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第4章
「The world
you understand is over」 but 「it'll get better now.」
***
終わりは始まりを意味する、というお話***
この曲のタイトルと最後のフレーズをつなぐとこうなります。「きみの認識の中にある世界は終わる」、けれども「今からずっとよくなるだろう」。作者が言いたいことは、これで全部言っているというような歌詞なので、音楽的な装飾を可能にするため特に意味のない語句の中にテーマに関連する内容が埋め込まれているというような手法です。その手法から判断して名詞等でリズム(韻)を出している語句は無理に日本語にしない方が良いと思われるのでそのままにして訳を書きましたが、とりあえず内容の説明から始めますね。
先に述べたように、この曲のテーマは「君の認識の中にある世界は終わるけれど、これから良くなっていくだろう」ということにつきます。ただ、この作品の中で呼びかけられているYouも前章までで書いたように、やはりグリーンの中にある「道徳的な人格」の方でしょう。ラッパーの語るところとグリーンの歌う部分が交互に掛け合っている構造の曲だということをお忘れなく。つまり「誰の認識にある世界が終わるのか」は、当然このような歌詞においては特定されなければなりません。そしてそれは従来信じられて来た倫理を重んじようとしている人格に対してであって始めて、とって変わりつつある世界はもうその認識の範疇から出てしまう、終わると言えるのです。
We
got a warning here, coming at you loud and clear,
The world you
understand, is over and over and over,
It doesn't bother you,
Nothing else will
ever do for me,
I wish you were what you are,
The first day of fall, girl.
(ここに警告が来ている、大声で、はっきりと、君の認識の中にある世界は終わった、終わった、終わったと/君を惑わせはしないだろう、ぼくは他になにもいらない、君が君らしく在ることを!、崩壊のその始めに)、これも「きみ」が従来の「自我を殺しても他に奉仕する」というような倫理観を重んじている人格だからこそ、崩壊し始める世界においては自分らしく生きること、つまり自我を重んじる生き方をして欲しいと、もう一方の人格は言っているわけです。そしてそう言っている彼自身にとっては、Nothing
else will ever do for me(他の何もぼくの役には立たない)つまり、いまこれからの世界こそが、ぼくの欲しかったものである、と落ち着きます。ちなみに「I
wish you were what you are.」、これはwishに続く場合仮定法ですからwereになっているだけです。例えば「I
wish you were here.(君がここにいたらいいのに)」という使い方をする場合にも仮定法になりますよね。
さてぼくたち(We)に来ている警告(warning)であるにもかかわらず、coming
at you
(きみに向かってくる)なのは、一人の人間の中に、それを歓迎する人格と否定する人格があればこそ「世界が終わる」という同じ一つの事柄が、一方にはこの上ないことであり、一方にとっては「この世の終わり」と解釈される状況が生まれるのでしょう。「世界が終わる」というタイトルの曲なんですから、このfallも「秋」では、あまりにも意味を成さないのではありませんか。やはりここも「崩壊」つまり「世界の終わる時」と考えるのが妥当なように思われます。
また、「何か乗れるもの(あてに出来るもの)」、「世界が隠しておけないもの」、「神が決めたこと」、「心に留めておけること」を欲しい、と繰り返されますが、倫理観に支配されながら、実はもっと確信できることを求めているのが、この人格の基本の傾向であり、それに呼びかけているもう一方のグリーンはその「きみ」を「征服しようとして」ここにいるのだ、というフレーズに続きます。
更にこの作品の最後の方には
Time after time after history (history)
とあるように、「歴史」という言葉がはっきりと出ています。これをないがしろにしてはいけません。連綿と続いて来た、というよりも「繰り返されて来た」歴史の内容が、今まさに快方に向かいつつあると作者が認識しているからこそ、あえて「歴史」という言葉がここにあると考えられます。「歴史は繰り返す」と言いますが、今までの歴史は長いこと長いこと争いと戦争という同じ悲惨を繰り返して来たのです。今はそれを否定する時代に来ています。だからこそ、その意味でもこれから世界は良くなるだろうと、期待することも間違ってはいないでしょう。
さて、最後にEloise
and Ebelardについてですが、これは12世紀の学者であるピーター・アベラールとその恋人エロイーズのことではないかと思われます。私も何故ここに彼らが出てくるのか以前はなかなか特定出来なかったんですが、大体こうだろうなという仮説ということで聴いて下さい。簡単に説明しますとアベラールはエロイーズの家庭教師だったんですが、深く愛し合うようになってしまいながら結局おおっぴらには結婚出来ず、それぞれが修道院、尼僧院に分かれて神の道に救いを求めるようになります。で、その後もその想いを連綿と綴った手紙のやりとりをするんですが、単なるラヴレターみたいなものではなくて、ロマンティックなやりとりの中に二人の共有する宗教的信念とか認識とかについて切々と語られているというような内容らしいです。そしてペール・ラシェーズはパリにある有名な墓地のことなんですけど、二人はここに埋葬されていると言われます。このへんの史実から考えるに、多分グリーンは自分の中にある二人の人格が、既に墓場に葬られてしまった愛について今も延々とひっくり返しつづけている、つまり議論を続けているという状態にあることを表現したかったんじゃないかなと思うんですよね。この作品にしてもBAM
SALUTEやHere Come Julyなどにしても、その通りのことを彼は内面で続けているわけですから。たぶん間違ってはいないと思いますが、この部分は訳を書く限りにおいては、そのまま日本語にすれば良い部分ですので、特に問題はないと思います。あとは読者側の知識で、どう読み解くかに任せれば良いでしょう。
では訳を書いてみますね。特に注目すべき意味があるのはアンダーラインを引いた言葉ではないかと思います。
The World You
Understand ( is Over
& Over & Over)
RAPPER: And when you want that hip hop, beat bop, body rocking
Give me something I can ride and ride
GREEN: Something I heard
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Rapper
: Hip Hop, Beat Bop, Body Rocking 欲しいなら
何か乗れるものをおくれよ
Green
: ぼくが聞いたこと
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RAPPER: And when you want that hip hop, back beat, [42nd]
Give me something that the world can't hide
GREEN: Something you said
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Rapper
: Hip Hop, Back Beat, 42nd 欲しいなら
世界が隠しておけないものをおくれ
Green
: きみの言ったこと
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GREEN: I tell you who we are
Eloise and Ebelard
We turnin' Pere Lachaise
Over and over and over
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Green
: ぼくたちが誰だか教えてあげる
エロイーズとエバラードさ
ペール・ラシェーズをひっくり返してる
何回も何回もね
