SCRITTI POLITTI INTERVIEW

Rockin' On 1988.7.

ニューアルバムについてですが、かなり多くの人が前作と非常に似てると言ってるんですよね。

へえ、.....そんなこと言ってるの?

ええ。でも3年もたってるから、もっと変わってるはずだと思い込んでたんです。

うーん、...意図的に前作と違うようにしなかったと言った方がいいかもね。僕が昔ラフ・トレードから出したアルバムと「キューピッド&サイケ'85」は全然違った作品だったし、独特の面白さがあるなと思ったんだ。それじゃこの面白さをもっと発展させて、もう一枚アルバムを作ってみようって出来上がったのがこのニューアルバムなんだけど。だからそういう意味でなら前作と似たところが多いと言えるんじゃないかな。そりゃ自分では少しでも前作より変化のある質の良い作品だと思いたいよ。でも目を瞠るほどの違いじゃないしね。次のアルバムは皆をアッと言わせるくらい異質なものにするつもりさ。でも人々がそんなふうに感じてるなんて面白いね、自分では今君に言われるまで全然気づかなかったよ。.....うーん、言われてみれば似てるかもしれないなあ。

それでは前作と今作の一番大きな違いは何だと思いますか。

一番大きな違いねえ...。レコーディングのプロセスがまるっきり違ってたってとこかな? 「キューピッド&サイケ」の場合は最初からアルバムを作ろうとしたんじゃなくて、「ウッドビーズ」、「アブソルート」、「ヒプノタイズ」とシングル用の曲がドンドン先に出てきたんだ。今回は、こういう作品にしようというアイデアがすでにあったし、それに僕たちが一番やりたかったのは前作でやり始めたことを他の方向に向かう前に今作で完成させてしまうことだったんだよね。前作をベースにして色々な角度から品質向上を図ったつもりなんだけど。だから今後は絶対に違う方向に向かうべきだと自覚してるよ(笑)。

今回マイルス・デイヴィスが参加してますね。彼とはどの程度のお友達なのですか?

彼とは去年のクリスマス以来会ってないけど、人間に対して好き嫌いの激しい人だよね。だから一度気に入られるとすごく良くしてくれるし、その上色々な細かい所まで面倒見てくれたりね。

そもそも、どうやって知り合ったのですか?

彼が僕達の「パーフェクト・ウエイ」をカヴァーした時かな。それ以前は一度も会ったことなかったよ。それにしても電話をもらった時はこわかったなあ。あんな偉大な人から連絡があるなんて思いもしなかったからね。彼にかかったら僕なんて指先でチョイと首をハネられる程度の人間なんだし。

ところで、聞き手が貴方に要求してくることは気になりますか?

うん、すごく気になる。今まで君が僕にした質問のすべてがコワイよ。

(笑)

ホント、失禁してしまうくらいコワイんだってば。人の目に晒されるのって想像しがたい恐怖だよ。そういう風に感じないでいられるようにするには自信ってものが必要だと思うんだよね。僕は正直言って自分に対する自信って全然無いから...、人前に出てヒビらないで居られるには自己に対しての巨大な確信がなきゃダメなんだ。

じゃ、なぜオーディエンスの前に平気で立てるのかしら?

この仕事を選んだ人だったら、ぐずぐず考え始める前にガケから飛び降りる気分でやってる人が多いんじゃないかな? 僕の場合は自分が死ぬ程コワがってる時でも外見は平静でクールなフリをして最後まで通してしまうんだ、あまり成功する時ってないんだけど。それにしても恐怖だよね、人目に晒されるのって大っキライだよ。

それでは他人の感情や考え方に敏感でありながらも貴方のオブセッションである「愛」、「言葉」、それに「他の不確定な物」という非常にパーソナルな欲求を満たしていくのは難しいでしょうね。

なかなか質問の仕方がうまいね。(しばらく考え込んでから)うん、すごく難しいよ、他のミュージシャンのオブセッションが何か僕には想像も出来ないけど.....。

なぜそんなにまで不確定な物にこだわるんですか? 愛も言葉もまた、結局不確定な物ではありますけど。

なぜって、この世にある全ての物が未知数的、不確定的だからさ。確信できる物なんて一つも無いと思うよ。考えてみたら真実と思われてる事だって「じゃ君、確信できるか?」って言われて「うん、できる」って言い切れる物なんか何もありゃしないんだよね。

なんだか禅宗のお坊さんとお話してるみたいです。

そう?(笑)たぶんそうかもね。昔、マルクス主義なんかに深入りして政治や歴史、階級制度などの真実を捜そうと必死だったし。それに心理学にもすごく興味があったから、フロイトがやろうとした事の終着点を見つけようと努力したりもしたけど、結局確信できる物なんか全然ないと思ったんだ。だから「この世にある物は何も確信できないんだ、自分自身の事だって明日何が起きるか分かってないじゃないか」って人々に気付かせてあげたいだけさ.....、と口で言うのは簡単だけどね。でもこれを少しでも多くの人に伝えるのはすごく難しいよ。

そうですね。殆どの人がその事実から目をそらして生活してるのが現状ですもんね。

うん、多くの人がこの世はこんな物で、言葉とはこうあるべきで.....、って感じで.....、ね? 僕の言いたいこと分かるだろう? 自分の信念なんて絶対に信用すべきじゃないんだ。考えてみれば君や僕だってこの世の様々な歴史の産物に過ぎないんだし。もっと個人的な視点からいくと、どんな環境で生まれ育ったかで現在の君や僕が成り立っているんだから.....。

貴方は以前「ポップ・レコードを作るにはどうしてもある種のナイーヴさが必要だ」と言ってましたが、十年近くも生き馬の目を抜く音楽業界で生き残ってきた後でもそのナイーヴさを持ち続けるのが可能でしょうか?

うん、可能だよ。でも音楽をやる時は、ある種の無責任さ、自己中心的になるのを許さなきゃ出来ないものなんだ。もう殆ど子供みたいにね。どんな形の芸術であれ、何かを創造しようとしている時には完全に自己中心的ならなきゃダメさ。

ところで、昔の貴方はかなり政治色の強い詞を書いて自分の主張をストレートに表現してましたが、最近はそういう自分を表に出すやり方はしなくなりましたね。どうしてですか?

それは自分が政治的な曲を書くのかヘタだって気付いたからなんだ。聞くに値する品質のポリティカル・ソングを書くには、書いてる本人が政治に対してナイーヴさを持ってる人でなきゃダメなんだよね。例えばビリー・ブラッグなんかすごくそういう面でナイーヴな人間だから、あんないい詞が書けるんだと思うし.....(そうかしら?、と賛成しない私を見てつけ加える)、ある意味ではね。(また賛成しないので)分かったよ、分かったよ、じゃそれ程良い詞じゃないかも知れない。

(笑)

政治的に洗練された曲を書くのってすごく難しいんだよね。もう殆ど不可能に近いって感じで、他の理由は最近だんだん政治そのものに対しての確信が持てなくなってきたんだ。いや、確信が持てないと言うよりも、はっきりした信念が持てなくなってきたというか.....。

また不確定な物ですか? これは貴方のキー・ワードみたいですね。

(笑い)うん、まったくそうだね。僕のキー・ワードだ。