前章までで、前置詞それぞれが持つ具体的な意味や用法は解説したと思いますが、ここではそのデータを元にして、前置詞の文中における使い方と、その文法的な役割りについて考えてみたいと思います。 1.前置詞の使い方 @) 前置詞には名詞(or代名詞の目的格)、もしくは名詞相等語が続く 前置詞は日本語の助詞、つまり所謂ところの「てにをは」に当たることは皆さんよくご存知だと思います。しかし、初心者の方が実際に使おうとする時に、表現しようとしている内容に対してどの前置詞を選ぶかと同じくらい悩むのが、前置詞の後に置く言葉の形ではないでしょうか。一般に前置詞には「名詞(or代名詞の目的格)、もしくは名詞相等語が続く」という原則がありますので、 ex) He walked to the City Hall. (彼は市役所へ歩いて行った) He arrived at Yokohama. (彼は横浜に到着した) He laughed at me. (彼は私を笑った) Would you please come with us? (我々と一緒に来て頂けませんか?) 基本的には以上のように使えば良いことになります。ちなみに、前置詞の後に続く言葉は「前置詞の目的語」と呼ばれます。
A) 前置詞の後に動詞を持って来たい時は動名詞にすればよい 上例のように単純な名詞(代名詞)がハマる時は難なく言えても、 There is nothing to prevent us from going. (我々が行くのを妨げるものは何もない) このように前置詞の後に「行く」という動詞的な意味を続けたい場合、名詞じゃないのにどーすればいいの? となってしまうことが多いのではないでしょうか。 ここで、ひとつ覚えておくと便利なのが「動名詞」と呼ばれるもので、これは「動詞 + ing」の形で名詞としての役割を果たすものです。つまり、意味は動詞的であっても文法上は名詞とみなされる形なので、前置詞の後に続けることができるわけですね。動名詞については後の章で詳しく解説しますが、ここでは「前置詞の後に動詞を持って来たい時は動名詞にすればよい」と覚えておきましょう。 ex) I had to bite my lips to prevent myself from laughing. (笑わずに済ませるためには、唇をかみ締めていなければならなかった) Recently we use CDs for learning foreign languages. (最近では、我々は外国語を学ぶのにCDを使う)
B) 変則的な語順になる場合 原則として前置詞の後には「名詞、代名詞、名詞相等語が続く」と書きましたが、これには例外もあります。 @ 疑問文で、疑問詞が前置詞の目的語になる場合 ex) What are you looking for? (何を探してるんですか?)
A 関係代名詞(その先行詞)が前置詞の目的語になる場合 ex) This is the house which he lives in. (これが彼の住んでいる家です)
B 形容詞用法の不定詞に前置詞が続く場合 ex) I need something to write with. (何か書くものが必要です)
C) to不定詞は例外的なものと認識する 以上の原則と例外を押さえておけば前置詞はかなり自由に使えるようになると思うんですが、やっかいなのが「to」という前置詞を使っているのに、その後に動詞の原形が続く「to不定詞」というものです。上の例にもありますが、 ex) There is nothing to prevent us from going. (我々が行くのを妨げるものは何もない) こういうヤヤコシイものがあるから、まだ文法全般をよく知らない初心者さんが「前置詞には名詞、もしくは代名詞が続く」などとゆー、文法書の単純な解説だけ見て実際の英文に立ち向かうと、ワケが分からなくなっちゃうんじゃないかと思うんです。でも実際、この「to不定詞」を導く「to」も立派な前置詞で、なのに不定詞の場合は必ず続くのは動詞の原形。 不定詞についても後の章で解説しますが、これはあくまで続く動詞とセットになって文中で名詞、形容詞、副詞の3種類の働きをするものなので、前置詞の原則とは別個の法則で存在しているものだと認識しておいて下さい。ちなみに例文の「to prevent」は「nothing」にかかっており、従ってこれは「不定詞の形容詞用法」ということになります。
