ。中でもデュアンは特に絵付けの段階に目を奪われたようで、金銀も交えて鮮やかな筆さばきで絵や複雑な模様が描かれてゆくさまは、いくら見ていても飽きない様子だった。
それで見学が終わるとすっかりランチの時間を過ぎていたので、四人は清水焼の食器で食べさせてくれるという店で京都の日常的おばんざい(お惣菜)を堪能し、その後、清水寺から銀閣寺に回った。カトリーヌは以前にも来たことがあったが、随分前のことだし、今回はデュアンにも見せたいと思っていたのだろう。まだ幼いとは言え、本人も"イラストレーターとして異文化には興味がある"と言っていた通り、自国のそれとは全く違う様式の建物や美術品を目の当たりにするのが楽しいようだった。
そうこうするうちに夏の日も暮れかかる頃となり、デュアン待望の寿司屋で夕食ということになった。達哉やライラがよく行く店だから、すっかり顔馴染みの彼らにはカウンターでも奥まった所にある落ち着ける場所が用意されていた。座敷もあるが、デュアンが通ぶりを見せてカウンター席がいいと進言したのだ。
「どう?
デュアンくん。寺回りは面白かった?」
達哉に尋ねられて、デュアンは嬉しそうに答えている。
「面白かったのも面白かったですけど、すっごく勉強になりましたね。お寺だけじゃなくって、清水焼の絵のデザインとかも。焼きものって、自分で作ってみたくなっちゃったし。平面に描く絵とは違った面白さがあるなあって」
「そう?
じゃ、今度来る時には、陶芸の体験会に申し込むといいよ。作らせてくれるところもあるから、ぼくに連絡くれれば手配してあげる」
「えっ、ほんとに?」
「うん」
「ぜひ、お願いします。今回は、他にも見たいとことかいっぱいあるから無理ですけど、すぐまた時間作って来ますから」
「待ってるよ。で、他にも見たいところってどこかな?」
「えっとね、やっぱり京都観光だと、御所とか二条城とか金閣寺も見なきゃって本に出てて」
「ああ、定番だからね。じゃ、明日の午前中は、そのへん回ろうか。カトリーヌもいい?」
「私も久しぶりに見て回りたいわ。やっぱり、異文化に触れるっていい刺激になるもの。ね、ライラ、どうかしら。清水焼と私の絵のコラボなんて」
「あら、素敵。見てみたいわね、カトリーヌ・ドラジェデザインの清水焼なんて」
「それは、ぼくもぜひ見たいな」
言っているところへ、注文した品々が出来上がってきた。まずは刺身と日本酒で乾杯である。女性軍が酒豪なのは達哉も知っているから驚かないが、さすがにデュアンがクイっと一杯ひっかけて、あ〜、おいし〜い、とつくづく言ってから、アワビに取りかかったのにはびっくりしたようだ。
「おや、デュアンくん、もしかして、いける口?」
「へへ、実は、そうなんです。日本酒って、この春初めて飲ませてもらったんですけど、すっかり気に入っちゃって。特に、刺身とのカップリングってサイコーですよね」
「分かってるねえ。なら、もう一杯」
言って達哉がデュアンの猪口に酒を注ぐものだから、カトリーヌはかなりヤバいと思ったのだろう。止める者がいなければ、息子が底ナシなのを彼女ほど知っている者もいない。
「あんまり飲ませないで下さ〜い。もう、調子に乗るとどこまでいくか分かんないんだから」
「いいじゃない。酒なんて過ごさなきゃいいんだよ。ぼくも親父が酒好きでさ。っていうか、利き酒ね。それでうんと子供の頃から教えられてたけど、この通りだもん。今となっては感謝してますよ」
「ですよね、ですよね?
ぼくも、おじいさまがワインのこと、いろいろ教えてくれるんです」
「ああ、それ覚えておくといいよ。実際、ロベールはワインにかけちゃ生き字引だから」
「あ、おじいさまのことも、知ってらっしゃるんですか」
「うん。いろいろとお世話になっててね」
「じゃ、峰岸さん。ぼくからもぜひ一献、受けて下さい」
「お、これはこれは」
デュアンが注いでくれた酒を一口飲んでから、達哉が言っている。
「デュアンくんって、なんていうかこう意外性あるよね。日本じゃ、きみくらいの年で寺回りを面白がる子なんて、あんまりいないもの。それに日本のことも、けっこうよく知ってたりするし」
「来ることになってから、かなり勉強しましたもん。本とかネットとかで。今回の旅行はもう、すっごく楽しみにしてたんです」
「そう。なら、お手伝いできて、ぼくも嬉しいよ。何でも聞いて。ぼくたち、もう友達だもんね」
「はい!」
はきはきした返事に、達哉はますますデュアンのことが気に入ったようだ。
「いいよねえ、このくらいの年の男のコって可愛くて。今更だけどディが羨ましい。うちのはもお、すっかり大きくなっちゃって、親父の言うことなんぞ聞きゃしないんだから。次は、マゴに期待するしかないね」
「あら、あなたの口から"マゴ"なんて言葉が出るとは意外ね」
「出ますよ。ぼくだってもういいトシなんですから」
達哉の冗談に女性軍が笑っている横で、デュアンは、どう考えても峰岸さんに"マゴ"なんてありえないよねえ、と思っている。彼のイメージでは、"おじいちゃん"というのはウィリアムか、少なくともロベールの年代だし、そもそも達哉の見た目は、その実際の年齢からでさえ、かけ離れているのだから仕方がない。
ともあれ、そんなこんなで京都観光4日目の夜が楽しく過ぎてゆこうとしている。明日はいよいよ、お祭り見物だ。
original
text : 2012.3.15.-3.21.
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