Return of an Eighties enigma

The Times- July  1999

Interview by David Sinclair

 

ザ・タイムズ - 1999年7月

インタヴュアー:デヴィッド・シンクレア

 

 

グリーン・ガートサイドがいきなり消息を絶ってしまったのは、リッチー・エドワーズやブルースの帝王ピーター・グリーンの場合と同じではなかったかもしれないが、それほどかけ離れてもいない事情がある。その背景はこうだ。

1980年代の終わりごろまでに、スクリッティ・ポリッティによるワード・ガール、アブソルート、そしてあの名作ウッドビーズ(プレイ ライク アリサ フランクリン)などの世界的ヒットを含む3枚のアルバムを世に送り出し、彼は突然私たちの目の前から姿を消した。ガールフレンドとも別れて、グループのメンバーにも何も告げなかった。ウェールズのウスクに戻って小さなコテージで暮らし、その後の9年間を自然の中を散策したり、地元のパブに出入りしたり、その他にはジャマイカン・ダンスホールやヒップホップのレコードを聴くといった日常に明け暮れていたらしい。

そうした世の中からすっかり隔絶した生活の中で、スターであることから逃げ出した彼は「ぼくの中でほんのかすかにまたいつかレコードを創る日がくるよ、という声がする一方で、やめとけ! できるもんか! 絶対やるべきじゃない! とよってたかって否定しようとするぼく自身がいる。コテージにはシンセやギターのラックが並んだ部屋もあったんだけれど、ドアを開けてその様子を見るだけでも、居たたまれない気分になったもんだよ」と言う。

幸運にもその小さな声が結局勝って、彼は前作プロヴィジョンから実に11年後、新しいレコードを作る気力を取り戻すことが出来た。そしてその新作アノミー&ボノミーは次の月曜日にリリースされる。

前作までと同じように、今回のアルバムもアメリカのR&Bから強い影響を受け、見事にソウルフルな仕上がりとなっている。けれども最も魅力的なのはやはり曲そのものだ。煌くような言葉とメロディの綾、それをあの軽々と高いキィまで伸びる、繊細でクリアな声で歌い上げている。

クリエイティヴな資質に恵まれた人たちに有りがちなように、グリーンもまたスターダムの過酷な現実にそぐわない人物であるようだ。1980年代において彼にとって最も問題だったのは、その小さな事で不安定になる精神性が、作品と自身の価値を不可分なものとして認識してしまっていたことによる。

「もしぼくの作品が悪い批評を受けたとすると、それをぼくはまともに受け止めてしまっていたんだ。ところが逆にいい批評をしてくれる人がいても、ぼくはそれをそのまま喜ぶことができない」そう言った彼は悲しそうだった。かつてパニックを引き起こしたことからくるステージ恐怖症もこうした問題に拍車をかけることになる。

「心配性なんだよ、ぼくは」そう言った彼の瞳はラップDJがかけているような大きなサングラスに隠され、指にはいくつものリングがはめられていて、唇にはピアス、それにあごひげというのが最近の彼のスタイルだ。

43年前カーディフに生まれたガートサイドは、幸福とは言い難い少年時代を送っている。彼の父親は船乗りで、その後セールスマンとして各地を転々としていたようだが、腕には裸の女とその下に”Man's Downfall”の伝説を彫った刺青をしているような男だった。母親の方は美容師でタイピストでもあり、二人はグリーンが12才の時に離婚している。そして彼にとってそれ以来、父親は死んだも同然で一度も会っていないと言う。

そうした中で彼は音楽と宗教や哲学の本にはまりこんでゆくことになる。青年共産党に参加し、その後リーズ・ポリテクニックにおいてファイン・アートを学ぶ。在学中の1977年、有名なセックス・ピストルズのコンサートに出かけ、終わる頃には自分のバンドを始める決心をしていた。

初期スクリッティはパンクという少々エキセントリックな立ち上がりをしたものの、その後1983年にはガートサイド、デヴィッド・ギャムソン(キーボード)、フレッド・メイハー(ドラムス)という、古典的な<宴Cンナッブにおさまり、ポップ界において、慎重ではあるけれども欠く事の出来ない足跡を残すべく活動を始める。

ガートサイドは彼の初期からのファンだったと言われるジョージ・マイケルとしばらく友人だったことがある。けれどもグリーン自身気がついていたように、彼と同じような形での成功は望めないことが明らかだった。その事に始めて気付いたのは、アメリカン・バンドスタンドというテレビ番組に出演しようとしている時だったと言う。「ディック・クラークと話しながらぼくが思っていたのは、ここで何をしてるんだろう、ってことだった。あの厚くメイクアップした顔でばかげた質問を投げつけられていて、いきなりはっきりわかったんだ。これはとんでもないことになってるってね。しかもぼくのコントロールできる範囲はとっくに超えている。そこからまっすぐハリウッドに戻って、出来る限り長く何も考えないように努力してたんだ」

そしてまたこの騒々しい世の中に戻ってくるにあたって、ガートサイドは待ち受けている落とし穴もそれを避ける術も以前よりずっとはっきり認識しているようだ。今度はまだあやふやではあるものの、ライヴをやるという気持ちでグループのリハーサルでさえ始めているらしい。

ところで彼の問題は、ゆわえるハムレット症候群のように物事を思いつめすぎることによるのだろうか。

「バランスが保てるのなら、自分をの中を覗き込むのは決して悪いことじゃないんだ。でも用心するに超したことはない。錯乱してくる前に自分を止めなきゃね。つまり足元に気をつけろってことだよ。」