2.前置詞の役割り 以上のように、前置詞は決して単独で用いられることはなく、「名詞(代名詞)、もしくは名詞相等語とセット」で文中に登場するわけですが、それではこれらは文法的にはどんな役割りを果たしているのでしょうか。 「前置詞+名詞」のようにセットで用いられるものを「句」と呼びますが、前置詞はこのように他の語と結びついて「句」になります。ちなみに「句」には名詞句、形容詞句、副詞句があり、それぞれ連語でひとかたまりの意味を示すものを指します。前置詞はこのうち形容詞句、副詞句を作るのに用いられ、以下のように使うことができます。 @) 形容詞句となる @ 限定用法 ex) A home without love is not a home. (愛のない家庭は家庭ではない) この場合は、名詞homeを修飾する形容詞として使われています。通常の形容詞の限定用法は名詞の前に置かれますが、形容詞句は原則として修飾する名詞の後に置かれる点に注意して下さい。これは句が連語の形を取るため長くなるからで、語呂の関係からくる英語的な習慣と言えます。 比較) His house has a beautiful garden. (彼の家には美しい庭がある) ・・・ beautiful はgarden を修飾 ⇔ He lives in a house with a beautiful garden. (彼は美しい庭のある家に住んでいる) ・・・ with a beautiful garden はhouseを修飾
A 叙述用法 形容詞句は通常の形容詞同様に、叙述用法でも用いられます。 ex) He's on duty now. (彼は現在、勤務中です。)・・・ 主格補語 I'm glad to find you in good health.(きみが健康と分かって嬉しい) ・・・ 目的格補語
A) 副詞句となる @ 動詞を修飾する ex) He goes to school by bus every morning.(彼は毎日バスで学校へ行く)
A 形容詞を修飾する ex) Her report is free from errors. (彼女の報告書には誤りがない)
B 他の副詞を修飾する ex) She lives far away from home. (彼女は故郷から遠く離れて暮らしている)
B)前置詞用法と副詞用法 これまでも、「ひとつの単語には一般に名詞用法、形容詞用法、副詞用法、接続詞用法など、いろいろな用法があり、どれとして使われているかは文中での働きを見て決定しなければならない」ということは折に触れて書いてきたと思うのですが、通常は前置詞として使われることの多い語にも、副詞としての働きを持つものもあり、用法が変わると意味や使い方も変わるので注意が必要です。 ex) May I keep my shoes on? (クツを履いたままで良いですか?)・・・ keep を修飾 His wife locked him out. (妻は彼を締め出した)・・・ locked を修飾 副詞用法になると上例のように単体で用いられる点に特徴があります。前置詞が名詞を導いて副詞句になる場合とは区別して覚えておきましょう。ちなみに、May I keep my shoes on? は、観光地などで土足で入って良いかどうか分からない時に是非を尋ねるのに使われる決まり文句です。
以上のような法則性は理解を助けるものになると思いますが、しかし、前置詞は文法的な線引きを元にしてリクツで使おうとすると、現実に即した英語らしい言い回しが難しくなってしまうものです。イディオムになって習慣的に使われている場合も多いので、初級〜中級の皆さんはニュアンスを掴むためにも例文をフレーズごと丸暗記するのが最も馴染める方法だと思います。 また、前置詞の数はそれほど多くはないので、各前置詞がどのような用法、意味を持っているか、大きな辞書で引いてみるのも前置詞を理解する大きな手がかりになります。用法ごとに区別して、辞書の例文を暗記するのもオススメですね。このような方法で、記憶したフレーズがある程度に蓄積してゆけば、文法的なリクツも難なく理解できるようになってきます。 では、これまでお話して来たような点に注意して、以下の日本語を英語に直してみて下さい。極力、日本語で考えず、イメージを自動的に英語にする努力をしましょう。もちろん、発音やイントネーションにも注意して下さい。すぐに言えなかった場合は正解例を見て記憶し、少し時間を置いてから言えるかどうか試してみます。これを何回か繰り返すうちに、日本語に対応した英語が難なく出てくるようになり、前置詞感覚も養われてゆくと思いますよ。
解答例5.put 〜 into ・・・= 「〜を・・・につぎ込む、投入する、投資する」 解答例7.keep 〜 from ・・・= 「〜を・・・から遠ざける、妨げる」 解答例10.「火曜日は決まって休みである」という場合は、このように現在形で良い。ただし、Tuesdays が複数形になっている点に注意。決まった休みではなく、「たまたま今度の火曜が休み」と言う場合は未来形を用いる。逆は「⇔ on duty」となる。 cf.) I'll be off duty next Tuesday. = I'll be off duty on Tuesday next. ・・・語順に注意
2008.8.11.+8.20.
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