そんなこんなでいくらか紆余曲折はあったものの、事態が発覚してから数週間後にとうとう兄弟三人が顔を会わせる日がやってきた。つい昨日の夜まではうるさくグチり続けていたロベールだったが、いざ今日は念願の孫たちに会えるともなると、朝からすっかりご機嫌だ。朝食のダイニングでにこにこしながら言っている。

「いや、なかなかいい朝だね、アーネスト」

「左様でございますね。お天気も上々のようで、よろしゅうございました」

「そうだな。それで、きみはその三番目のデュアンには既に会っているんだろう?」

「はい」

「どんな子なんだ?」

アーネストは彼の舞い上がりぶりを微笑ましく思いながら、にっこりして答えた。

「それはもう、だんなさまのお小さい頃に生写しで、実に可愛らしい坊ちゃまでいらっしゃいますよ」

「おお、そうかそうか」

「明るい方のようで、私やマーサにも気軽に声をかけて下さいます」

「うんうん。こんなヤツの息子でも、それは母親の躾がいいんだろうな」

目の前で"こんなヤツ"と言われた当の本人は、彼の父親のゲンキンぶりに呆れながら黙って朝食を取っている。しかし、そこはさすがにロベールもディの親だけあって、息子が多少呆れているくらいではおかまいなし。全く気にせず、今度はそっちへ矛先を向けて来た。

「それで、おい。他の二人はどうなんだ? まだ、アーネストも会っていないんだろう?」

「はい」

「どんな子だ」

「さあ」

「こらこら、隠さなくてもいいだろうが。どうせもうすぐ来るんだから」

「隠してるわけじゃありませんよ。ただ、ぼくも会ったことがないので」

聞いてさすがにロベールは絶句した。

「今日初めて会うんですよ。これまで機会がなくて」

「機会がなくてって、おまえな。自分の子供だろう? よくそんな薄情なことが...」

「薄情だったつもりは全然ないんですけどね。なんとなくそういうことになっちゃったんです」

「つもりがあるとかないとか、そういう問題じゃないだろう。それはおまえ、子供たちに相当恨まれてても文句は言えんぞ」

「覚悟はしてます」

「全く、おまえというやつは」

ぶつぶつ言いながら、それでも彼の"孫に会える"という楽しい気持ちは少しも損なわれてはいないようだ。いつもなら更に説教が続きそうなところだが、ロベールはあっさりその追及はよしにして、12才と10才か、どんな子だろうなあ、と鼻歌まじりで嬉しそうに想像を膨らませている。

いつもは遅い朝食をベッドかアトリエで取るディだが、父が来ている時だけは親孝行で食事は一緒にすることにしていた。それで父の楽しそうな様子を眺めながら、まあ、喜んでいるようだからそれはそれで良かったけど、と思いつつ、彼にしても少しメリルのことが気にかかってはいたのだ。アンナの話ではファーンは"楽しみだ"と言っていたほどで、それほどマイナスの反応は示しそうにないが、マイラからは厳重な取扱い要注意、天地無用の警告が来ている。

もちろんディのことだから、いくら恨みを買っていそうとはいえ相手は12才の少年、それほど本マジでその反応を気に病んでいるわけではない。しかし、彼にとってそんな年頃の少年の知り合いというと、まだ幼かった頃のマーティアやアリシア、それと今はデュアンくらいしかいないし、マーティアとアリシアに限っては、これまた普通の少年とはあまりにも掛け離れている子たちだった。それで、メリルをどう扱ったら一番ダメージが少ないかなくらいのことは、考えるともなく考えてはいたのである。

「あ、そうだ、お父さん」

「ん? なんだ?」

「言い忘れてましたけど、ファーンのことで」

「二番めの子だな」

「ええ。ファーンの母親なんですけれどね。実は、クロフォード公爵のお嬢さんなんですよ」

「なんだって?」

「アナベル・ジェファースン、今はクロフォード姓に戻ってますけど、ご存知かも」

「それじゃ、先代のクロフォード公爵のお孫さんじゃないか。バカもの。なぜ、そんな大事なことを早く言わん」

「聞かなかったじゃないですか、母親が誰かなんて」

「これから聞こうと思ってたんだ。全くおまえというやつは。それなら、本来は私の方から先に挨拶に出向かなきゃならんのじゃないか」

「そうなんですか?」

「どうせおまえは知らんのだろうが、先代公爵といえば引退なさるまでクランドル経済界のドンとまで言われた人物だぞ。私も若い頃は散々世話になったものだ」

「へえ、そうするとそれは四、五十年前のことですよね? ぼくはもう生まれてたのかな」

ディがまるで他人事の世間話のようにしか聞いていないようなので、ロベールは深い溜息をついて言った。

「それに、モルガーナ家とも縁続きのはずだぞ」

「え? 本当に?」

「確か何代か前に、モルガーナ家からあちらに嫁いだ女性がいたはずだ。以前、ちょっと系図で見たことがある」

ディは今まで知らなかったその意外な事実に、ちょっと感心したような様子で答えた。

「あるんですねえ、そんなことが」

「しれっとして言うな。全く、おまえは貴族に向かんな。系図なんぞ見たこともないんだろう」

言われて、なりたいと思ったことなんて一度もありません、と心の中でディは思ったが、なにしろ彼が18才という若さで爵位を継がなければならなくなったのは、父がモルガーナ家の唯一の跡取り娘だったベアトリスと、双方の立場を無視して結婚したがったせいに他ならない。だから、そんな年齢で家を継がされたディに、ロベールは本当のところかなり負い目を感じているのを彼はよく知っている。それで、口に出して言ったりしたら、また気にするよなと思うものだから黙っているのだ。

「まあ、それならそれで、近いうち、私から翁にご挨拶に伺わせて頂くとしよう。おまえのことを、どう思ってらっしゃるかも気になるしな」

それからロベールは他の二人の母親のことも聞き、それぞれ美術と出版の世界で成功していると知って密かに、三人のうちどの一人でもモルガーナ家に嫁に来てくれていたら良かったものを、全くこいつは贅沢なやつだと、またまた呆れ返っていた。

original text : 2008.7.10.

  

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