学校英語では、根本的に「実際の英会話における頻出単語」の把握が全く甘いという杜撰なベースの上にカリキュラムを組み立てているので、従って「実際の会話で頻出する単語の用法をまず抑える」という意識もありません。この結果として参考書などでは、例えば漠然と「動名詞や不定詞は、動詞の目的語にもなる」とか、「これに当てはまる動詞には何があるか」という説明はしても、「具体的にどの動詞がどういう形の目的語を取るか」という方向では、ひとつひとつ細かなところまで分析をしない。 動詞の後に続く目的語は名詞ならそのままの形、代名詞なら目的格にするわけですが、「〜することを」のように動詞的な意味を持つ場合には、続くのが「動名詞(〜ing)」になるか「不定詞(to+動詞の原形/原型不定詞)」になるかは、先の動詞が何であるかによって決まってきます。つまり、ある動詞が目的語として「動名詞を取るか」、「不定詞を取るか」、「どちらも取るか」、「取るもので意味が変わるか変わらないか」、また、「動詞と不定詞の間に目的語を入れて、S+V+O+to不定詞の形で用いることが出来るか否か」、これらは習慣的に決まっていることなので、理詰めで処理できることではないということです。実際に使うのに一番必要なこの部分を具体的に教えずに、文法的解説しかしていなかったら、教えられる側はそこで理解がストップしてしまうのも当然で、これでは実際の英会話に役立てるどころではないでしょう。 ひとつ例を挙げてみます。 Have you finished writing the letter? (もう、手紙を書き終わりましたか?) この文で、"finish"の目的語は"動名詞writing"なわけですが、"finish"という単語はこのように動名詞しか目的語として取りません。つまり"Have you finished to write the letter?"とは原則として決して言わないのです。目的語に関する様々な用例は「研究篇1. 動詞の目的語」で詳しく解説しますが、このように単に"不定詞は動詞の目的語となる"という解説だけでは、不定詞を取れない動詞について、具体的にそれはどれかというところまでカバーできるわけがなく、甚だしくは生徒が"Have you finished to write the letter?"を誤りであることに気づくことすらできないという結果を生んでしまいます。こういった分析不足や説明不足が蓄積した結果として、日本でしか通用しない可笑しな「学校英語」が成り立っていると言っても良いかもしれません。 また、"不定詞/動名詞を目的語として取る動詞は何々である"と、その用例がある単語のみを列挙して覚えるというやり方も学校英語的だと思いますが、この覚え方では、ひとつの動詞を今まさに使おうとした場合、その動詞が何を目的語として取るのかを自分の知識から見出すまでに、いちいち覚えこんだ内容を検索してみなければならなくなります。それは例えばfinishを使おうとする時、 「動詞は不定詞や動名詞を目的語として取る→不定詞を取る動詞には何があったか→動名詞を取る動詞には何があったか」 こういう方向で検索して始めて、やっとfinishに続く目的語の形に辿りつくということでもあります。これが、日本人が英語を話そうとする時にスラスラゆかない大きな原因のひとつでもあるでしょう。しかし、"Have you finished writing the letter?"のように、finishを含む例文を覚えてしまっておけば、finishを使おうとする時に悩まず動名詞を続けることが出来ます。この場合は、逆にたとえ「動詞は不定詞や動名詞を目的語として取る」というリクツを知らなかったとしても、間違わずに使えることになりますね。これがまさに「英語感覚を養う」ということなのです。 「学校英語」を未だに擁護している側から見れば、「単語数はあまりにも多いので、全部を解説しきれない」と言いたいところかもしれませんが、ところがどっこい、まず必要なのは「頻出単語の用例」なので、システマティックな分析が必要な単語数は本来、ある程度限定されてくるものです。また、先にも書いたようにこういったことは習慣的に決まっていることであり、理論で詰めきれない部分だからこそ一つ一つの単語について押さえるより他ないのですが、こういった「基本の基本」をまず押さえることにより、日常会話ではかなり言いたいことは言えるようになりますし、その後は実際の英会話や英文にどんどん触れてゆく中で、知識は感覚的に増してゆくものです。そういう意味では「頻出単語を把握する」ということは、「実際的な英語への足がかりを築く」という意味で基礎として教えなければならないことでしょう。 つまり「カンタンな単語」ほど、バカにしてはいけないのです。基本的にそれもできなくて何をいったいどうしろというんです? 研究篇では、主にこういった具体的に押さえておかなければならない用例であるにも関わらず、通常の文法学習では把握しにくい部分を解説してゆきたいと思いますが、頻出する単語について、例えば上例のように目的語がどのように続くか押さえておけば、実際に何か言おうとする時に「この動詞、続くのは動名詞? 不定詞?」などと戸惑うことなく、さっと口にすることが出来ます。会話においては、このように"戸惑わずに口をついて出る"レベルにまでしておくことが大切なのです。
2008.10.4.-10.5. 2008.10.15.改稿
|