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RAPPER: And when you want that hip hop, beat bop, body rocking
Give me something that the gods decide
GREEN: Something I heard
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Rapper
: Hip Hop, Beat Bop, Body Rocking 欲しいなら
神が決めたことを教えて
Green
: ぼくが聞いたこと
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RAPPER: And when you want that hip hop, back beat, 42nd
Give me something I can hold inside
GREEN: Something you said
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Rapper
: Hip Hop, Beat Bop, Body Rocking 欲しいなら
心に留めておけることをおくれ
Green
: きみの言ったこと
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GREEN: I tell you who we are
Eloise and Ebelard
We turnin' Pere Lachaise
Over and over and over
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Green
: ぼくたちが誰だか教えてあげる
エロイーズとエバラードさ
ペール・ラシェーズをひっくり返してる
何回も何回もね
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I came to conquer you
Nothing else will ever do for me
I wonder what you are
The 4th of July, girl?
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ぼくは来た、君を征服するために
その他は何も役に立たない
君は何なんだろう
独立記念日かい?
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It will get better now (you know what I mean)
It will get better now
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良くなるさ(ぼくの言う意味がわかるだろう)
良くなるさ
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RAPPER:
And when you want that hip hop, beat bop, body rocking
Give me something that the world can't hide
GREEN: For nothing
RAPPER: Tomorrow
GREEN: Something I heard
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Rapper
: Hip Hop, Beat Bop, Body Rocking 欲しいなら
世界が隠しておけないものをおくれ
Green
: 何のためでもない
Rapper
: 明日
Green
: ぼくが聞いたこと
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RAPPER: And when you want that hip hop, back beat, 42nd
Give me something I can ride and ride
GREEN: Far away
RAPPER: For ever
GREEN: Something I said (better now)
Something you say (better now)
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Rapper
: Hip Hop, Back Beat, 42nd 欲しいなら
何か乗れるものをおくれよ
Green
: 遠くに
Rapper
: 永遠に
Green
ぼくが言ったこと(良くなるさ)
君が言うこと(良くなるさ)
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GREEN: We got a warning here
Coming at you loud and clear
The world you understand
Is over and over and over
(And over and over and over)
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Green
: ここに警告が来ている
大声で、はっきりと
君の認識の中にある世界は
終わった、終わった、終わったと
(終わった、終わった、終わった)
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It doesn't bother you
Nothing else will ever do for me
I wish you were what you are
The first day of fall, girl
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君を惑わせはしないだろう
ぼくには他の何も役に立たない
君が君らしく在ることを!
崩壊のその始めに
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(You know what I mean)
It will get better now (you know what I mean)
It will get better now (you know what I mean)
Better and better and better and better
It will get better now
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ぼくの言う意味がわかるだろう
良くなるさ(ぼくの言う意味がわかるだろう)
良くなるさ(ぼくの言う意味がわかるだろう)
良くなる、良くなる、良くなる
今から良くなるさ
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Time after time after history (history)
Better and better and better and better
It'll get better now
Time after time after you hear me (oh it'll get better now)
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歴史を重ね重ね重ね(歴史を)
良くなる、良くなる、良くなる
今から良くなるさ
何回も何回も、聞こえるかい(良くなるさ)
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Time after time after history (it'll get better now)
Time after time after you hear me
It'll get better now
It'll get better now
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歴史を重ね重ね重ね(良くなるさ)
きみがぼくの言うことに耳を貸すなら
良くなるさ
良くなるさ
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2003.7.13.改稿
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