この章では、人称代名詞の中でも特に多様な使い方をされる「it」と、所有代名詞及び再帰代名詞の使い方について解説します。人称代名詞にどんなものがあり、文中でそれぞれどの位置に置かれるかは前章の表を参考にして下さい。
1.it の用法 英語の構造上、主語や目的語がないと格好がつかないという場合がよくあります。そこで様々な場合に不都合を避けるために代用品として使われるのが「it」です。 @) 時間、天候、距離、明暗、温度、事情などを表現する場合に慣用的に主語になる ex) <時間> What time is it now? - It's seven thirty. <天候> It's fine today. <距離> It's two miles from here to the air port. <明暗、温度> It's dark (cool、hot) here. <事情> It says, "Don't step on the grass." = The sign says, "Don't step on the grass." (芝生を踏むな)と書いてある。)
A) 形式主語として不定詞やthat節を導く これは本来主語となるべき部分を文頭に出してしまうと長くなるような場合に、it を最初に置いて代用とする方法で非常によく使われます。従って「it = 不定詞やthat節」であるという点を把握しておいて下さい。 ex) It is strange that he (should) ignore the rumor. (彼がその噂を無視するとは、おかしなことだ。) It is advisable to rent a car. = It is advisable that you (should) rent a car. (クルマを借りるのが良いでしょう。) ※ strangeやadvisableなど、判断や感情を表す語が「It is 〜that...」の形で使われる場合、本来の英語では動詞の前にshould を入れるのが普通ですが、米語ではこれが脱落するため、後に続く動詞は原形になります。(詳しくは基礎確認篇★その10.助動詞2.shallとshouldを参照してください。)
B) 形式目的語語として不定詞やthat節を導く あるべき部分に本来の目的語を入れてしまうと不自然になるような場合に、「it」を代入する用法です。従って形式主語同様、この場合も「it = 不定詞やthat節」というこになります。 ex) You will find it very difficult to persuade him. (彼を説得するのは難しいことが、きみにも分かるだろう。) I think it certain that he was in trouble. (彼がもめごとに巻き込まれていたことは確かだと思う。)
C) 強調構文 「It is (was) + 名詞・代名詞・副詞 + that (who、whenなど) 〜」の形で名詞・代名詞・副詞を強める言い方が強調構文と呼ばれるものです。it が形式主語として使われる場合と形は似ていますが、形式主語の場合は間に形容詞が入ることが多く、従って、名詞・代名詞・副詞であれば強調構文と考えることが出来ます。 文法的にはこのような線引きが出来るわけですが、言葉を理解しようとする時に大切なのは強調構文か形式主語かを判断することではなく、文全体の大意を掴むことです。速読即解、即聴即解は大意を掴む訓練をすることでしか実現しませんので、文法的な線引きから意味を知ろうとするのではなく、文脈や前後関係、一般常識などから大意を掴む努力をするようにして下さい。そうすれば、おのずとそれが形式主語か強調構文かもすんなり分かるようになるでしょう。 ex) It was you that (who) broke the window. (窓を壊したのは、きみだ。) = You broke the window. It was yesterday that (when) he left Japan. (彼が日本を去ったのは昨日のことだ。) = He left Japan yesterday.
2.所有代名詞 代名詞の所有格は後に名詞が続き、所有代名詞は一語で「〜のもの」という意味を持つので、「所有代名詞 = 人称代名詞 + 名詞」という形が成り立つことになります。 ex) This book is mine. = This is my book. また、名詞の所有格について説明した時にも書きましたが、代名詞の所有格も冠詞相当語であるため、「a」やその他の冠詞相当語と並べて使うことができません。そこで「a (any、some、no、this、that) + <名詞> + of + <所有代名詞>」の形を使うことになるわけですが、ここで注意しなければならないのは、名詞の場合と違って、代名詞は所有格ではなく所有代名詞、もしくは「one's own」を使う点です。 ex) A friend of mine told me the rumor. (ある友人が、その噂を教えてくれた。) Tell me about that book of yours. (あなたのあの本について教えて下さい。) This is a book of my own. (これは私の所有する本です。) 「one's own」は特に所有を強調するようなニュアンスを持っているので、形の上では置き換えることが可能でも、意味的に相応しくない場合もありえます。例えば、「that book of yours」が相手によって所有される本ではなく、相手が著作者であるような場合は「that book of your own」だと意味が違ってくるでしょう。このようなこともあるので、意味をよく考えて使うようにしましょう。
3.再帰代名詞 人称代名詞の所有格、もしくは目的格に「self (単数)、selves (複数)」を付けたものを再帰代名詞と呼びます。これは主格、目的格として使うことはできますが、所有格として使うことができないため、代わりに「代名詞の所有格 + own」が使われます。但し、「代名詞の所有格 + own」には、名詞を形容する位置で使う形容詞的用法と、単独で使われる名詞的用法とがあることも覚えておいて下さい。 @) 他動詞の目的語になる (再帰用法) ex) I hurt myself. (ケガをした。)
A) 主語、目的語、補語と並べて同格に使い、意味を強調する ex) I myself did it. = I did it myself. (私自身が、それをやったんだ。) She is honesty itself. = She is very honest. (彼女は誠実そのものだ。)
B) 慣用句 oneself を用いた慣用句は数限りなくあります。よく使われる例を挙げてみましょう。 for oneself (独力で)、by oneself (独力で、一人ぼっちで) ※for oneself と by oneself はどちらも「独力で、〜だけの力で」という意味に使われますが、特に「孤独」というニュアンスで使われるのはby oneself のみです。 come to oneself (正気にかえる)、beside oneself (with 〜) ((〜に)我を忘れて、気が狂って) of oneself (ひとりでに)、to oneself (〜にだけに[限って]) etc, etc...
ex) I did the work for myself (by myself.) (私はその仕事を自分だけでやった。) I saw her lunching by herself in a restaurant. (私は彼女がレストランで一人で食事しているのを見かけた。) He came to himself. (彼は正気にかえった。) He was beside himself with joy. (彼は喜びのあまり我を忘れていた。) The door opened of itself. (ドアがひとりでに開いた。) Keep what I said to yourself. (私が言ったことは、あなただけの胸にしまっておきなさい。)
C) one's own の用法 ex) This book is my own. ・・・ 名詞的用法 This is my own book. ・・・ 形容詞的用法 This is a book of my own. ・・・ 冠詞相当語との併用 「one's own」が、所有代名詞の代わりに冠詞相当語と併用できることは上で述べた通りですが、そもそも再帰代名詞や「one's own」は意味を強調するのに使われる傾向があるので、使う時はニュアンスをよく考えてどれを使うか選ぶ必要があります。人称代名詞の所有格、所有代名詞、「one's own」は混同しやすいですから、文法的には以下のような線引きがあることを目安にしておくと良いと思いますが、意味を考えて使うことを忘れないで下さい。
では、以上のような点に注意して、以下の日本語を英語に直してみて下さい。極力、日本語で考えず、イメージを自動的に英語にする努力をしましょう。もちろん、発音やイントネーションにも注意して下さい。すぐに言えなかった場合は正解例を見て記憶し、少し時間を置いてから言えるかどうか試してみます。これを何回か繰り返すうちに、日本語に対応した英語が難なく出てくるようになると思いますよ。
2007.11.12..-11.13.
|