前章では、前置詞そのものにスポットを当てて用例をご紹介しましたが、今度は特定の動詞や形容詞と様々な前置詞がセットになって意味を作るイディオムで、特に頻出するものを挙げてみましょう。これらはセットになる前置詞次第で意味が変わってゆくので、体系立てて覚えておくと便利です。 ただし、イディオムを覚える時に皆さんはよく「look at = 見る」とか「deal with = 〜を扱う」とか、一般にイディオム単体で記憶しようとすることが多いと思いますが、中級程度の段階ではこういうズボラはいけません。フレーズになっている状態で頭にたたきこんでおくことが大切です。なぜならイディオム単体で記憶している場合、使おうとする時に頭の中で必ず「フレーズに組み立てる」という作業が一段階入ることになるので、そこで日本語も入ることになり、スムースに英語が出てこないことの原因になるからです。フレーズになっている状態ならそのまま単語を入れ替えて使えることと、「フレーズから思い浮かべる語のイメージ」が一緒に頭に入るので記憶に残り易いという利点があります。 なお、文法的なガイドラインを言えば、「同じ語源、意味を持つ語は、一般に同じ前置詞を取る場合が多い」と言えます。必ずしもそうとは限りませんが、例えばdiffer(異なる), different(異なった)は語源が同じで意味も同じですから、「〜と異なった」と言う場合の前置詞はどちらも「from」になります。また、be surprised, be astonished, be astounded, be frightened, be amazed, be startledなどはどれも「〜に驚く」という意味で前置詞「at」を取ります。しかし逆に、下の例文を見れば分かりますが、同じ語に同じ前置詞が付いても意味がまるっきり違う場合もあります。(ex. look for = 〜を探す / 〜を期待する ・・・ただ、これはどちらも「求める」という本質的な意味を持っていますから、「言葉の本質的な意味から連想して大意を掴む」ことが出来るようになってくると、いちいち日本語を覚えなくても英文の意図が理解できるようになってきます。) こういうことは沢山の英文を見ていると自然と分かってくることですが、文法的なガイドラインはひとつの目安として覚えておくと便利かと思います。しかし、「文法とは、実際に使われている多様な口語表現から、一定の法則性を見出してまとめたものにすぎない」ので、本当に英語を使いこなすために必要な知識を蓄えるのに必要なのは、はっきり言って根気です。文法が分かれば、英語が分かると思ってはいけません。
1.「look + 前置詞」
2.「hear + 前置詞」
※hear of / hear about は類語として扱われ、一般に互換性があります。ただ、「(知人の)消息を聞く、知る」という意味では「hear of」、「(未知の人や事柄)について聞く」という場合は「hear about」を使う傾向があるようですが、これは必ずしも明確に区別されているというわけではないようです。
3.「call + 前置詞」
※「call on」は比較的改まった言い方で「訪問する、お訪ねする」くらいの日本語にあたり、それほど堅苦しくない場合はvisitが使われます。また、「訪問する」の他にも「要求する」という意味があることも合わせて覚えておいて下さい。こちらもかなり改まった言い方です。 「call at」は人を訪問するcall on と対照的に、場所を訪問するとのみ解説している本もありますが、これに加えてイディオム本来の意味は「(ある場所に)ちょっと立ち寄る、(列車や船などがある場所に)停まる」という意味であることも覚えておきましょう。
4.「succeed + 前置詞」
5.「consist + 前置詞」
6.「deal + 前置詞」
※「〜を扱う」にも扱うものによっていろいろなニュアンスがあり、前置詞はin / with どちらも使われますが、特に「〜を商う」という意味での「〜を取り扱う」には「deal in」が使われます。「〜と取引がある」の場合は「deal with」です。
7.「wait + 前置詞」
※「Have you been waited on?」は、店員さんがお客さんに呼びかける決まり文句のひとつです。
8.「compare + 前置詞」
※一般に文法本では「compare with = 〜と比較する」、「compare to = 〜にたとえる」と教えることが多いようですが、これは実際にはwith / to どちらもそれぞれの場合に使われます。互換性ありとして記憶しておくと良いでしょう。これはおそらく、元々の英語では区別のあったものが、広範囲で英語が使われるようになるにつれて歴史的に混用されるようになっている例のひとつではないか思われます。従って、実用英語の観点からは、どちらを使っても問題ありません。 ただし、学校の試験ではこれを知らない勉強不足の英語教師にバツを付けられたりすることがあるので、「実際には既にどっちでもいいことだが、日本ではムダに区別されている」ということをふまえて、答案は注意深く書くようにしておきましょう(♪) なお、「A と B を比較する、A を Bにたとえる」と言う場合は、「compare A with (to) B」の語順になります。
9.「be angry + 前置詞」
※文法本には堂々と「be angry with + 人 / be angry at + 物事」と書いてあったりしますが、本当は「人」に怒る場合でwith も atも使えます。また、「物事」に対してはat の他にaboutやover も使えます。 このように前置詞には互換性があることが多いんですが、文法しか知らない(従って実用的な語学力のない)アホな英語教師がこういう文法本を鵜呑みにして、生徒が「I'm angry at him.」なんて英文を書くと平気でバツにしちゃったりするんですね。文法本を書いた方からしたら一般論を書いているのであって、「be angry at + 人」を間違いとは全く書いてないんですが、実際に沢山の英文を見ていなかったり、コンサイス級の辞書しか見たことがなかったりすると文法的な線引きを絶対と考えてしまうんでしょう。こういうのは「カン違い」とか「勉強不足」とか「考え、たりない」というレベルの世界なんですけど、これが歴史的に蓄積した結果として「日本でしか通じない学校英語」が成立してしまってるってことです。それを「学校英語は学校英語なんだ。実際の英会話とは違っててもこれでいいんだ」という開き直りに至っているのが現在の日本の学校を中心とした英語教育界ともいうべきでしょう。こんなのにつきあってて、英会話できるようになったらそれこそ不思議です。
10.「be tired + 前置詞」
「be tired from」か「be tired of」か、どちらを使うかは、これももうニュアンスの問題でしょう。例えば、「I'm tired of long overwork. 」とも言えるわけで、この場合は「長時間の働きすぎにはウンザリしている」という意味になります。単に疲れているだけか、嫌気がさしているかというニュアンスの違いですが、日常でこれを使うとしたら、どっちでも「しんどいよー」という含みは伝わるわけで、そうするとこの場合は絶対の線引きがあるというわけではありません。しかし、「I'm tired of you. (あんたにはウンザリなんだよ)」とは言えても、「I'm tired from you. 」は意味をなさないわけで、そのへんが前置詞のサジ加減というか、実際に使われる場面での微妙なニュアンスを理解していないと使いこなせない部分であると言えますね。イディオムを単体で記憶するだけで細かいニュアンスまで把握できるわけがなく、それゆえそれは間違った記憶方法と言えるのです。
以上、よく使われるものの中からまずは十語選んでみました。他にも沢山の例があるので、辞書を引いた時などにその動詞や形容詞がどんな前置詞とセットになって、どう意味が変わっているか、無理に覚えなくても良いのでちょっと見ておくと後々の参考になります。
2008.5.20. 基礎篇★その16.前置詞4.@)押さえるべき10の表現 <<
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